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Channel: 相木悟の映画評
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『ジュピター』 (2015)

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ウォシャウスキー姉弟が放つ壮大でチープなSF絵巻!



ティーン向けと頭を空に割り切って臨めば、シンプルに楽しめるスペース活劇ではあった。
本作は、SF映画界の奇才ラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟監督作。『マトリックス』シリーズ以来となるオリジナルストーリー!という謳い文句からも分かる通り、いまだに当作のインパクトに縛られている当姉弟。以降の迷走ぶりはいわずもがな。本作においても、過去の遺恨からか批評家を呼ばずにサンダンス映画祭でサプライズ上映を敢行。思わず観客の不評を浴び、のっけから躓いてしまった。結果、興行も振るわず、早々と失敗の烙印を押されている本作。でも個人的にはB級のノリが嫌いではない分、拾い物を期待して劇場へ向かったのだが…!?

アメリカ、シカゴ。清掃員として働くジュピター(ミラ・クニス)は、貧しいながらも母と親戚の家に居候し、平穏な日々を送っていた。ところがある日、謎の異星人の襲撃をうけたことから生活は一変。間一髪、ピンチを救ってくれた男ケイン(チャニング・テイタム)は説明する。宇宙で最も権威ある王朝の女王が亡くなり、現在、3人の子供たち、バレム(エディ・レッドメイン)、タイタス(ダグラス・ブース)、カリーク(タペンス・ミドルトン)が王位継承を争っている。しかし女王の遺伝子をもつジュピターの存在が発覚し、順当にいけば生まれ変わりである彼女が即位する運びとなる。それを阻止するべくバレムは刺客を送り込み、逆にケインは護衛するようタイタスに雇われたという。あまりに突飛な事態を飲みこめないジュピターであったが、刺客は手を緩めず次々に訪れ、やがては宇宙を飛び回る大騒動に巻き込まれていき…。

はじめにいっておくと、ヴィジュアル面に関しては、さすがウォシャウスキー姉弟。独創性、真新しさこそないが、反重力ブーツといったガジェットの造り込み、市街地の破壊アクション、各惑星の威容、宇宙船や王宮の荘厳な美術と衣装デザイン等々、観る者を圧倒するクオリティを誇っている。スクリーンで鑑賞する価値は充分あろう。

そこに、価値観をひっくり返すストーリーの仕掛け、宗教神話を絡めた寓意性といった作劇の妙が融合したのが、革命作『マトリックス』(99)であった。ただ、マッチングをしくじると、どれだけの惨事になるのか、本作を観ればよく分かる。
本作においても、主人公の謎めいた出生、これまでの常識が一変してしまう巨大な力が作用した想像も及ばない世界の裏側(人類起源)、シェイクスピアのような格差恋愛&陰謀劇、等々、姉妹らしい示唆に富んだ様々な意匠が凝らされてはいるのだが…、残念ながら総じてスベってしまっており、チープこの上ない。

まず、狙ってやったのかと思うほど主役コンビの悪ふざけが過ぎよう。
訳アリの下級戦士ケインに、ヒーローとしての魅力がないのが致命傷である。全然似合っていない濃いメイクと、狼の遺伝子が加味されたという中二設定の成果が“とんがり耳”だけという無駄加減に脱力を禁じえない。演じるチャニング・テイタムは、せっかく『フォックスキャッチャー』(14)で演技派として株を上げたのに、すぐさま暴落である。不憫で仕方ない。
ジュピター役のミラ・クニスも存在感が軽くコメディに見えて、どうも真に迫ってこない。本役はもっとフレッシュな人材を起用するべきであった。
他、ペ・ドゥナ、ショーン・ビーンも出てくるが、かなしいほど活きていない。
一番、割をくったのは、悪役バレムを演じたエディ・レッドメインだ。気持ち悪い怪演ぶりは認めたいが、キャラがあまりに薄っぺらい。ポストプロダクションの遅れで彼のオスカー受賞後に公開された経緯は、本作にとっては有利に働いたが、彼にとっては不幸でしかあるまい。

主役コンビがたっていないばかりか、筋運びも問題である。敵にジュピターが捕らわれて、ケインが助ける、というワン・パターンの芸のなさ。ジュピターが落下して、ケインが拾う繰り返しに辟易した。終始ワクワクドキドキしない。

高度なヴィジュアルとやってることの幼稚さとのギャップの凄まじさに頭クラクラである。もしかしたら、アニメに造詣の深いウォシャウスキー姉弟のこと、わざとこういう風につくっているのかもしれない。
となると、こちらも見方を変えねばなるまい。なるほど、完全におバカ映画に接する心持ちで捉えれば、姉弟は莫大な予算でB級を撮ってくれる貴重な存在に思えてくる。これはこれで魅力であろう。
次があるか分からないが、カルト映画ファンたちよ、ウォシャウスキー姉弟を大切にしようではないか。


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