Quantcast
Channel: 相木悟の映画評
Viewing all articles
Browse latest Browse all 113

『映画 暗殺教室』 (2015)

$
0
0
猛毒たっぷり、ハートフル教育エンタメ!ではあるのだが…!?



決して面白くない訳ではなく、ケレン味ある演出で最後まで楽しめはするのだが…、どうしても失敗点だけが眼につく不遇な一作であった。
本作は、『週刊少年ジャンプ』で連載中の同名人気漫画の実写映画化。作者の松井優征氏は、異色作『魔人探偵脳噛ネウロ』でスマッシュ・ヒットを飛ばした個性派であり、僕も大好きな漫画家さんだ。本原作も初回から特大インパクトを放ち、ずっと愛読していたのだが…、最近は連載が長引くにつれて、少々ダレ気味。作者の宣言通り、きちんとした結末は用意されているとは思うのだが、出オチな内容だけにテンションが下がってきた感は否めない。それが今ここにきてのTVアニメや映画化の猛プッシュに、戸惑うばかり。氏の作風からして、メディア化は完結まで待つべきでは?そもそも悪ノリ加減が実写化には向いていないのでは?寒いことにならないか?数多の不安がよぎりまくる中、スクリーンに集中したのだが…。

マッハ20で空を飛び、不死身の身体を持ち、月の7割を破壊するパワーを備える謎のタコ型生物が地上に襲来。謎の生物は「来年の3月に地球を破壊する」と宣言し、なおかつ進学校、椚ヶ丘中学校3年E組の担任教師になることを希望する。当クラスは落ちこぼればかりを集め、辺鄙な旧校舎に隔離された通称“エンドのE組”であった。
政府は仕方なく、E組の生徒たちに謎の生物の暗殺を依頼。戸惑う生徒たちであったが、成功報酬100億円と地球を守るため、謎の生物を“ころ先生”と名付け、学校生活をおくりながら手を変え品を変え、暗殺を試みるのだが…。

脚本をもっと練る時間はなかったのだろうか?CGより何よりも、真っ先に優先すべきが脚色作業であるのは、ピクサー作品等で自明の理の筈なのだが…。
とかく前半の凄まじいダイジェスト感が興を削ぐ。主人公、渚(山田涼介)の簡潔なナレーション紹介を皮切りに、凄腕殺し屋のビッチ先生(知英)、問題児の赤羽カルマ(菅田将暉)、自律思考固定砲台(橋本環奈)、謎の力をもつ転校生イトナ(加藤清史郎)、防衛省出身の胡散臭い体育教師の鷹岡(高嶋政伸)と、濃い刺客キャラが次から次へと登場する怒涛の展開。ただでさえクセのある世界観なのに、もはや作中に入り込む隙がない。観る者は、ただ傍観者と化す。
しかも、各エピソードが、やってること自体は超生物“ころ先生”を相手どる超絶バトルなのに、(クライマックス含め)決着の仕方がどれもこれもしょーもないのだから何をかいわんや。

その隙間に一応、ヒエラルキーの批判や、教育とは何ぞや?という社会派命題を、“暗殺”という人道上、教えてはならない教育分野から投げかけ、結果、“ころ先生”と生徒たちが、理想の先生と生徒の関係になっていく反転の発想を提示。皮肉たっぷりに正統なメッセージを問いかける訳だが、如何せん情報量と謎が多く、進行が忙しなさ過ぎて、一向に響いてこない。語り口が整理されていないがゆえである。
願望としては、原作初期の人心の闇がドロリとはみ出たような緊張感あるブラックユーモアを捉えて欲しかった。そこがこの作者の味なのだから。現在のなあなあになってしまったヌルイ部分を映画化した按配であり、造り手が原作の本質を捉えていない証拠であろう。

“ころ先生”のCGも違和感があるような、ないようなフワフワした感覚であり、どちらかというとアニメと合成された『ロジャー・ラビット』(88)な印象である。この微妙さは、本作の中途半端な作風に幸か不幸か合致している。声優(試写の段階では、誰があてたのか秘密)の妙演に幾分救われていた。
他の役者陣は、若干老けてはいるが副担任の烏丸役の椎名桔平の安定感、菅田将暉や高嶋政伸の怪演、橋本環奈の技アリの使い方と、深夜ドラマ『49』(13)から密かに眼をつけていた茅野カエデ役の山本舞香の可愛さ等々、悪くはないが皆熱がない。他のミスキャストについては、あえて何もいうまい。
全体的にやっつけでつくったような軽さが、ついつい匂う。

特に物申したいのが、ストーリーのまとめ方。上記した如くファンは、どうやって未完の原作をまとめるかに興味津々な筈である。それが本作、残り10分になって、つい時計を確認し「どうやってまとめるんだ?」と不安にかられたが、これが取ってつけたようなお粗末なラストであった。原作と共謀したちょっとしたサプライズがあるものの、基本的には「to be continued」である。真相は何も明かされず、物語は何も解決していない。
最近、何度も記しているような気がするが、こういう場合、「第1章」なり何なり銘打つべきであろう。いい加減、観客を騙すような卑怯な手段にうんざりである。
要するに、ひとつの作品としては評価不可能ということである。

あとエンドロールでは、羽住英一郎監督のお得意の“アレ”が性懲りもなく行われていた。個人的には、現実に引き戻されて興醒めするので心底やめてほしい。一体あんなモノをみせて、何を表現したいのか。意図が全くわからない。


↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ
にほんブログ村

人気ブログランキング

Viewing all articles
Browse latest Browse all 113

Trending Articles