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Channel: 相木悟の映画評
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『リアリティのダンス』 (2013)

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めくるめく、ちょっぴり優しいホドロフスキー・ワールドに陶酔せよ!



御年80才を越えたホドロフスキーの新作が観られる日がこようとは…。それだけで感無量なのだが、いまだ衰えぬパワーに終始圧倒された次第である。
本作は、いわゆる“カルト映画”という概念の始祖、アレハンドロ・ホドロフスキー監督作。『エル・トポ』(69)、『ホーリー・マウンテン』(73)等々、何がなんだかわからないけど、とにかく強烈なインパクトがある作品群は、映画ファンが集まればいずこともなく話題にのぼる伝説の遺産である。
僕は寡聞にして知らなかったが、日本では比較的ソフトが流通しており、海外ファンが羨むホドロフスキー天国だったのだとか。知らずに幸福を享受していた訳である。
最近になって、実現に至らなかった幻のSF大作『DUNE』の舞台裏と後世に与えた影響を追ったドキュメンタリーが公開され、ホドロフスキー・ブームが再燃。はたして、待ちに待った23年ぶりの新作の実態や如何に…!?

1920年代のチリの小さな村トコピージャ。ロシア系ユダヤ人の少年アレハンドロ(イェレミアス・ハースコヴィッツ)は、商店を営む父ハイメ(プロティス・ホドロフスキー)と、元オペラ歌手の母サラ(パメラ・フローレス)と三人暮らし。コミュニストの父は躾に厳しくアレハンドロにスパルタ教育を施し、母はアレハンドロを自分の父親の生まれ変わりと信じ溺愛していた。一方、学校ではアレハンドロは移民の子といじめられ、孤独な日々を送っていた。
そんな折り、父が軍事独裁政権を転覆させるべくイバニェス大統領の暗殺を企て、ホドロフスキー家に激震が走り…。

本作は、ホドロフスキー老の幼年時代を題材にした半自伝モノ。(同名の自伝アリ)
父親ハイメ役を『エル・トポ』の素っ裸の子供役でお馴染みの実の息子が演じており、次男と五男も役者で登場。また五男は音楽も兼任し、若妻は衣装を担当。ホドロフスキー自身は哲学的なナレーションをもこなし、時に自身の幼年役の美少年の背後から手を回す、ちとヤバイ画ヅラで実体が出現。無垢なるがゆえに傷つき、世を儚む幼い自分に助言を与え、勇気付ける縦横無尽の活躍をみせている。いわば、本作は完全な内面的ファミリー映画の様相を呈していよう。

つい出だしは『アマルコルド』(73)とダブったが、そこはホドロフスキー。奔放で幻想的なイメージの洪水、徹底して下品なグロとエロ、善行を施すと、しっぺ返しをくらう皮肉、真面目なのか不真面目なのか判断に迷う宗教への畏敬と懐疑。
そして、思想的に矛盾に満ちた父親ハイメの息子アレハンドロに対する、こそばしたり、平手打ちしたり、挙句の果てに麻酔なしで歯の治療をさせる常軌を逸した行動。なぜかアリアで謳うように言葉をしゃべる母親サラ。他、手足をなくした人々や小人、等々、突拍子もない行動をとる濃すぎるキャラが大挙登場。往時のホドロフスキー節、炸裂である。(でも子供の性描写に関しては、ちゃんと節度を守っていたりする)
が、今回は流れがシンプルで分かり易く、理屈抜きで“面白い”。

しかし後半、第2部といった赴きで、独裁的な大統領暗殺に向かった独裁的な父親ハイメの精神の放浪が紡がれていく。この先読み不能の波乱万丈な旅の顛末は、ぜひ劇場でご体験あれ。回想式の物語のセオリーを無視した、急にハシゴを外されたようなブッ飛んだ展開にア然とすることうけあいだ。我らがホドロフスキーの語り口は、どこまでも自由である。
当パートはメタファーに満ちた奇怪な寓話であり、俄然、混沌と神秘に満ちたホドロフスキーの独壇場と化す。本作は全編通して、この男ハイメの救済と再生の運命劇として捉えた方が正しかろう。

でも、劇中のホドロフスキー少年も母親に金髪のかつらをかぶせられ、母親の父として扱われ、父親は実際のホドロフスキーの息子が演じており(ややこしい!)、そもそも男系は一本に同化されているのかもしれない。
それら男どもを母性と神が無理矢理すくってしまう力技な幕締めは、圧巻の一言。あくまで本作は、想像で理想化した家族映画ということか。

しかしながら、自身の信念に基づき、人心の闇をさらけ出し、全てをみせきる悪趣味ぶりといった、ホドロフスキーの“芸術活動”(=“やりたい放題”)が、商業性のある娯楽映画よりリアルに見えてくるから不思議である。まさにリアリティのダンス。
人が眉をしかめるバイオレンスやグロの本質を、奇妙に楽しくコーティングしてしまう得難い作家さんといえよう。
もっと、たくさん作品をつくってほしいものである。でも先立つものは“金”であり、芸術を実現させるには儲けなければならない。この氏が孕む自己矛盾をも、本作はOPから訴えているのだから巧妙である。

あと本作はホドロフスキーと聞いて尻込みしている人にもとっつき易く、入門編として最適であることを付け加えておきます。


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