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Channel: 相木悟の映画評
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『マジック・イン・ムーンライト』 (2014)

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魔法とマジックに心躍りし、ロマンティック・コメディ!



デートに最適!ウディ・アレンのほくそ笑む顔が浮かぶような小粋なラブ・ストーリーであった。
本作は、サラリーマンのごとく映画製作のノルマを自らに課し、年一本コンスタントにメガホンをとり続けている名匠ウディ・アレンの2014年度ムービー。熟練の技術で送り出される作品群は、小品ながら佳作揃いで、たまに『ミッドナイト・イン・パリ』(11)や『ブルージャスミン』(13)といった賞レースを賑わす傑物が飛び出すのだから油断禁物。
そんな中、本作はといえば、評価&興行共に箸休めの部類に入ろうが、そこはウディ・アレン。こうした目立たない一作の中にこそ、馴染み客が舌鼓をうつ信用の味があるのも確か。はたして今宵は、どんな味を提供してくれたのか…!?

1928年。英国人マジシャンのスタンリー(コリン・ファース)はベルリンで、怪しい中国人に化けて見事なマジック・ショーを披露し、喝采を浴びていた。そんな彼のもとに旧友のハワード(サイモン・マクバーニー)が訪ねてくる。ハワードいわく、南仏のとある大富豪がアメリカ人占い師に入れあげており、占い師が売りにする霊能力のタネを暴いてほしいと依頼する。
さっそく現地に飛んだスタンリーは、問題の占い師ソフィ(エマ・ストーン)と対面。インチキを暴こうと眼を光らせるも、降霊会での超常現象や次々に秘密を言い当てる姿に圧倒され、あまつさえ徐々にチャーミングな彼女に魅了されていき…。

ベテラン・マジシャンのスタンリーは、マジックを駆使して観客を楽しませるエンターテイナーでありながら(あるがゆえ)、超現実主義。魔法や超能力など合理性を欠くオカルトは、一切認めない堅物である。そんな彼が最もバカにする類の霊能力者ソフィの起こす数々の奇跡を前に陥落。皮肉にも恋に落ちてしまう。
実のところ、この恋愛感情が一番不可解な超常現象といえよう。ソフィは若く可憐ではあるものの、苦手で嫌いなタイプの人間であり、富豪の子息(ハミッシュ・リンクレイター)をメロメロにし、求婚されている身である。しかも当のスタンリーにも婚約者がいる始末。それでも説明がつかない感情のスイッチが入り、制御がきかない。
風光明媚なコート・ダジュールを舞台に、かように不器用な恋愛の駆け引きが、ウィットにとんだ会話劇で軽妙に紡がれていく。

スタンリーに扮したオスカー俳優コリン・ファースは、毒舌で皮肉屋、擦れていながらピュアという役どころを愛嬌たっぷりに体現。ソフィに振り回され、恋心に戸惑うキュートさはオジサン好きのハートを射抜くこと間違いない。
ソフィ役のエマ・ストーンは、いわずと知れた今乗りに乗っているアイドル女優。彼女ですら熱望するのだから、アレン映画出演のステータスの貴重さが窺えよう。もうその旬の可愛さたるや殺人級だ。世の男性陣は楽天的で好奇心旺盛、無邪気な笑顔に100%陥落しよう。
二人のキャラを英米の人間性の象徴と捉えるのは、ちと失礼か。とにもかくにも両者の微笑ましい掛け合いは、ずっと観ていられるぐらいハッピーである。

“恋はマジック”とは月並みな表現だが、ひょんなはずみ、偶然の産物で、ふいに恋愛感情が芽生えてしまうミラクルは誰しも経験があろう。劇中の二人はタイトルが示す“ムーンライト”のアクシデントがきっかけとなるが、この不思議を合理的に説明するのは多分不可能である。理屈ではない。
期せずして映画という娯楽も、こうしたミラクルを観客に提供する代物である。映画と観客との出会いもまたひとつのラブ・ストーリーなのだ。そうした出会いのささやかな幸福を、本作はいい気分で味あわせてくれる。

例によって、年の差恋愛や、シニカル思想といったウディ・アレンの人生観を重ね合わせると生々しいものが見えてくる。でもそれはひとまず置いておく。
また、終盤へ向かってのちょっとしたどんでん返し等、「後々それでいいの?」と、よくよく考えたら色々と腑に落ちない展開もある。が、ヒューヒューと口笛を鳴らしたくなるようなラストは、アレンの作劇術が冴え渡り、唸りに唸る。

その軽さから最近評価された作品群に比べて見劣りするのは否めない。でも個人的には毒が薄めの、これぐらいのアレン流ロマコメを推したいところである。


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