個人レベルから宇宙規模へ、深遠なるラブ・ストーリー!
導き出すのは、ひとつのセオリー。一筋縄ではいかない恋愛感情を知的に切りとった珠玉の一品であった。
量子宇宙論の形成に多大な影響を及ぼした理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士。若くして難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、身体の自由を奪われながらも研究に邁進した“車椅子の科学者”として有名な当博士。本作は、そんな博士の最初の妻ジェーンの回想録を基にした伝記ドラマだ。
2014年度の賞シーンでは『イミテーション・ゲーム』と期せずして天才学者対決となり話題となったが、結果、前者が脚色賞、本作が主演男優賞を獲得する痛み分け(?)となった。
はたして『マン・オン・ワイヤー』(08)といったユニークなドキュメンタリーで手腕を発揮してきたジェームズ・マーシュ監督が、如何なるアプローチで天才の恋愛を紡いだのか?興味津々でスクリーンに臨んだのだが…!?
1963年イギリス。ケンブリッジ大学で理論物理学を学ぶスティーヴン・ホーキング(エディ・レッドメイン)は、友人と参加したパーティーで、中世のスペイン詩を専攻する女性ジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)と出会う。惹かれ合った二人はデートを重ね、恋人同士になる。やがてホーキングはペンローズの“特異点理論”の宇宙への適用を閃き、公私共に順調に進むかにみえた矢先、肉体に異変が起こる。歩行が困難になる等、麻痺症状が表れたのだ。検査の結果、ALSと診断され、治療法はなく余命2年の宣告をうける。ショックを受けて引きこもり、ジェーンとも距離をおくホーキング。しかし事情を知ったジェーンは、ホーキングと結婚し、共に人生を歩む決意をみせて…。
冒頭から、オタクに見せかけたイケメンのホーキング青年と、超絶キュートなジェーンとの初々しい恋愛模様が綴られていく。もう赤面モノのベタベタ展開である。
ところがどっこい、ホーキングが病に倒れ、ジェーンがそんな彼を受け入れ、苛酷な人生を選ぶ決意をみなぎらせる段階から甘いムードは一転。献身的なジェーンと病と戦いながら研究に没頭するホーキングの信念のドラマへとなだれ込む。
ただ、このまま普通にやれば、障がいのある夫を支えた妻の美談となるところを、そうはならないのが本作の妙である。
やはり現実問題、死を免れ、麻痺が進むホーキングの介護をしつつ、生まれた二人の子供の面倒もみて、さらに自身の詩の研究という夢を犠牲した経緯を顧みると、ジェーンの心身が疲弊し、限界がくるのもさもありなん。そこに優しく、援助もしてくれ、なおかつ未婚という都合のいい男性ジョナサン(チャーリー・コックス)が出現。ジェーンの心が揺らぐのも、致し方ナシであろう。
最近はロマコメのハッピーエンド後の物語、結婚生活のシビアな現実をえぐったヘビーな作品も多くつくられ、未婚者の希望を奪ってきた。本作もその部類ではあるのだが、不思議と嫌な気はしない。むしろ、純愛モノのさわやかさを維持している。
もちろん劇中の二人は、変わりゆく関係性に悩む。でもそこは宇宙的スケールのセオリーを見出そうとするホーキング博士とその妻。まさにマクロとミクロ。人間二人が幸福になるセオリーをも図り、核を揺るがせはしない。その姿勢は、実に清々しい。いわば、上記ジャンルの別次元を示した新スタイルといえよう。無論、これはホーキングとジェーンだからこそ成しえた唯一無二のストーリーだ。
とはいえ、ピックアップされる問題は誰しも思い当たる庶民感情ばかりであり、節々で下す二人の決断はホロリと泣ける。
監督のドキュメンタリーで培ったのであろう当時代の美術や衣装といった完璧な再現感覚の説得力も見応えたっぷり。過度な演出を廃した引いた視線や、前半とムードを変える精緻な計算に唸りに唸る。
何より、ホーキング博士になりきったエディ・レッドメインの熱演は、圧巻の一言だ。挙動不審なオタク・ボーイの風貌から、身体の自由が徐々にきかなくなっていくプロセスのリアルさ。果ては、口すらきけなくなり、表情だけで全てを伝える芝居の高度さは神がかっている。下ネタ好きで子供っぽいユーモアを失わないチャーミングな魅力もきちんと表現。あまりに自然体で、観る者を作品世界にスムーズに取り込んでしまう。
ジェーン役のフェリシティ・ジョーンズの可愛らしさも特筆モノ。どんどん追い込まれつつも立ち向かう、凛とした感情表現の繊細さもさることながら、60~80年代の英国ファッションをコケティッシュに着こなし、経年変化もちゃんとみせた演技力に脱帽だ。エディ君が活きたのも、受けとめる彼女があってこそ。彼女の好演を最大限に評価したい。
若干、観客の共感を優先した為に、ホーキング博士の独創的な偉業についての描写に物足りない部分もある。といいつつ、そこがメインに描かれることはないものの、博士の研究内容をもっと予習しておけばよかったという悔いは残った。別段、知らなくても支障はないが、劇中には博士の研究内容が象徴的に色々と散りばめられている。ことさら、時間に関する研究については、時空を操る映画芸術ならではの表現で、最後に深い感動与えることに成功していよう。
なんともはや、存命中の著名な人物をモデルにしながらの強かな作劇に唸る。
げに知的な大人のラブ・ストーリーである。
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導き出すのは、ひとつのセオリー。一筋縄ではいかない恋愛感情を知的に切りとった珠玉の一品であった。
量子宇宙論の形成に多大な影響を及ぼした理論物理学者スティーヴン・ホーキング博士。若くして難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、身体の自由を奪われながらも研究に邁進した“車椅子の科学者”として有名な当博士。本作は、そんな博士の最初の妻ジェーンの回想録を基にした伝記ドラマだ。
2014年度の賞シーンでは『イミテーション・ゲーム』と期せずして天才学者対決となり話題となったが、結果、前者が脚色賞、本作が主演男優賞を獲得する痛み分け(?)となった。
はたして『マン・オン・ワイヤー』(08)といったユニークなドキュメンタリーで手腕を発揮してきたジェームズ・マーシュ監督が、如何なるアプローチで天才の恋愛を紡いだのか?興味津々でスクリーンに臨んだのだが…!?
1963年イギリス。ケンブリッジ大学で理論物理学を学ぶスティーヴン・ホーキング(エディ・レッドメイン)は、友人と参加したパーティーで、中世のスペイン詩を専攻する女性ジェーン(フェリシティ・ジョーンズ)と出会う。惹かれ合った二人はデートを重ね、恋人同士になる。やがてホーキングはペンローズの“特異点理論”の宇宙への適用を閃き、公私共に順調に進むかにみえた矢先、肉体に異変が起こる。歩行が困難になる等、麻痺症状が表れたのだ。検査の結果、ALSと診断され、治療法はなく余命2年の宣告をうける。ショックを受けて引きこもり、ジェーンとも距離をおくホーキング。しかし事情を知ったジェーンは、ホーキングと結婚し、共に人生を歩む決意をみせて…。
冒頭から、オタクに見せかけたイケメンのホーキング青年と、超絶キュートなジェーンとの初々しい恋愛模様が綴られていく。もう赤面モノのベタベタ展開である。
ところがどっこい、ホーキングが病に倒れ、ジェーンがそんな彼を受け入れ、苛酷な人生を選ぶ決意をみなぎらせる段階から甘いムードは一転。献身的なジェーンと病と戦いながら研究に没頭するホーキングの信念のドラマへとなだれ込む。
ただ、このまま普通にやれば、障がいのある夫を支えた妻の美談となるところを、そうはならないのが本作の妙である。
やはり現実問題、死を免れ、麻痺が進むホーキングの介護をしつつ、生まれた二人の子供の面倒もみて、さらに自身の詩の研究という夢を犠牲した経緯を顧みると、ジェーンの心身が疲弊し、限界がくるのもさもありなん。そこに優しく、援助もしてくれ、なおかつ未婚という都合のいい男性ジョナサン(チャーリー・コックス)が出現。ジェーンの心が揺らぐのも、致し方ナシであろう。
最近はロマコメのハッピーエンド後の物語、結婚生活のシビアな現実をえぐったヘビーな作品も多くつくられ、未婚者の希望を奪ってきた。本作もその部類ではあるのだが、不思議と嫌な気はしない。むしろ、純愛モノのさわやかさを維持している。
もちろん劇中の二人は、変わりゆく関係性に悩む。でもそこは宇宙的スケールのセオリーを見出そうとするホーキング博士とその妻。まさにマクロとミクロ。人間二人が幸福になるセオリーをも図り、核を揺るがせはしない。その姿勢は、実に清々しい。いわば、上記ジャンルの別次元を示した新スタイルといえよう。無論、これはホーキングとジェーンだからこそ成しえた唯一無二のストーリーだ。
とはいえ、ピックアップされる問題は誰しも思い当たる庶民感情ばかりであり、節々で下す二人の決断はホロリと泣ける。
監督のドキュメンタリーで培ったのであろう当時代の美術や衣装といった完璧な再現感覚の説得力も見応えたっぷり。過度な演出を廃した引いた視線や、前半とムードを変える精緻な計算に唸りに唸る。
何より、ホーキング博士になりきったエディ・レッドメインの熱演は、圧巻の一言だ。挙動不審なオタク・ボーイの風貌から、身体の自由が徐々にきかなくなっていくプロセスのリアルさ。果ては、口すらきけなくなり、表情だけで全てを伝える芝居の高度さは神がかっている。下ネタ好きで子供っぽいユーモアを失わないチャーミングな魅力もきちんと表現。あまりに自然体で、観る者を作品世界にスムーズに取り込んでしまう。
ジェーン役のフェリシティ・ジョーンズの可愛らしさも特筆モノ。どんどん追い込まれつつも立ち向かう、凛とした感情表現の繊細さもさることながら、60~80年代の英国ファッションをコケティッシュに着こなし、経年変化もちゃんとみせた演技力に脱帽だ。エディ君が活きたのも、受けとめる彼女があってこそ。彼女の好演を最大限に評価したい。
若干、観客の共感を優先した為に、ホーキング博士の独創的な偉業についての描写に物足りない部分もある。といいつつ、そこがメインに描かれることはないものの、博士の研究内容をもっと予習しておけばよかったという悔いは残った。別段、知らなくても支障はないが、劇中には博士の研究内容が象徴的に色々と散りばめられている。ことさら、時間に関する研究については、時空を操る映画芸術ならではの表現で、最後に深い感動与えることに成功していよう。
なんともはや、存命中の著名な人物をモデルにしながらの強かな作劇に唸る。
げに知的な大人のラブ・ストーリーである。
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