シュワちゃんの新境地を垣間見るミステリー・アクション!
ほどよく凝ったプロットに引き込まれ、なおかつアクションも堪能できる秀作であった。
本作は、2011年初頭にカリフォルニア州知事の任期を終え、ハリウッド・スターへ返り咲きを模索する我らがアーノルド・シュワルツェネッガー主演作。スタローン関連の助演はともかく、復活主演作に選んだ『ラストスタンド』(13)は、ヒットこそしなかったものの高クオリティの一作であった。何より監督にキム・ジウンを選ぶセンスには、感心しきり。そして今回選んだのが、デヴィッド・エアー。再び眼の確かさに、唸りに唸った次第である。当監督は『エンド・オブ・ウォッチ』(12)で高評価をうけ、オスカー級の話題作『フューリー』(14)が控える注目中の注目株なのだ。やはりシュワちゃん、頭がキレる。例によって今回も大ヒットとはいかなかったものの、期待充分でスクリーンへ向かったのだが…!?
DEA(麻薬取締局)の中で、“ブリーチャー(破壊屋)”の異名をもつジョン・ウォートン(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、精鋭チームを率い、数々の功績を挙げていた。ある日、ジョンのチームは激しい銃撃戦を繰り広げ、麻薬カルテルのアジトの制圧に成功。その裏でジョンたちは、一味の資金2億ドルの中から1000万ドルを着服する計画を実行する。ところが後日、ジョンたちがお金を回収すべく隠し場所に赴いたところ、あるべき1000万ドルは忽然と消えていた。その上、ジョンたちは不正の嫌疑がかかり、査問にかけられ、仕事を干される羽目となる。
半年後、証拠不十分で処分を解かれたジョンは、仲間を収集。トレーニングを開始する。しかしその夜からチームのメンバーが、一人また一人と残虐な手段で死を遂げていく。ジョンは事件を担当する市警の女刑事キャロライン(オリビア・ウィリアムズ)と共に犯人を追うのだが…。
本作についての初報では、アガサ・クリスティの代表作『そして誰もいなくなった』を原作にしたアクション(当時のタイトルは、『TEN』)と聞き、「なんじゃそりゃ!?」とのけぞった。それが公開される段になると、アガサ・クリスティの名は前面から消失。観てみると、確かに原案といわれれば、「そういえばそうか…」と気付く程度である。そもそもキーとなる人物のポジションと思考が根本的に違う。原作が頭になくても、問題はなかろう。
個人的には、推理小説の古典をモダン・アクションに転化するユニークな試みに期待していたのだが、少々拍子抜けであった。
劇中のミステリー面は奇をてらったものではなく、原案作品と異なり、あっと驚く真相はない。
とはいえ、“消失した1000万ドル”、“忍び寄る殺人犯の正体と目的”、といった謎が謎を呼び、緊迫感は持続する。さらにシュワちゃんのパブリック・イメージから、彼が悪人である筈はないという先入観、または“そう思いたい”観客の願いを巧みに作劇に活かしており、眼が離せない。この辺りの誘導の手際は心憎いほど上手い。(ただ、シュワちゃんに愛着がなければ、中盤退屈になる恐れもあるが…)
役者陣も最強チームのメンバーに、サム・ワーシントン、テレンス・ハワード、ミレイユ・イーノス、ジョシュ・ホロウェイと何気に豪華。仲間の中に1000万をくすね、仲間を殺しまわっている人間がいるのではないか…!?とチームプレイが信条であった筈の彼らが疑心暗鬼に陥るシリアスな演技合戦は、見応えたっぷりだ。
アクション面は、さすがのデヴィッド・エアー印。臨場感あるリアルな銃撃戦は、お手のもの。これまたリアルなグロ描写も全開だ。クライマックスには、派手なカー・アクションも用意されており、キリッとしめる。
シュワちゃんに関しては、相変わらずのそのそと恐竜みたいであるが、ボス然とした頼もし感が半端ない。うまく省エネ仕様でごまかして、テンションの上がる魅力的な見せ場が用意されている。
そして、倫理的に賛否を呼ぶであろうラスト・シーン。個人的には、大いにしびれた。ネタバレになるので記さないが、ハリウッド・エンタメとしてはかなりの冒険といえよう。全体的にもダークなピカレスクものであった事実が、あらためて突きつけられる。この衝撃度を顧みると、シュワちゃんを起用した意味があったように思う。こじつければ、『そして誰もいなくなった』のテーマの一面を強烈に表してはいよう。
ただ上記したように健闘してはいるが、シュワちゃんのアクション(&ラブ要素)はさすがにツライように見える。体型がアレであるし、動きの節々が老人である。スタローンやブルース・ウィリスらと比べると、やはりブランクは甘くはなかった。
でも本作のように才能ある監督と組んで身を委ねていると、いつか新境地を開くことであろう。別格の存在感を誇るレジェンドへ、ラヴ・コールを送る若手も事欠くまい。この辺りが「俺が!俺が!」といつまでも前に出ようとして(いい意味で)成長しないスタローンと違い、氏のクレバーなところである。
今後の躍進に期待したい。
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング
ほどよく凝ったプロットに引き込まれ、なおかつアクションも堪能できる秀作であった。
本作は、2011年初頭にカリフォルニア州知事の任期を終え、ハリウッド・スターへ返り咲きを模索する我らがアーノルド・シュワルツェネッガー主演作。スタローン関連の助演はともかく、復活主演作に選んだ『ラストスタンド』(13)は、ヒットこそしなかったものの高クオリティの一作であった。何より監督にキム・ジウンを選ぶセンスには、感心しきり。そして今回選んだのが、デヴィッド・エアー。再び眼の確かさに、唸りに唸った次第である。当監督は『エンド・オブ・ウォッチ』(12)で高評価をうけ、オスカー級の話題作『フューリー』(14)が控える注目中の注目株なのだ。やはりシュワちゃん、頭がキレる。例によって今回も大ヒットとはいかなかったものの、期待充分でスクリーンへ向かったのだが…!?
