日本映画の未来を担う好企画に要注目!
造り手の気合いがこもった、実に観応えのある短編5本であった。
若手映画作家育成プロジェクト、略称“ndjc”とは、文字通り、若手映画作家の育成と発掘を目的に、ワークショップや制作実習を実施。35ミリフィルムを使った30分の短編の製作、発表の場を提供する等、支援を働きかける文化庁委託事業である。2006年からスタートし、今年も5人の新進気鋭の監督の作品が集まり、特集上映が行われた。
元来、オムニバス映画は興行ベースにうまく乗らない定説があり、さらに新人監督ともなると難易度は増そう。ただピクサーの長編アニメと併映される短編よろしく、新人の才能を見極めるには短編が相応しいのは確か。そういう意味では本上映は貴重な機会であり、フラッと劇場へ足を運んでみたのだが…!?
●『チキンズダイナマイト』(監督:飯塚俊光)
いじめられっ子の中学生、橋本諭吉(岡山天音)は、元いじめられっ子の先輩(前野朋哉)から、いじめ救済を目的とした伝説のゲーム“チキンズダイナマイト”への参加を誘われる。それは当校のミスに選ばれた美少女(恒松祐里)と一週間付き合い、ブラジャーをゲットするという無謀なミッションであり…。
自らの進む道を見つける以前、その入り口に立つ段階の物語。まずは行動し、何かを起こしてみる、その大切さを『世にも奇妙な物語』風に活写した青春コメディである。
何より観ているうちに、女の子は可愛く、いじめられっ子の男の子もウザくなくなってくるのが心地良い。思想が青臭く、モタつく展開もご愛嬌にうつる好編であった。
●『もちつきラプソディ』(監督:加瀬聡)
夫との離婚を決意した美冬(星野真里)は、娘の歩が引っ張り出した古いビデオテープに眼をとめる。そこには故郷で幼い美冬が家族と共にもちつきをしている光景が映しだされていた。もちつきに興味を抱いた歩の提案で、美冬は折り合いの悪い3人の姉と認知症になった父(油井昌由樹)が待つ実家へ6年ぶりに里帰りするのだが…。
父と姉との確執、田舎から都会に出た負い目、娘と夫との関係、等々、家族をキーワードにそれぞれに内包された問題をまとめあげた手腕は相当なものである。
でも詰め込み過ぎて情報過多になっており、説明に終始。登場人物がしゃべりすぎ、必要な郷愁の情緒と肝心のもちつきが活きていないのが残念。個人的には姉3人と主人公の関係性がよくわからなかった。
●『本のゆがみ』(監督:草苅勲)
図書館職員の星野(金山一彦)、桑原(兒玉宣勝)、みく(小野しおり)は表面上、和やかに働きつつ、私生活ではそれぞれに闇を抱えていた。そんな3人が図書館であるアクシデントに直面し、にわかに力を合わせる羽目になり…。
3人の歪んだ人間の群像劇であり、ラストで人生観を問いかける放り投げタイプの一作。30分でまとめようとしてバタバタと四苦八苦したような前2作とは対照的な語り口だが、短編はコレで正解。解決させずにゆだねるスタイルが、むしろ自然であろう。
願わくばOPで、3人のドラマであるという描写が欲しかった。つい金山一彦のインパクトにより彼のドラマとして捉えてしまい、やや群像劇としての把握に出遅れた。
●『good-bye』(監督:羽生敏博)
クリーニング店で派遣社員として働く御崎紀子(安藤玉恵)は、娘二人と共にネットカフェ暮らし。貧しいながらも仲睦まじく暮らしていたのだが、ある日、紀子が職を失ってしまい…。
