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Channel: 相木悟の映画評
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『プロミスト・ランド』 (2012)

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エネルギー問題であぶり出す、人生の決断!



丁寧につくられた、高品質な社会派ヒューマンドラマではあるのだが…。
本作は、俳優のマット・デイモンとジョン・クラシンスキーが製作と脚本を担い、ガス・ヴァン・サントがメガホンをとった期待作。マットとサントの組み合わせといえば、相方がベン・アフレックからジョンへ変更されたとはいえ、つい『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)を連想し、“良質”というイメージが先行してしまうのは、むべなるかな。アクションからシリアス、コメディ、さらに監督業まで幅広い活躍をみせる才人デイモンと、オスカー級の伝記ドラマ『ミルク』(08)からアート系の小品までこちらもバラエティ豊かな作品を手掛ける名匠サント。『グッド〜』は正攻法の一作であったが、はたして今回は両者のどんな一面が衝突したのか?公開が大幅に遅れたことに一抹の不安を抱きながら、実態を確かめるべくスクリーンへ臨んだのだが…。

大手エネルギー会社のエリート社員スティーヴ(マット・デイモン)が、さびれた田舎町マッキンリーにやってくる。新しい天然資源ガスとして注目をあびるシェールガスを生む頁岩層の埋蔵地に赴き、不況にあえぐ農場主たちから安く採掘権を買い占めるのが彼の仕事。さっそくスティーヴはパートナーのスー(フランシス・マクドーマンド)と共に戸別訪問を始め、財政再建の救世主として歓迎をうけるのであった。ところが町民集会において、元科学者の教師フランク(ハル・ホルブルック)が、環境保全に対して充分な検証がなされていないと反論。フランクに賛同する町民も多く、結果、採掘の賛否は数週間後の住民投票によって決められる運びになる。頭を悩ますスティーヴたちだが、さらに環境運動家のダスティン(ジョン・クラシンスキー)が乗り込んできて、旗色がますます悪くなり…。

郊外の地域住民と大企業のエネルギー問題の摩擦といえば、どうしても企業側が悪になるのが常である。現に本作のスティーヴも、町に入る直前、地元の雑貨店で安物の服を買い、フレンドリーに溶け込もうと画策。口八丁手八丁で、相場より安く採掘権を買い叩いていく。
さながら羊の皮をかぶったダーティーな拝金主義者といった趣きではあるが、その実そこまでやり手という訳でもない。集会で元科学者にやりこめられ、バーで出会った美人女性教師(ローズマリー・デウィット)に一目惚れする等、憎めない人間臭さをもっている。そもそも彼がこの仕事をしている動機も、荒廃した故郷を想ってのことなのだ。
一方、町民サイドも、狡賢くスティーヴを脅迫して代金をつりあげようとする有力者や、土地が金になることに単純に大喜びする面々がいたりと、まさに多種多様。ことほどさように本作の視点は、どちら側にも公平である。

シェールガス採掘を選べば、てっとり早く金は入るが、故郷の景観が失われ、地質環境に悪影響が出る可能性を否定できない。でもそうしなければ、周囲の発展に取り残されて格差がひらき、衰退が加速するのは明らか。貧しい家庭は、子供を大学にあげることもできない。
要は、起こるかもしれないリスクを受け入れ、利便性をとるか、現状のまま不便でもこれまでの伝統を守り抜くか。どちらの未来にも暗雲が漂っており、惑う姿は、あらゆる世界の日常であり、そのまま日本の我々にも身につまされよう。
本作はスティーヴとスー、町人、環境運動家の異なる各リアクションにより、問題を多方面から紡いでいく。当然、一筋縄ではいかない。

そして、どう決着をつけるかというところで、まさかのどんでん返しが発生。
詳しくは書かないが、当仕掛けは、こうした問題も実は大きな権力によって知らず知らずに結論が導かれているのかもしれない、という恐怖をまざまざと突きつける。これには心底ゾッとした。
本アクシデントにより、真の決断を下すスティーヴの姿は感動的であり、ひとつの解答であろう。
資本主義社会によって弱肉強食が加速し、“自由”という建国理念が失われゆくアメリカ。当国の根本が揺らいでいる危機感を、ひしひしと感じよう。神から与えられし、“約束の地”の重要性を我々は理解しているのか?何より本当に自分自身で考えて決断しているのか?二重三重の慎重な見極めが必要であることを、本作は教えてくれる。
(公開が遅れたのは、最大のシェールガス埋蔵国である中国に配慮して、お蔵入りにしようとしていたのか…)

ガス・ヴァン・サントの演出も的確で、牧歌的な美しい風景の下、個性豊かなキャラたちが、コメディ・タッチでテンポよく快走。笑いあり、恋愛あり、社会派メッセージあり、語り口に過不足はない。スーと雑貨店の店主(タイタス・ウェリヴァー)のほのかな恋などホッコリする。(本筋のマット・デイモンとローズマリー・デウィットの方は、薄っぺらいが…)
スティーヴのブーツ、レモネード売りの少女、エンジンのかからない車、とキャラの心情を表すメタファーもスマートに効いている。
ただ、ソツなくまとめ過ぎているだけに、逆に地味な作品になってしまった感は否めない。シェールガス問題についてもあえて背景に留め、踏み込まなかったこともインパクトを限りなく薄めていよう。
いい映画だけに、ちょっともったいない。


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