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『フューリー』 (2014)

凄惨なる戦場の体感!

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戦場とはどういうものなのか?想像すらつかない一般観客に端的に示す戦争映画であった。
本作は、俳優業だけでなく昨今はプロデューサー業でも手腕を発揮し、『ワールド・ウォーZ』(13)、『それでも夜は明ける』(13)と娯楽、社会派面と絶大な信用度を獲得しているブラッド・ピット製作総指揮、主演作。海軍で潜水艦に乗り込んだ経歴を持ち、リアルな警察モノを手掛けて、評価うなぎ上りのデヴィッド・エアー監督が送る渾身作だ。
史上初、本物のティーガー戦車を投入した本格仕様の撮影が、マニア間で俄然注目を浴びている本作。プラモデルを完成させた経験のない不器用な僕としては、その辺りは全く興味ナシ。それよりもあのデヴィッド・エアーが、どう戦場を映像化したのか?興味深く劇場へ足を運んだのだが…!?

1945年4月。第二次大戦下のドイツ。連合国軍のコリアー軍曹、通称“ウォーダディー”(ブラッド・ピット)が車長を務めるM4中戦車シャーマン、その名も“フューリー(憤怒)”には、砲手の“バイブル”(シャイア・ラブーフ)、操縦手の“ゴルド”(マイケル・ペーニャ)、装填手の“クーンアス”(ジョン・パーンサル)が乗車。彼らは息の合ったチームワークを発揮し、転戦した各地で成果をあげていた。ところが、先の戦闘で仲間の一名が死亡し、新たに若いノーマン(ローガン・ラーマン)が配属される。しかしノーマンはまともな戦闘経験のない元タイピストで、急襲してきたナチスの少年兵をとっさに撃つことができず、隊に損害を出してしまい…。

アフリカ戦線からベルギー、フランスと死線をくぐり抜けてきたフューリーのメンバーは、共に悪態をつきながら家族のような固い絆で結ばれている。そこに新しい家族、ノーマンが加入。文字通り、ウォーダディーは家長として、戦場で生き抜く術を教育していく。
女子供であろうと敵であれば、容赦なく殺さなければならない。それは、殺さなければ、自分が殺される、生き延びるための戦い。また、ミスは自分が死ぬだけならまだしも、他の人間まで犠牲になる可能性もある。
普通の少年だったノーマンはウォーダディーの手荒な実戦指導により、徐々に変化。占領した町においての初恋を経て、そこから復讐心が芽生え、敵を冷酷に殺す兵士へと成長していく。その過程を観客はつぶさに体感する羽目となるのだが、あまりの説得力にゾッとする。誰も異論を挟めまい。

家族のホームであるがゆえに、ウォーダディーはフューリーを見捨てることが出来ない。結果、決死の戦いを挑む姿は、責任感や自己犠牲とは何処かニュアンスの異なる、およそヒロイックではない戦争の真理をあぶり出す。
そして、ラストの英雄誕生の皮肉。かつての自分の良心をそこに見る、やるせなさとむなしさよ。勝った負けたの痛快さや悔しさは微塵もない。

膨大な資料を検証、退役軍事や専門家を招いて徹底リサーチし、当時の状況を完全再現。戦車内における役者陣のプロフェッショナルな一挙手一投足等々、自然に滲み出る実在性から一瞬たりとも眼が離せない。かようなリアル指向で描かれる、人が虫けらのように死んでいく戦場の緊張感と臨場感の凄まじさは特筆に値しよう。
中でもミリタリーマニアが括目する最強と名高い伝説の戦車ティーガーと、性能が劣るフューリーとの一騎打ちシーンの恐怖感たるや!戦車戦の在り様もよく分かり、息を飲みっぱなしであった。

ただ、てっきりクライマックスは、ティーガーとシャーマン軍団との、少数精鋭VS物量の決戦が一大スケールで描かれると思っていたのだが、両車あいまみえるのはこの中盤の一戦のみ。勝手に期待していたこちらが悪いのだが、終盤のアクシデント的展開には、「アレレ…」と拍子抜けしてしまった。

不満といえば、デヴィッド・エアーの語り口にしては、ノーマンのエピソードの造り過ぎ加減が気になった。ウォーダディーと仲間たちは野暮な説明抜きに関係性を匂わす実録風な分、全体のタッチが随分ちぐはぐな感じを受ける。善悪を越えて理屈抜きにスター・オーラが眩しいブラッド・ピットは例外として、シャイア・ラブーフ等の脇キャラの存在感が埋もれる弊害を生んでしまっているように思う。
迫力の映像に飲まれているうちに、あっという間に観終わるのだが、あえて高揚感ある娯楽化を避けた分、意外に淡泊な印象となった。これなら総じてドキュメンタリータッチで通した方が潔かったのではなかろうか?
高クオリティーなだけに、ちょっと残念である。

OP、馬への愛情を垣間見せるウォーダディー。人類は戦場の友として馬を使い、それから戦車へと発展していった。昨今は近接戦闘ではなく、椅子に座り、飛び道具を使った間接戦闘と化している。ラストのエモーショナルな俯瞰の構図が、その現状を不気味に語りかけよう。


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