説明を省いたドキュメンタリータッチで、底辺の暮らしながら健気に暮らす母娘の様子を追っていく。劇的なことは起こらない。ひたすら重く、シリアスな模様を淡々と突きつける。リアリティとしては、確かに「?」な部分も散見される。が、映画に求められる迫力が備わっており、グイグイ引き込まれるのだからスゴイ演出力である。短編というカテゴリーさえ忘れさせるのだから、一番上手に30分を使い切ったといえよう。手際のいい語り口より、断然こちらを推す。
別の作品を観てみたいと思わせる監督さんである。
●『エンドローラーズ』(吉野耕平)
葬儀屋の映像制作担当の中本(三浦貴大)は、喪主(でんでん)から、工業用ロボットアームの金具を製作していた故人に見合う映像をつくるよう依頼される。中本は旧職の伝手を辿り、ロボットが出てくる映像を製作するも、それを見た喪主は大喜び。孫を喜ばすためにもっとロボットを推すよう無理難題を要求してきて…。
監督は「人間に興味がない」と語っておられたが、なるほど、“葬儀”と“ロボット”という組み合わせに仕込まれた非人間的ブラックユーモアを存分に楽しめた。芸達者な役者陣の好演も光る。
主人公の境遇がいまいち分からなかったのと、旧職よりも葬儀社本体をフォローした方がスッキリしたように思う。
さて。
簡単に全作をさらって偉そうに文句を並べたが、さらに全体的にいえば、惜しむらくは映画的な色気が乏しい。テーマを語るのに躍起になって、客を楽しませんとするエンタメ性にまで手が回っていないように感じた。文化庁が噛んでいるので仕方ないかもしれないが、要するに真面目というか優等生というか…。世界に打って出るには、大人し過ぎるのではなかろうか?
また、プロの脚本家が指導に入ってはいても、基本、監督に脚本を書かせるスタンスに疑問を抱く。脚本軽視の日本映画の悪弊を暗に示していよう。これが質の低下の元凶である旨を、お上が理解していない証拠である。脚本家の育成プロジェクトも併設してもいいのではないか?
上映会のタイトルも、知らない人には「なんのこっちゃ?」である。もっとキャッチーなものを考えた方がよかろう。
しかしながら本プロジェクト自体、素晴らしい理念であるのは間違いない。もっと多くの一般観客の眼に触れるよう、がんばっていただきたい。
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造り手の気合いがこもった、実に観応えのある短編5本であった。
若手映画作家育成プロジェクト、略称“ndjc”とは、文字通り、若手映画作家の育成と発掘を目的に、ワークショップや制作実習を実施。35ミリフィルムを使った30分の短編の製作、発表の場を提供する等、支援を働きかける文化庁委託事業である。2006年からスタートし、今年も5人の新進気鋭の監督の作品が集まり、特集上映が行われた。
元来、オムニバス映画は興行ベースにうまく乗らない定説があり、さらに新人監督ともなると難易度は増そう。ただピクサーの長編アニメと併映される短編よろしく、新人の才能を見極めるには短編が相応しいのは確か。そういう意味では本上映は貴重な機会であり、フラッと劇場へ足を運んでみたのだが…!?
