ザ・シンプル・ヒーローものたる第35作!
単純明快なアドベンチャーを楽しめるのは確かだが、どうしても物足りなさの残る一品であった。
本作は、映画『ドラえもん』シリーズ通算35作、リニューアルして丁度10作目というキリ番記念作。今回の題材はズバリ、“ヒーローもの”だ。ご存じ伝統ある日本の特撮ヒーロー文化、昨今のアメコミ映画の一大ブーム、『ドラえもん』と戦隊ヒーローの影響をもろにうけたディズニーの『ベイマックス』(14)の大ヒットと、俄然衰えぬ盛り上がりをみせている当ジャンル。そこに数々の世界のピンチを救ってきたアニメ界の英雄である我らが『ドラえもん』がどう切り込んだのか!?さぞ本家の横綱相撲をみせてくれるだろうとワクワクして劇場へ向かったのだが…!?
今、子供たちの間では、ヒーロー番組『ミラクル銀河防衛隊』が大ブーム。例にもれずのび太とドラえもんも夢中になっていたが、ジャイアンとスネ夫、しずかちゃんが二人をのけ者にして裏山で自主ヒーロー映画の撮影をしていることが判明。裏山に乗り込んだのび太とドラえもんは、ひみつ道具“バーガー監督”を使い、皆にコスチュームと特殊能力を与え、本格的な映画撮影を開始する。すると、その光景を丁度、地球に不時着していたポックル星の保安官アロンが目撃し、ドラえもんたちを本物のヒーローと勘違い。宇宙海賊に狙われた母星を救ってほしいと懇願する。ドラえもんたちはこれもてっきりバーガー監督が演出した撮影の一環だと思い込み、宇宙海賊を退治するべくポックル星に向かう羽目となるのだが…。
ストーリー自体は、『サボテン・ブラザーズ』(86)、『ギャラクシー・クエスト』(99)、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(08)よろしく、なんちゃってヒーローが本当の戦闘にかり出される定番パターン。本作もこの巻き込まれ方が自然で、すんなりと話に入っていけて安定感はある。若干、『のび太の大魔境』(82)とシチュエーションのかぶりが眼につくが、のび太たちが危険を犯して悪に立ち向かう決意を下すプロセスも実にスムーズだ。
『ミラ・クル・1』等、散りばめられた藤子・F・不二雄先生へのオマージュも凝っており、ファンはニヤリとすることうけあいである。
無闇な開発、近代化に対する警鐘も説教臭くなく、テーマの押しつけがないのもヨシ。
最後まで全てが分かり易くライトで、肩ひじ張らずに観ることはできよう。
それもその筈、監督が語るように、今回は対象年齢を小学校高学年までと想定、等身も下げられ線も普通になり、原点回帰ともいえるギャグ漫画のテイストを強く打ち出した内容となっている。
個人的には、このスタンスに疑問を覚えざるを得ない。これまでの映画作品はシリアスで奥深い社会派な内容でも、大人と子供双方が楽しんでいた。子供は蚊帳の外という訳では決してない。監督の「作品を一回、子供に返してやろう思った」という感覚自体、間違っているのでは…?子供の理解力をなめてはいけない。とすると、今回は大人だけを切り捨てたということになる。明らかに後退である。
ハッキリいって、本作程度の内容なら「TVでいいじゃん」と思ってしまう。藤子・F・不二雄先生が意気込んだ映画ならではのポジションは守るべきであろう。
よって、大人のファンとしてはパンチがなく、極めて肩すかしである。
色々と突っ込みどころはあるが、いくつか記すと、こういうストーリー形態の場合、ポイントは“いつ本物であることに気付くか”という点。本作は、ここが結構早いような気がする。普通の映画ならいざ知らす、ドラえもん一行なのだ。気付いたら後は、いつものノリに戻るだけで、本設定の妙味はなくなってしまう。これは失敗である。少なくともメンバーの何人かは勘違いを続けてもよかったのでは?
あと、伏線の張り方があざとすぎて、展開が丸わかりなのもいただけない。ほとんどの観客が、「あ、この“機能”はクライマックスで利用するな」とピンとくるトホホぶり。裏をかいてくれたら気持ちよかったのだが、それもなし。分かり易さというか、単なる脚本の手抜きであろう。
のび太たちの個性を活かしたというヒーロー特性も「?」がつきまとい、それぞれの見せ場も上手く起用していない。
敵が全然怖くない安全仕様のぬるさも、ドキドキ感を奪っている。そもそも勧善懲悪の絶対悪を狙ったという割には、ポックル星の住人を言葉巧みに丸め込む狡猾さで、具体的に弾圧などしないインテリ集団と妙に生臭い。(幹部ハイドの声をあてた“爆笑問題”の田中裕二の達者ぶりには感心したが…)わざわざ市川正親を声優に起用しながら、ラスボスのしょぼさは特筆モノだ。あそこは二段構えがセオリーであろう。
子供向けを謳いながら、熱いエンタメの構成にしていないのだから、本当に理解に苦しむ。少し笑える部分はあるものの終始、盛り上がらないまま映画は終了。う~ん…。
長い歴史の中にこういう失敗作はあってもいいかもしれない。でも『STAND BY ME ドラえもん』(14)で改めて人気に火がついた後の、重要な時期にこれはまずいのではなかろうか…。
寺本幸代監督の次のオリジナル作に期待したい。
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング
単純明快なアドベンチャーを楽しめるのは確かだが、どうしても物足りなさの残る一品であった。
本作は、映画『ドラえもん』シリーズ通算35作、リニューアルして丁度10作目というキリ番記念作。今回の題材はズバリ、“ヒーローもの”だ。ご存じ伝統ある日本の特撮ヒーロー文化、昨今のアメコミ映画の一大ブーム、『ドラえもん』と戦隊ヒーローの影響をもろにうけたディズニーの『ベイマックス』(14)の大ヒットと、俄然衰えぬ盛り上がりをみせている当ジャンル。そこに数々の世界のピンチを救ってきたアニメ界の英雄である我らが『ドラえもん』がどう切り込んだのか!?さぞ本家の横綱相撲をみせてくれるだろうとワクワクして劇場へ向かったのだが…!?
