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『TOKYO TRIBE』 (2014)

前代未聞のバトル・ラップ・ミュージックカルに驚嘆せよ!

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いやはや、ユニークな映画体験であった。ここまでやられたら、アッパレという他あるまい。
本作は、映画界で華々しく狂い咲く園子温監督作。今回は、ファッション誌で連載されていた井上三太のカルト漫画『TOKYO TRAIBE2』の映画化だ。原作は限りなく東京に似ている架空の都市トーキョーを舞台に、ストリートギャングが抗争を繰り広げるバイオレンス&ファッショナブルな、一般漫画とはちょっと異なる肌さわりの怪作である。ずっと映画化の企画はあったらしいが、難航したのもさもありなん。これは下手に手を出せばチープになるのがオチな危険な題材である。それを今さらながら園子温監督により映画化されると伝え聞き、「お!」と身構えた次第。いい意味で、『ヒミズ』(12)でも原作をぶっ壊した御大である。さらに原作のヤバさが増大するのでは…、と恐れおののきながら劇場へ向かったのだが…!?

近未来のトーキョー。若者たちはトライブ(族)を組み、各々の町を暴力で縄張り化。各トライブの実力は拮抗し、パワーバランスは保たれていた。そんな中、“ブクロWU-RONS”のボス、メラ(鈴木亮平)は、温和なトライブである“ムサシノSARU”のメンバーの海(YOUNG DAIS)を異常なまでに敵視し、スパイを送り込み、罠にはめんと画策。“ムサシノSARU”のキム(石田卓也)を餌に、まんまと海たちを配下の風俗店“SAGA”におびきよせることに成功する。しかしそこには、“ブクロWU-RONS”を裏で操る悪の帝王ブッバ(竹内力)が拉致した謎の女スンミ(清野菜名)が囚われており、海の手引きで脱走。彼女の正体が思わぬトリガーになり、新たなブッバ勢力“WARU”がトーキョーを蹂躙。果てはトーキョー中のトライブを巻き込んだ一大抗争に発展して…。

当初、園子温監督にはチーマーの世界に対する造詣がなく、どうアプローチしたらいいか悩んだところ、台詞をラップにしたミュージカル化を思いつき、活路を開いたのだとか。ならばヒップホップに詳しいかというと、さにあらず。それらは全て詳しい人間に丸投げしたというのだから大胆極まりない。
興味がないなら引き受けなければいいのにと一見思うが、逆境をパワーに変えるのが園子温の流儀。いわく、『ゴッドファーザー』(72)のフランシス・フォード・コッポラも『仁義なき戦い』(73)の深作欣二も互いにマフィアとヤクザに興味がなく、対象との距離感が名作を生んだ教えに準じたのだとか。

また、ロケ地も原作通り、実際に新宿、渋谷、池袋でのバトルは不可能ということで、なんとセットで町を丸ごと構築。監督がみそめたアーティストたちを集めて飾り付け、『ブレードランナー』(82)よろしく、けばけばしい世紀末的な異空間をつくりあげている。もう美術の豊富な情報量だけで、頭がクラクラしてくることうけあいだ。
個人的には原作のファンタジーながら、やたらリアルに再現された町々を破壊しながら死闘を展開するところが好きだったぶん残念だが、実現性を考えたら致しかたあるまい。
これらの経緯から、なるほど園子温監督だからこそ、これほど斬新な発想の映画が生まれえたことがよく分かる。

ドラッギーなアジアン空間の中、ラップで話すストリートギャングたちの血で血を洗う大抗争がハイテンションで紡がれていく。井筒和幸監督の『ガキ帝国』(81)、石井聰互監督の『爆裂都市 BURST CITY』(82)、ウォルター・ヒル監督の『ウォリアーズ』(79)等々が、本物のチンピラや暴走族を起用したように、本作もリアルなラッパーたちや荒くれ者たちが大挙出演。本物がひしめく果てしないバイオレンスとエロス、サウンドの熱量に、ア然としている間に終わってしまう。どう評していいか迷うほどの奔流映画となっている。

役者陣も、とことんヒートアップ!
『HK/変態仮面』(13)で裸芝居に覚醒したメラ役の鈴木亮平は、本作でも惜しげもなく肉体美を披露。全編フリきれている。おかげで海役にオーディションで抜擢されたラッパーのYOUNG DAIS君は、本来、主人公でありながら、メラのインパクトに埋もれてしまった感があるが、比べるのは酷というものであろう。
裏社会に君臨する大親分ブッバ役で怪気炎を吐く竹内力の、恐怖の暴走ぶりには大爆笑。ブッバの息子役の窪塚洋介もこれ以上なくクレイジーな世界観にはまり、倒錯ぶりが適役だ。
同じくブッバ一家の中川翔子、叶美香ら賑やかしも適材適所笑わせてくれる。
笑ったといえば、“ムサシノSARU”のリーダー、テラさん役の佐藤隆太のハマリ加減もGOOD。
スンミ(=百鬼丸)にくっついているオリジナルキャラの小娘ヨン(=どろろ)役の坂口茉琴の、やたらに高い格闘スキルも圧巻。鼻をこする、“どろろ”オマージュにも注目だ(笑)。
大司祭役のでんでんから、風俗店“SAGA”の店長ムカデ(!)役の北村昭博、セクシー要員の佐々木心音、純粋なラップ・ファン役でチラリと映る『テラスハウス』のてっちゃんまで、細部に宿るキャラ立ちはさすがという他ない。

そして話題沸騰のキャストといえば、何といってもスンミ役の清野菜名である。吉瀬美智子を若くソフトにしたような美人ぶりと、体当たりの活きのいい存在感に完全ノックアウト!またも園子温作品のパンチラ・ヒロインから、明日のスター誕生だ。

ストーリー自体は、原作を一応踏襲してはいるものの、基本メチャクチャである。スンミのエピソードなど、どうでもいい扱いとなり、最終的には完全放置。特にメラと海の因縁の改変には、眼が点になった。原作ファンは、ぜひ劇場でお確かめを。原作者は怒らないのか?と心配になるが、井上三太自身、劇中でレンコンシュフ役を楽しそうに演じているのだから何をかいわんや。この“戦いにまともな理由なんてない!”という改変ポイントに、なんでも感動話にする安直な日本映画への反逆精神が表れていよう。
というか、既成概念を吹き飛ばすように話の整合性を無視し、面白ければ何でもあり、前人未到の挑戦をはたした本作自体が、日本映画界への喝となっているように思う。それが“A SONO SION' S FILM”。
本作が多くの人の眼に触れ、刺激を与えることを望む。


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