●『チキンズダイナマイト』(監督:飯塚俊光)
いじめられっ子の中学生、橋本諭吉(岡山天音)は、元いじめられっ子の先輩(前野朋哉)から、いじめ救済を目的とした伝説のゲーム“チキンズダイナマイト”への参加を誘われる。それは当校のミスに選ばれた美少女(恒松祐里)と一週間付き合い、ブラジャーをゲットするという無謀なミッションであり…。
自らの進む道を見つける以前、その入り口に立つ段階の物語。まずは行動し、何かを起こしてみる、その大切さを『世にも奇妙な物語』風に活写した青春コメディである。
何より観ているうちに、女の子は可愛く、いじめられっ子の男の子もウザくなくなってくるのが心地良い。思想が青臭く、モタつく展開もご愛嬌にうつる好編であった。
●『もちつきラプソディ』(監督:加瀬聡)
夫との離婚を決意した美冬(星野真里)は、娘の歩が引っ張り出した古いビデオテープに眼をとめる。そこには故郷で幼い美冬が家族と共にもちつきをしている光景が映しだされていた。もちつきに興味を抱いた歩の提案で、美冬は折り合いの悪い3人の姉と認知症になった父(油井昌由樹)が待つ実家へ6年ぶりに里帰りするのだが…。
父と姉との確執、田舎から都会に出た負い目、娘と夫との関係、等々、家族をキーワードにそれぞれに内包された問題をまとめあげた手腕は相当なものである。
でも詰め込み過ぎて情報過多になっており、説明に終始。登場人物がしゃべりすぎ、必要な郷愁の情緒と肝心のもちつきが活きていないのが残念。個人的には姉3人と主人公の関係性がよくわからなかった。
●『本のゆがみ』(監督:草苅勲)
図書館職員の星野(金山一彦)、桑原(兒玉宣勝)、みく(小野しおり)は表面上、和やかに働きつつ、私生活ではそれぞれに闇を抱えていた。そんな3人が図書館であるアクシデントに直面し、にわかに力を合わせる羽目になり…。
3人の歪んだ人間の群像劇であり、ラストで人生観を問いかける放り投げタイプの一作。30分でまとめようとしてバタバタと四苦八苦したような前2作とは対照的な語り口だが、短編はコレで正解。解決させずにゆだねるスタイルが、むしろ自然であろう。
願わくばOPで、3人のドラマであるという描写が欲しかった。つい金山一彦のインパクトにより彼のドラマとして捉えてしまい、やや群像劇としての把握に出遅れた。
●『good-bye』(監督:羽生敏博)
クリーニング店で派遣社員として働く御崎紀子(安藤玉恵)は、娘二人と共にネットカフェ暮らし。貧しいながらも仲睦まじく暮らしていたのだが、ある日、紀子が職を失ってしまい…。
説明を省いたドキュメンタリータッチで、底辺の暮らしながら健気に暮らす母娘の様子を追っていく。劇的なことは起こらない。ひたすら重く、シリアスな模様を淡々と突きつける。リアリティとしては、確かに「?」な部分も散見される。が、映画に求められる迫力が備わっており、グイグイ引き込まれるのだからスゴイ演出力である。短編というカテゴリーさえ忘れさせるのだから、一番上手に30分を使い切ったといえよう。手際のいい語り口より、断然こちらを推す。
別の作品を観てみたいと思わせる監督さんである。
●『エンドローラーズ』(吉野耕平)
葬儀屋の映像制作担当の中本(三浦貴大)は、喪主(でんでん)から、工業用ロボットアームの金具を製作していた故人に見合う映像をつくるよう依頼される。中本は旧職の伝手を辿り、ロボットが出てくる映像を製作するも、それを見た喪主は大喜び。孫を喜ばすためにもっとロボットを推すよう無理難題を要求してきて…。
監督は「人間に興味がない」と語っておられたが、なるほど、“葬儀”と“ロボット”という組み合わせに仕込まれた非人間的ブラックユーモアを存分に楽しめた。芸達者な役者陣の好演も光る。
主人公の境遇がいまいち分からなかったのと、旧職よりも葬儀社本体をフォローした方がスッキリしたように思う。
さて。
簡単に全作をさらって偉そうに文句を並べたが、さらに全体的にいえば、惜しむらくは映画的な色気が乏しい。テーマを語るのに躍起になって、客を楽しませんとするエンタメ性にまで手が回っていないように感じた。文化庁が噛んでいるので仕方ないかもしれないが、要するに真面目というか優等生というか…。世界に打って出るには、大人し過ぎるのではなかろうか?
また、プロの脚本家が指導に入ってはいても、基本、監督に脚本を書かせるスタンスに疑問を抱く。脚本軽視の日本映画の悪弊を暗に示していよう。これが質の低下の元凶である旨を、お上が理解していない証拠である。脚本家の育成プロジェクトも併設してもいいのではないか?
上映会のタイトルも、知らない人には「なんのこっちゃ?」である。もっとキャッチーなものを考えた方がよかろう。
しかしながら本プロジェクト自体、素晴らしい理念であるのは間違いない。もっと多くの一般観客の眼に触れるよう、がんばっていただきたい。
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