げに味わい深き、ガールズ・コメディー!
心が洗われる、まさにマイナスイオン映画であった。
本作は、『南極料理人』(09)、『キツツキと雨』(12)、『横道世之助』(13)と高い評価を受けてきた若き奇才、沖田修一監督作。「40歳以上の女性、経験問わず」という条件で、女優を募集。演技未経験の役所の地域サポート係、役者を夢見ていた主婦、元オペラ歌手、劇団員といったバラエティ豊かなメンバーを起用し、撮りあげたユニークな一品だ。ノースターで、役者は無名のおばちゃんオンリーというこのチャレンジングな企画に、まずはビックリである。
「7人のおばちゃん、山で迷う。」という、いかしたキャッチコピーにつられ、フラリと劇場を訪れてみたのだが…!?
温泉付き紅葉狩りツアーに参加した7人のおばちゃんたち(下は44歳から上は79歳)は、幻の大滝を見るべく山道を分け入っていく。友人同士の主婦、桑田(桐原三枝)と田丸(川田久美子)はおしゃべりに夢中で、関本(荻野百合子)は一人マイペースに自然や野鳥を観察し、写真仲間の三角(渡辺道子)と花沢(徳納敬子)は常にカメラをパシャパシャ。何となく気乗りしていない主婦の根岸(根岸遥子)と美容師の谷(安澤千草)はバスの中で挨拶を交わし、親交を深めていた。そんな折り、先行したツアーガイドの男(黒田大輔)が、いくら待っても帰って来ず、しびれをきらした7人は二手に分かれて探索することにするのだが…。
冒頭に沖田映画お馴染みの男優さんがちょこっと出てくるのみで、本作はすぐに純然たるおばちゃんムービーと化す。スクリーンには、おばちゃんと山の自然しか出てこない。でも、失礼な言い方ではあるが、そうなっても全く苦にはならない。
彼女たちが山で遭難し、サバイバルを強いられていくうちに個性が明らかになり、キャラが立ってくる。すると、どんどん愛着がわき、気付くと7人のヒロインのチャーミングな魅力にすっかり虜になっていた。
劇中では、彼女たちの境遇を台詞で説明するような野暮な真似は、一切しない。泣き言を口にするシーンや心情を吐露する夢シーンもあるにはあるが、基本、年輪が刻まれたその立ち居振る舞いで察せよといわんばかり。それでも充分、バックグラウンドが伝わってくるのだから驚きである。
それもこれも沖田監督が、役者陣の半生をリサーチし、役と本人を重ね合わせて脚本を書き、演出しているがゆえ。この人とこの人がいがみ合う理由も、ある人物の明るい性格の裏にある悲しさも、驚くほど豊かに息づいている。自然にやっているように見えて、全てに計算が行き届いている見事な作劇だ。
7人全員を素人で揃えず、演技経験者を交える試みもまた、リアルと造り物が混在する不思議なアンサンブルを形成している。現実とあの世の狭間の世界を覗いているような感覚とでもいおうか。
確かにピンチではあるのだが、絶体絶命というほどシリアスでもなく、のほほんとした空気が充満。いうほど切羽詰まってもなく、それぞれが特技を活かしたハウツーものとしても薄味である。でも観ていて、クスクス笑いっぱなし。木の実を拾っているだけで笑みがこぼれてくる。それがユル~い沖田ワールドともいえ、その居心地のいい魔力に存分に浸れよう。
何より、演技をエンジョイしている彼女たちのキュートさに完全ノックアウト。少女に戻ったような無邪気さに、大いになごむ。苦難を共にして絆を育んでいき、状況にワクワクして生命活力を取り戻していく様は、老若問わず共感を呼ぼう。
そして、訪れる清々しいラスト。人生色々あるけれど、なんとかなる。年齢なんか関係ない。あきらめず行動すれば、何かが変わる。行動しなければ、何も変わらない。至極真っ当な力強いテーマが身に沁みる。
SF大作『インターステラー』(14)では、深遠な宇宙空間で当テーマを謳っていたが、本作のような小品でも同等の感動を得られるのだから何をかいわんや。映画の奥深さといえよう。
恐るべし、沖田修一。
本作は、ネット上で一般から資金を調達するクラウドファンディングサイトの大手と、松竹ブロードキャスティング株式会社との提携第1弾である。
かつてのATGのような作家性の濃い作品を送り出すべく結成された当プロジェクト。本作のような、およそ商業性とは無縁の作品を実現させた成果を讃えたい。
スポンサーや芸能事務所の干渉をうけず、なおかつ若手へ門戸を開いた意欲的な作品が生み出されることを期待したい。今後も注目である。
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心が洗われる、まさにマイナスイオン映画であった。
本作は、『南極料理人』(09)、『キツツキと雨』(12)、『横道世之助』(13)と高い評価を受けてきた若き奇才、沖田修一監督作。「40歳以上の女性、経験問わず」という条件で、女優を募集。演技未経験の役所の地域サポート係、役者を夢見ていた主婦、元オペラ歌手、劇団員といったバラエティ豊かなメンバーを起用し、撮りあげたユニークな一品だ。ノースターで、役者は無名のおばちゃんオンリーというこのチャレンジングな企画に、まずはビックリである。
「7人のおばちゃん、山で迷う。」という、いかしたキャッチコピーにつられ、フラリと劇場を訪れてみたのだが…!?
温泉付き紅葉狩りツアーに参加した7人のおばちゃんたち(下は44歳から上は79歳)は、幻の大滝を見るべく山道を分け入っていく。友人同士の主婦、桑田(桐原三枝)と田丸(川田久美子)はおしゃべりに夢中で、関本(荻野百合子)は一人マイペースに自然や野鳥を観察し、写真仲間の三角(渡辺道子)と花沢(徳納敬子)は常にカメラをパシャパシャ。何となく気乗りしていない主婦の根岸(根岸遥子)と美容師の谷(安澤千草)はバスの中で挨拶を交わし、親交を深めていた。そんな折り、先行したツアーガイドの男(黒田大輔)が、いくら待っても帰って来ず、しびれをきらした7人は二手に分かれて探索することにするのだが…。
冒頭に沖田映画お馴染みの男優さんがちょこっと出てくるのみで、本作はすぐに純然たるおばちゃんムービーと化す。スクリーンには、おばちゃんと山の自然しか出てこない。でも、失礼な言い方ではあるが、そうなっても全く苦にはならない。
彼女たちが山で遭難し、サバイバルを強いられていくうちに個性が明らかになり、キャラが立ってくる。すると、どんどん愛着がわき、気付くと7人のヒロインのチャーミングな魅力にすっかり虜になっていた。
劇中では、彼女たちの境遇を台詞で説明するような野暮な真似は、一切しない。泣き言を口にするシーンや心情を吐露する夢シーンもあるにはあるが、基本、年輪が刻まれたその立ち居振る舞いで察せよといわんばかり。それでも充分、バックグラウンドが伝わってくるのだから驚きである。
それもこれも沖田監督が、役者陣の半生をリサーチし、役と本人を重ね合わせて脚本を書き、演出しているがゆえ。この人とこの人がいがみ合う理由も、ある人物の明るい性格の裏にある悲しさも、驚くほど豊かに息づいている。自然にやっているように見えて、全てに計算が行き届いている見事な作劇だ。
7人全員を素人で揃えず、演技経験者を交える試みもまた、リアルと造り物が混在する不思議なアンサンブルを形成している。現実とあの世の狭間の世界を覗いているような感覚とでもいおうか。
確かにピンチではあるのだが、絶体絶命というほどシリアスでもなく、のほほんとした空気が充満。いうほど切羽詰まってもなく、それぞれが特技を活かしたハウツーものとしても薄味である。でも観ていて、クスクス笑いっぱなし。木の実を拾っているだけで笑みがこぼれてくる。それがユル~い沖田ワールドともいえ、その居心地のいい魔力に存分に浸れよう。
何より、演技をエンジョイしている彼女たちのキュートさに完全ノックアウト。少女に戻ったような無邪気さに、大いになごむ。苦難を共にして絆を育んでいき、状況にワクワクして生命活力を取り戻していく様は、老若問わず共感を呼ぼう。
そして、訪れる清々しいラスト。人生色々あるけれど、なんとかなる。年齢なんか関係ない。あきらめず行動すれば、何かが変わる。行動しなければ、何も変わらない。至極真っ当な力強いテーマが身に沁みる。
SF大作『インターステラー』(14)では、深遠な宇宙空間で当テーマを謳っていたが、本作のような小品でも同等の感動を得られるのだから何をかいわんや。映画の奥深さといえよう。
恐るべし、沖田修一。
本作は、ネット上で一般から資金を調達するクラウドファンディングサイトの大手と、松竹ブロードキャスティング株式会社との提携第1弾である。
かつてのATGのような作家性の濃い作品を送り出すべく結成された当プロジェクト。本作のような、およそ商業性とは無縁の作品を実現させた成果を讃えたい。
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