DEA(麻薬取締局)の中で、“ブリーチャー(破壊屋)”の異名をもつジョン・ウォートン(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、精鋭チームを率い、数々の功績を挙げていた。ある日、ジョンのチームは激しい銃撃戦を繰り広げ、麻薬カルテルのアジトの制圧に成功。その裏でジョンたちは、一味の資金2億ドルの中から1000万ドルを着服する計画を実行する。ところが後日、ジョンたちがお金を回収すべく隠し場所に赴いたところ、あるべき1000万ドルは忽然と消えていた。その上、ジョンたちは不正の嫌疑がかかり、査問にかけられ、仕事を干される羽目となる。
半年後、証拠不十分で処分を解かれたジョンは、仲間を収集。トレーニングを開始する。しかしその夜からチームのメンバーが、一人また一人と残虐な手段で死を遂げていく。ジョンは事件を担当する市警の女刑事キャロライン(オリビア・ウィリアムズ)と共に犯人を追うのだが…。
本作についての初報では、アガサ・クリスティの代表作『そして誰もいなくなった』を原作にしたアクション(当時のタイトルは、『TEN』)と聞き、「なんじゃそりゃ!?」とのけぞった。それが公開される段になると、アガサ・クリスティの名は前面から消失。観てみると、確かに原案といわれれば、「そういえばそうか…」と気付く程度である。そもそもキーとなる人物のポジションと思考が根本的に違う。原作が頭になくても、問題はなかろう。
個人的には、推理小説の古典をモダン・アクションに転化するユニークな試みに期待していたのだが、少々拍子抜けであった。
劇中のミステリー面は奇をてらったものではなく、原案作品と異なり、あっと驚く真相はない。
とはいえ、“消失した1000万ドル”、“忍び寄る殺人犯の正体と目的”、といった謎が謎を呼び、緊迫感は持続する。さらにシュワちゃんのパブリック・イメージから、彼が悪人である筈はないという先入観、または“そう思いたい”観客の願いを巧みに作劇に活かしており、眼が離せない。この辺りの誘導の手際は心憎いほど上手い。(ただ、シュワちゃんに愛着がなければ、中盤退屈になる恐れもあるが…)
役者陣も最強チームのメンバーに、サム・ワーシントン、テレンス・ハワード、ミレイユ・イーノス、ジョシュ・ホロウェイと何気に豪華。仲間の中に1000万をくすね、仲間を殺しまわっている人間がいるのではないか…!?とチームプレイが信条であった筈の彼らが疑心暗鬼に陥るシリアスな演技合戦は、見応えたっぷりだ。
アクション面は、さすがのデヴィッド・エアー印。臨場感あるリアルな銃撃戦は、お手のもの。これまたリアルなグロ描写も全開だ。クライマックスには、派手なカー・アクションも用意されており、キリッとしめる。
シュワちゃんに関しては、相変わらずのそのそと恐竜みたいであるが、ボス然とした頼もし感が半端ない。うまく省エネ仕様でごまかして、テンションの上がる魅力的な見せ場が用意されている。
そして、倫理的に賛否を呼ぶであろうラスト・シーン。個人的には、大いにしびれた。ネタバレになるので記さないが、ハリウッド・エンタメとしてはかなりの冒険といえよう。全体的にもダークなピカレスクものであった事実が、あらためて突きつけられる。この衝撃度を顧みると、シュワちゃんを起用した意味があったように思う。こじつければ、『そして誰もいなくなった』のテーマの一面を強烈に表してはいよう。
ただ上記したように健闘してはいるが、シュワちゃんのアクション(&ラブ要素)はさすがにツライように見える。体型がアレであるし、動きの節々が老人である。スタローンやブルース・ウィリスらと比べると、やはりブランクは甘くはなかった。
でも本作のように才能ある監督と組んで身を委ねていると、いつか新境地を開くことであろう。別格の存在感を誇るレジェンドへ、ラヴ・コールを送る若手も事欠くまい。この辺りが「俺が!俺が!」といつまでも前に出ようとして(いい意味で)成長しないスタローンと違い、氏のクレバーなところである。
今後の躍進に期待したい。
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング