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Channel: 相木悟の映画評
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『ルパン三世』 (2014)

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世界にうって出る、意欲溢れるジャパニメーション実写版!



国民的大泥棒がアニメから実写へ、既成概念を吹き飛ばす一大エンターテインメントとしてお目見えである。
数度のTVアニメ化を経て、人気を不動のものとし、今なお連綿と続く定番作となったモンキー・パンチの漫画『ルパン三世』。本作は、まさかの実写映画化である。(過去に『ルパン三世 念力珍作戦』(74)という一例があり、カルト映画と化しているのはご存じの通り)メガホンをとったのは、ハリウッドを拠点におく豪匠、北村龍平監督だ。
僕と『ルパン三世』との関係性は、原作は未読で、アニメ版をちゃんと観たのはファースト・シリーズのみ。一番支持を集めるセカンド・シリーズは子供の頃、日曜昼の再放送でチラチラ見ていた程度で、劇場版は『カリオストロの城』(79)をリバイバルで鑑賞したぐらい。よって、さほど思い入れがない分、キャスティングに対して沸騰している批難の嵐には、“造り手の数だけバージョンがある懐の深さがルパンらしさ”と寛容に構えている。むしろ日米を渡り歩いた北村監督の手腕に期待を抱き、劇場へ向かったのだが…!?

かつてアントニウスがクレオパトラに贈った世紀の秘宝“クリムゾン・ハート”。現在では秘宝は“光の首飾り”と“真紅のルビー”に分離され、めぐりめぐって世界有数の盗賊団“ワークス”の老頭目ドーソン(ニック・テイト)が“光の首飾り”を、アジアの闇社会を牛耳るMr.プラムック(ニルット・シリチャアンヤー)が“真紅のルビー”を所有し、お互いに虎視眈々と狙い合っていた。
ある日、ドーソンは後継者を発表するべく、自身の大邸宅に“ワークス”のメンバーを収集。ルパン三世(小栗旬)、峰不二子(黒木メイサ)、マイケル・リー(ジェリー・イェン)といった名立たる大泥棒が集結するも突如、マイケルが造反。プラムックと通じていたマイケルは一味を手引きし、邸宅を急襲。ドーソンを亡き者にし、“光の首飾り”をまんまと奪い去るのであった。
なんとか生き残ったルパンと不二子、ドーソンの用心棒の次元大介(玉山鉄二)ら一行は、剣豪の石川五ェ門(綾野剛)を仲間に引き入れ、秘宝の奪還を決意。秘宝が隠されるプラムックの難攻不落のセキュリティ要塞“方舟(ジ・アーク)”に挑むべく準備を進めるのであった。一方、同じくプラムック一味を狙うインタポールの銭形警部(浅野忠信)がルパンに接触し、ある取引をもちかけてきて…。

結論からいうと、なんやかんや一周回って一言、めちゃくちゃ面白かった!これはなかなかの代物である。
成功の要因は、北村監督にオファーした英断につきよう。北村監督といえば、デビュー当時から強烈な個性を打ち出し、主にアクション分野で頑なにブッ飛ばしてきた、好き嫌いの分かれる監督さんである。正直、僕は氏のいやがうえにも前へ前へと出てしまう“我”の強さが苦手であった。それがノイズになって、映画の中にうまく入っていけないのだ。とにかく自分の美学にこだわり抜いたカットだけをつないだ内容は、気合充分でサービス精神に溢れてはいる。が、裏方である監督の自意識が表面にほとばしる上に、肝心のキャラクターの感情が押しつぶされ、どうしても緩急のない一辺倒な印象になってしまう。
とはいえ、自主製でも大作でも、どんな環境であろうと作家性を打ち出してみせる情熱と、端からハリウッドを目指すギラついた向上心は、常々尊敬していた次第である。
『ゴジラ FINAL WARS』(04)後にハリウッドに渡り、一から出直す根性など本当にスゴイと思う。
ハリウッド進出第一作『ミッドナイト・ミートトレイン』(08)は、製作会社の政争に巻き込まれてまともに全米公開されず、第二作『ノー・ワン・リヴズ』(13)もあまり公に紹介されない不遇な扱いを受けてはいるが、どちらも高クオリティを誇っており、確実に地位を築いている。ワールドワイドな躍進は、まさにこれからであろう。
(それにしても、なぜ日本では、ハリウッドで奮戦している氏をもっと大々的に喧伝し、応援しないのだろうか?業界系の事情があるのかもしれないが、あまりに心が狭い。映画ファンだけでも後押しすべきである)

本作はそんな北村監督が、ハリウッドで習得したエンタメのノウハウを注ぎ込みつつ、日本らしさを醸しながら世界展開を視野にいれた、色んな意味でとんでもない内容となっている。
日本らしさという点では、アメコミ映画のリアル指向を真似せず、あえて漫画的な荒唐無稽さを色濃く残し、それでいて最低ラインの現実感を守る路線を開拓。この匙加減は絶妙である。同時に、軽妙な現実離れしたキャラたちの活躍で浮世の憂さを忘れる、『ルパン三世』の本質をよくとらえていると思う。

中でも役者陣の健闘が光る。
「ま、いいか」の笑顔が素敵なルパン役の小栗旬から、不二子役の黒木メイサ、次元役の玉山鉄二、五ェ門役の綾野剛、銭形警部役の浅野忠信と、皆コスプレ大会然としたカリカチュアとリアリティのギリギリの綱渡りを見事に成立させており、称賛に値しよう。
マイケル役の台湾スター、ジェリー・イェン、ルパン一味のメカニック担当のピエール役の韓国スター、キム・ジュン、『アジョシ』(10)で味のある名演をみせた傭兵ロイヤル役のタナーヨング・ウォンタクーン、『オンリー・ゴッド』(13)組の今回は“いい人”役で拍子抜けするウィッタヤー・パンシリガームと美しすぎるラター・ポーガーム、終盤に出てきてやたら強烈なインパクトを残す女ハッカー等々、韓国、台湾、タイの俳優陣が皆しびれるぐらい格好よく、存在感抜群だ。

他、撮影監督、アクション監督、VFXと国際色豊かなキャストとスタッフでつくりあげた肌触りは、かつてないものをつくらんとする熱気がみなぎっている。クライマックスの派手な軍事バトルまで、ゲップが出るぐらい忙しなく続くアクションも美術も、安っぽさは全くない。(海外ロケの効果が、あまり感じられないのは勿体ないが…)
鳴りっぱなしの音楽も往年のプログラムピクチャーを思わせ、ノリにノレた。

要は本作の全方位に至るハチャメチャ加減が、『直撃!地獄拳』(74)等の自由奔放であった古き良き時代のゴージャスな再現に見え、存分に楽しめた訳である。外国語で話すシーンを、吹き替えている違和感もまた懐かしい(笑)。(字幕版のワールドプレミアバージョンでも観てみたいぞ!)
陰気な邦画アクションより、この突き抜けた陽性ぶりがアッパレではないか。おそらくバカバカしいと「否」の意見が多くなるかもしれないが、僕は大いに支持したい。

ただ、惜しむらくは脚本である。もう少し、騙し合いやどんでん返し等のスパイものの醍醐味があってもよかったのではなかろうか?展開があまりに安易すぎる。
それにハリウッドの作品では、撮影システム上、ほどよくブレーキがかかり、監督の暴走がおさえられて、それが完成度を高めていたが、やはり日本映画ともなればやりたい放題が復活。以前に比べればスマートになったものの、押せ押せのアクションと執拗なキメ画の連続に辟易する部分も多い。
あと、これだけアニメ版に寄せているのに、製作母体のゴタゴタでお馴染みのテーマ曲が使えなかったのも痛恨の一撃であった。勿体ないにも程があろう。どうにか融通が効かなかったのか。

諸々の問題点は続編での改善に期待したいところである。緑ジャケットが端的に示すように、本作はあくまで序章なのだから。


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