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Channel: 相木悟の映画評
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『猿の惑星:新世紀(ライジング)』 (2014)

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示唆に富む、猿VS人間の哀しき戦争!



SFエンタメでありながら、身につまされる優れた教訓映画であった。
映画史に燦然と輝きながら、1作目を頂点に回を重ねる毎にB級へと下降線をたどったためか、どこか一段低い娯楽作とみられていた『猿の惑星』シリーズ(68〜73)。それを風刺的な妙味を現代社会と絡めてうまく活かし、前日譚として風格あるリブートをはたしたのが『猿の惑星:創世記』(11)だ。本作は、オリジナルの一作目に向けて物語の核心はここから、というタイミングで終わった当作の待ちに待った続編である。
監督は、マット・リーヴスに交代。インディアンのようにペインティングしたシーザーの姿にセデック族を重ね合わせ、いやが上にも期待が高まったのだが…。

新薬の実験により遺伝子操作され高い知能をえた猿のシーザーが、仲間と共に人類に反旗を翻してから10年。人類は自ら開発した悪性ウィルスを世界に蔓延させ、自滅の道を辿っていた。その間、シーザーはサンフランシスコ郊外の山奥に猿たちの一大コミュニティーを構築。妻コーネリアと息子ブルーアイズ、生まれたばかりの赤ん坊と共に平和に暮らしていた。
そんなある日、ゴールデンゲートブリッジを挟んだ都心部に生息していた人類がシーザーたちのテリトリーに侵入。ブルーアイズといざこざを巻き起こす。実はドレイファス(ゲイリー・オールドマン)をリーダーとする人類サイドではエネルギーが枯渇し、山奥にある水力ダムを稼働させる計画が持ち上がっていたのだ。しかしシーザーはわざわざ人類のもとに軍隊を率いて乗り込み、断固、森へ足を踏み入れぬよう警告する。そこで計画チームのマルコム(ジェイソン・クラーク)は、シーザーに直談判。なんとか誠意が通じ、ダム修復の許可をとるのであった。
一方、人間に不信感をもつシーザーの片腕コバは、人間側が武装している事実をつかみ、手遅れになる前に戦いを挑むよう息巻くのだが…。

一作目の『猿の惑星』(68)を子供の頃に観た際は、猿人の特殊メイクに驚愕しながら楽しんだ記憶がある。それがことココに至っては、猿メイクを施した役者どころの騒ぎではなく、“猿そのもの”が生物的に躍動。人間とリアルに共演しているようにみえるのだから、技術の進歩にはつくづく仰天せざるをえない。猿本来のアクロバティックな動きで、人間たちと迫真のバトルを繰り広げる戦争絵巻には圧倒されんばかりだ。
しかもパフォーマンス・キャプチャーによる人間味あふれる動作や表情の機微により、次第に同じ顔が並ぶ猿たちの見分けがつき、感情移入してしまうのだから何をかいわんや。当分野の第一人者アンディ・サーキスが、クレジットのトップに躍り出るのもさもありなん、だ。

もちろんエモーショナルに作用するのは、ドラマの強靭な推進力あってこそ。実によく脚本が練られている。
何をおいても、人の世に争いが起こるメカニズムを端的にみせきっている点が秀逸きわまりない。要は猿と人間の勢力の中でもハト派とタカ派に分裂する訳だが、善悪関係なくそれぞれに納得できる思想形成の理由付けが丹念になされていく。
さらに利便性をもとめるエネルギー問題と、武器が及ぼす影響力をも説得力をもって絡めていくのだから隙はない。
「猿は猿を殺さない」と人間との違いをスローガンにして、優位性を保とうとするシーザー。その涙ぐましい精神が、なぜ破られたのか?そうなるに至ったキーアイテムとは何か?
憎悪にかられた一部の存在により、扇動と暴力による恐怖支配がしかれる現実世界と鏡合わせのようなゾッとする展開が続く。
そんな中で繰り広げられるシーザーとマルコムのドラマには、胸が張り裂けそうになる。(本作は前作未見でもほとんど問題はないが、この点は観ていた方が感涙倍増だ)

猿たちがちゃんと猿語(ジェスチャー?)で会話している点にも、大いに感心した。ハリウッド映画ならこういう場合、しれっと英語で会話させていてもおかしくないところを、字幕スーパーで処理したリアリティのこだわりを讃えたい。
『國民の創生』(15)をパロったポスターからもビシビシ伝わる通り、造り手の並々ならぶメッセージ性が感じられよう。

人類と猿軍団との戦争は避けることはできなかったのか?
その問いに関する対処法は、すでにOPで語られている。うかつに動いて熊に襲われた息子にシーザーは言う。「行動する前に考えろ」と。事態を前に誰もが冷静を保てたら、理想は叶うのだろう。

本作は前作に引き続きサンフランシスコ限定で話が運び、ある種、箱庭的にコンパクトにおさめられている。これらはシンプルで無駄がなく、寓話性において効果覿面であったと思う。世界規模な拡がりをみせるのは、次回作からというわけか。どんな壮大なドラマをみせてくれるのか楽しみである。

良くも悪くも事態は動き出したら止まらない。シーザーがどんな決意の表情をみせるのか。胸をうつラストカットを、ぜひ劇場でお確かめあれ。


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