今、子供たちの間では、ヒーロー番組『ミラクル銀河防衛隊』が大ブーム。例にもれずのび太とドラえもんも夢中になっていたが、ジャイアンとスネ夫、しずかちゃんが二人をのけ者にして裏山で自主ヒーロー映画の撮影をしていることが判明。裏山に乗り込んだのび太とドラえもんは、ひみつ道具“バーガー監督”を使い、皆にコスチュームと特殊能力を与え、本格的な映画撮影を開始する。すると、その光景を丁度、地球に不時着していたポックル星の保安官アロンが目撃し、ドラえもんたちを本物のヒーローと勘違い。宇宙海賊に狙われた母星を救ってほしいと懇願する。ドラえもんたちはこれもてっきりバーガー監督が演出した撮影の一環だと思い込み、宇宙海賊を退治するべくポックル星に向かう羽目となるのだが…。
ストーリー自体は、『サボテン・ブラザーズ』(86)、『ギャラクシー・クエスト』(99)、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(08)よろしく、なんちゃってヒーローが本当の戦闘にかり出される定番パターン。本作もこの巻き込まれ方が自然で、すんなりと話に入っていけて安定感はある。若干、『のび太の大魔境』(82)とシチュエーションのかぶりが眼につくが、のび太たちが危険を犯して悪に立ち向かう決意を下すプロセスも実にスムーズだ。
『ミラ・クル・1』等、散りばめられた藤子・F・不二雄先生へのオマージュも凝っており、ファンはニヤリとすることうけあいである。
無闇な開発、近代化に対する警鐘も説教臭くなく、テーマの押しつけがないのもヨシ。
最後まで全てが分かり易くライトで、肩ひじ張らずに観ることはできよう。
それもその筈、監督が語るように、今回は対象年齢を小学校高学年までと想定、等身も下げられ線も普通になり、原点回帰ともいえるギャグ漫画のテイストを強く打ち出した内容となっている。
個人的には、このスタンスに疑問を覚えざるを得ない。これまでの映画作品はシリアスで奥深い社会派な内容でも、大人と子供双方が楽しんでいた。子供は蚊帳の外という訳では決してない。監督の「作品を一回、子供に返してやろう思った」という感覚自体、間違っているのでは…?子供の理解力をなめてはいけない。とすると、今回は大人だけを切り捨てたということになる。明らかに後退である。
ハッキリいって、本作程度の内容なら「TVでいいじゃん」と思ってしまう。藤子・F・不二雄先生が意気込んだ映画ならではのポジションは守るべきであろう。
よって、大人のファンとしてはパンチがなく、極めて肩すかしである。
色々と突っ込みどころはあるが、いくつか記すと、こういうストーリー形態の場合、ポイントは“いつ本物であることに気付くか”という点。本作は、ここが結構早いような気がする。普通の映画ならいざ知らす、ドラえもん一行なのだ。気付いたら後は、いつものノリに戻るだけで、本設定の妙味はなくなってしまう。これは失敗である。少なくともメンバーの何人かは勘違いを続けてもよかったのでは?
あと、伏線の張り方があざとすぎて、展開が丸わかりなのもいただけない。ほとんどの観客が、「あ、この“機能”はクライマックスで利用するな」とピンとくるトホホぶり。裏をかいてくれたら気持ちよかったのだが、それもなし。分かり易さというか、単なる脚本の手抜きであろう。
のび太たちの個性を活かしたというヒーロー特性も「?」がつきまとい、それぞれの見せ場も上手く起用していない。
敵が全然怖くない安全仕様のぬるさも、ドキドキ感を奪っている。そもそも勧善懲悪の絶対悪を狙ったという割には、ポックル星の住人を言葉巧みに丸め込む狡猾さで、具体的に弾圧などしないインテリ集団と妙に生臭い。(幹部ハイドの声をあてた“爆笑問題”の田中裕二の達者ぶりには感心したが…)わざわざ市川正親を声優に起用しながら、ラスボスのしょぼさは特筆モノだ。あそこは二段構えがセオリーであろう。
子供向けを謳いながら、熱いエンタメの構成にしていないのだから、本当に理解に苦しむ。少し笑える部分はあるものの終始、盛り上がらないまま映画は終了。う~ん…。
長い歴史の中にこういう失敗作はあってもいいかもしれない。でも『STAND BY ME ドラえもん』(14)で改めて人気に火がついた後の、重要な時期にこれはまずいのではなかろうか…。
寺本幸代監督の次のオリジナル作に期待したい。
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング