遊び心弾けるピカレスク・バイオレンス!
不謹慎ながら無邪気に楽しめる大人のエンターテインメントであった。
『エクスペンダブルズ』を紹介した際に、「日本でも往年のアクション・スターを集めて造ればいいのに…」と願望を書いた記憶があるが、まさかの実現である。本作は東映Vシネマ25周年を記念して、ゆかりのある俳優を集めて製作したお祭りアクション。Vシネマ(実は本名称は、東映の商標)といえば、映画産業斜陽の時代、テレビでは放送できない過激な内容をウリにしたビデオ専用レーベル。低予算ながら造り手が自由に暴れられた反社会的な作品群は、レンタルビデオ全盛期に熱狂的な人気を博し、スタッフ&キャスト共に若手の人材育成にも貢献した。
僕は正直、『タフ』シリーズや三池崇史作品と夢中になったモノもあるが、勉強不足ながら語れるほど観てはいない。でもこうしたイベント・ムービーには野次馬根性で血が騒ぎ、ワクワクせずにはいられない。はたして気になる中身は如何に…!?
西池袋警察署の刑事、桜井(哀川翔)と日影(寺島進)は、日常的に押収した金を着服する悪徳コンビ。ところが今回は不正の追求をうけ、署長(大杉漣)から不明金250万を提出するよう命じられ、ピンチに陥っていた。
一方、年金基金の巨額横領事件の容疑者、九十九(温水洋一)は、入れあげている高級クラブのママ恭子(高岡早紀)を頼り、暴力団田神組組長の田神(小沢仁志)の手を借りて逃亡を試みる。しかし田神は近々、中国マフィアのジョニー・ウォン(竹中直人)との大型取引が控えており、その資金に九十九の横領金25億円を当てる腹積もりであった。そんな折り、たまたま走行していた桜井と日影の乗った車が九十九をはね、九十九の正体に勘付いた二人は、ただちに逃走。九十九を捕獲し、25億円をブン盗ろうと画策するのだが、田神組が黙っている訳がなく…。
何といっても豪華であるのが、役者陣…ではなく、脚本家の面々である。柏原寛司、大川俊道、岡芳郎、ハセベバクシンオーと、なんとVシネゆかりの腕利きが4人も結集。本編では、悪徳刑事、ヤクザ、半グレ集団、金を奪った人間の4つの勢力が23億円の争奪戦を繰り広げるのだが、それらを黄金時代の黒澤明システムよろしく分業で書き分けたというのだから贅沢極まりない。
話の筋自体は、大金をめぐる典型的な奪い合い。謎の殺し屋が乱入して無闇に掻き回したりと、多少入り組んではいるものの、やってることは至ってシンプル。それらを強烈なキャラ推しと銃撃戦でみせきる力技が、本作の醍醐味だ。
とにかく、キャラが立ちまくっている。全員悪人で、まともな奴は一人もいない。
哀川翔と寺島進の刑事コンビの軽妙さと、翔さんのやんちゃなヒーローぶり。ヤクザの哀愁を背負い、顔面凶器の迫力でシリアス・パートを牽引する小沢仁志と和義の最恐兄弟。そこに割って入ってイキがる半グレ武装集団の井上正大、中村昌也たち。各勢力を行ったり来たり、コメディ・リリーフを一身に担う温水洋一。男たちを手玉にとって渡り歩く高岡早紀と岩佐真悠子の悪女ぶり。いいところをさらう大物中国マフィア役の竹中直人。
他、大杉漣、嶋田久作、笹野高史、鈴木砂羽、石橋蓮司、袴田良彦、石井愃一、伊沢弘、工藤俊作、菅田俊といった多彩なゲスト陣が、隅々に顔をだして好サポート。
これらの濃いアンサンブルと一発芸を眺めているだけでも面白過ぎる。
クライマックス。廃屋でのドンパチも、バンバンひたすら撃ち合う超アナログ仕様で、ご都合主義アクションが炸裂。超絶な体技がある訳でもなく、ド派手な爆破がある訳でもなく、突っ込みどころ満載なのだが、妙に懐かしく一周回ってオリジナリティに溢れている。翔さんと小沢仁志の最終対決は、鳥肌モノの見どころだ。
それぞれの関係性と行動理念が丁寧に抑えられ、そこにきちんと情があるゆえ熱くなる。これぞ任侠魂といった按配である。
あくまで本作は、東映Vシネマの記念作であり、それほど潤沢な予算はなく、ぶっちゃけオールスターという訳ではない。見ての通り、この面子を揃えたと謳っても、ファンにとってもそれほどの感慨もなく、ましてや一般の人への波及力は皆無であろう。ちょっと残念ではある。
それに若手の勢いのなさも、気になるところ。目立っているのは、おいしい役を与えられた波岡一喜だけというのも、さみしい限り。井上正大も熱演してはいるが、今少し半グレ集団が活きれば、もう一段階弾けたかもしれない。いっそのこと、彼らはいなくてもよかったとすら思う。
Vシネマが衰退した分、次世代スターが育っていないのは仕方ないといえば仕方ないのだが、重鎮に喰いつくようなイキのいい若手の台頭も観てみたかった気もする。
とはいえ、全体的には、めちゃ楽しかった。造り手のノリの良さが伝わってきて、日本映画が失った不健全さと遊び心を大いに堪能した次第である。
それにVシネマというと、ついヤクザものやギャンブル、エロスを題材にした作品を連想してしまうが、当初はハードボイルド路線であったことを、本作を観て痛感した。
出来ることなら『26』、『27』と年に一度は観たいもの。ビデオ専門とこだわることなく、子供向けではないグレた大人の娯楽が劇場上映にあってもよかろう。
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不謹慎ながら無邪気に楽しめる大人のエンターテインメントであった。
『エクスペンダブルズ』を紹介した際に、「日本でも往年のアクション・スターを集めて造ればいいのに…」と願望を書いた記憶があるが、まさかの実現である。本作は東映Vシネマ25周年を記念して、ゆかりのある俳優を集めて製作したお祭りアクション。Vシネマ(実は本名称は、東映の商標)といえば、映画産業斜陽の時代、テレビでは放送できない過激な内容をウリにしたビデオ専用レーベル。低予算ながら造り手が自由に暴れられた反社会的な作品群は、レンタルビデオ全盛期に熱狂的な人気を博し、スタッフ&キャスト共に若手の人材育成にも貢献した。
僕は正直、『タフ』シリーズや三池崇史作品と夢中になったモノもあるが、勉強不足ながら語れるほど観てはいない。でもこうしたイベント・ムービーには野次馬根性で血が騒ぎ、ワクワクせずにはいられない。はたして気になる中身は如何に…!?
西池袋警察署の刑事、桜井(哀川翔)と日影(寺島進)は、日常的に押収した金を着服する悪徳コンビ。ところが今回は不正の追求をうけ、署長(大杉漣)から不明金250万を提出するよう命じられ、ピンチに陥っていた。
一方、年金基金の巨額横領事件の容疑者、九十九(温水洋一)は、入れあげている高級クラブのママ恭子(高岡早紀)を頼り、暴力団田神組組長の田神(小沢仁志)の手を借りて逃亡を試みる。しかし田神は近々、中国マフィアのジョニー・ウォン(竹中直人)との大型取引が控えており、その資金に九十九の横領金25億円を当てる腹積もりであった。そんな折り、たまたま走行していた桜井と日影の乗った車が九十九をはね、九十九の正体に勘付いた二人は、ただちに逃走。九十九を捕獲し、25億円をブン盗ろうと画策するのだが、田神組が黙っている訳がなく…。
何といっても豪華であるのが、役者陣…ではなく、脚本家の面々である。柏原寛司、大川俊道、岡芳郎、ハセベバクシンオーと、なんとVシネゆかりの腕利きが4人も結集。本編では、悪徳刑事、ヤクザ、半グレ集団、金を奪った人間の4つの勢力が23億円の争奪戦を繰り広げるのだが、それらを黄金時代の黒澤明システムよろしく分業で書き分けたというのだから贅沢極まりない。
話の筋自体は、大金をめぐる典型的な奪い合い。謎の殺し屋が乱入して無闇に掻き回したりと、多少入り組んではいるものの、やってることは至ってシンプル。それらを強烈なキャラ推しと銃撃戦でみせきる力技が、本作の醍醐味だ。
とにかく、キャラが立ちまくっている。全員悪人で、まともな奴は一人もいない。
哀川翔と寺島進の刑事コンビの軽妙さと、翔さんのやんちゃなヒーローぶり。ヤクザの哀愁を背負い、顔面凶器の迫力でシリアス・パートを牽引する小沢仁志と和義の最恐兄弟。そこに割って入ってイキがる半グレ武装集団の井上正大、中村昌也たち。各勢力を行ったり来たり、コメディ・リリーフを一身に担う温水洋一。男たちを手玉にとって渡り歩く高岡早紀と岩佐真悠子の悪女ぶり。いいところをさらう大物中国マフィア役の竹中直人。
他、大杉漣、嶋田久作、笹野高史、鈴木砂羽、石橋蓮司、袴田良彦、石井愃一、伊沢弘、工藤俊作、菅田俊といった多彩なゲスト陣が、隅々に顔をだして好サポート。
これらの濃いアンサンブルと一発芸を眺めているだけでも面白過ぎる。
クライマックス。廃屋でのドンパチも、バンバンひたすら撃ち合う超アナログ仕様で、ご都合主義アクションが炸裂。超絶な体技がある訳でもなく、ド派手な爆破がある訳でもなく、突っ込みどころ満載なのだが、妙に懐かしく一周回ってオリジナリティに溢れている。翔さんと小沢仁志の最終対決は、鳥肌モノの見どころだ。
それぞれの関係性と行動理念が丁寧に抑えられ、そこにきちんと情があるゆえ熱くなる。これぞ任侠魂といった按配である。
あくまで本作は、東映Vシネマの記念作であり、それほど潤沢な予算はなく、ぶっちゃけオールスターという訳ではない。見ての通り、この面子を揃えたと謳っても、ファンにとってもそれほどの感慨もなく、ましてや一般の人への波及力は皆無であろう。ちょっと残念ではある。
それに若手の勢いのなさも、気になるところ。目立っているのは、おいしい役を与えられた波岡一喜だけというのも、さみしい限り。井上正大も熱演してはいるが、今少し半グレ集団が活きれば、もう一段階弾けたかもしれない。いっそのこと、彼らはいなくてもよかったとすら思う。
Vシネマが衰退した分、次世代スターが育っていないのは仕方ないといえば仕方ないのだが、重鎮に喰いつくようなイキのいい若手の台頭も観てみたかった気もする。
とはいえ、全体的には、めちゃ楽しかった。造り手のノリの良さが伝わってきて、日本映画が失った不健全さと遊び心を大いに堪能した次第である。
それにVシネマというと、ついヤクザものやギャンブル、エロスを題材にした作品を連想してしまうが、当初はハードボイルド路線であったことを、本作を観て痛感した。
出来ることなら『26』、『27』と年に一度は観たいもの。ビデオ専門とこだわることなく、子供向けではないグレた大人の娯楽が劇場上映にあってもよかろう。
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