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Channel: 相木悟の映画評
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『007は二度死ぬ』 (1967)

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荒唐無稽モードの開祖たる異色の第5作!



毎度お馴染み、荒唐無稽なアクションを活写する“007シリーズ”。中でも「一番の珍品といえば?」というクエスチョンには皆、声を揃えて答えよう。
『007は二度死ぬ』(67)と。
という訳で本作は、ルイス・ギルバートが監督を務めたシリーズ第5作。
高品質のスパイものとして映画史に名を刻む2作目『ロシアより愛をこめて』(63)、シリーズの雛型をつくった記念碑たる3作目『ゴールドフィンガー』(64)、そして超大作たる4作目『サンダーボール作戦』(65)にてシリーズはひとつの頂点を極めた。
よって、その頃には空前のスパイ映画ブームが到来。数々の類似品が乱造され、本家を脅かし、シリーズへのテコ入れが急務となっていた。そこで差別化をはかる意図で、極東の異国が舞台となる変わり種の原作をチョイス。いわば、本作は珍品になるべくしてなった運命の一作なのである。
結果、同年に公開されたパロディ作『カジノ・ロワイヤル』を蹴散らし、それなりのヒットを記録。パイオニアの底力を見せつけた。

アメリカの有人衛星が宇宙空間で謎の飛行物体に拿捕される怪事件が発生。アメリカはソ連の仕業を疑い、国際的緊張が高まっていた。そんな中、イギリスの諜報機関“MI6”は、謎の飛行物体が日本周辺から飛び立っている情報をキャッチしており、さっそくエージェント“007”ことジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)を日本へ派遣することを決定。“MI6”は敵の眼を欺くべく、香港でボンドが暗殺される芝居をうち、極秘裏にボンドは日本へ上陸するのであった。
さっそく蔵前国技館で現地諜報員のアキ(若林映子)と接触し、オーストラリア人連絡員のヘンダーソン(チャールズ・グレイ)に会うボンド。しかしヘンダーソンは殺され、刺客を返り討ちにしたボンドはその刺客に化けて、まんまと雇い主の大里化学工業の本社ビルに潜入。当社がロケット燃料を大量に扱っている書類をゲットしたボンドは、アキの上司である公安トップのタイガー田中(丹波哲郎)の協力を仰ぎ、本格的に大里の調査を開始する。すると大里のバックに潜む国際犯罪組織“スペクター”の世界を破滅に導く陰謀が明らかになってきて…。

ある意味、本作を一番楽しめるのは、我ら日本人であろう。まずはその特権を享受する広い心を持つことが肝要である。考えてみれば、これほどの贅沢はあるまい。
常々、ハリウッド映画に出てくる日本描写は誤解だらけであり、日本人観客を考慮に入れてはいない。自国の観客が観て面白いか?があくまで基準であり、どうしてもリアルなリサーチより誇張されたイメージに偏ってしまう。本シリーズはイギリス製インディーズ映画ではあるが、その例にもれず、眩暈を覚えるほどのビックリ光景が所狭しと展開される。

とりあえず主な箇所を挙げていくと、第50代横綱、佐田の山が現地の協力者という凄まじい設定で登場。ということは、横綱が公安の手先になり、常識的に考えれば不謹慎極まりない(笑)。あまつさえ本場所中の国技館の支度部屋でボンドと密会するのだから、何をかいわんや。(ちなみに本シーンで、なんと同じ横綱の大鵬と柏戸が画面の隅に写り込んでいる。東西に分かれるはずの横綱が同じ支度部屋に集結している図は異様という他ないが、おそらく真相は当の横綱たちが映画に出たかっただけであろう)
「常に男が先で、女は後だ!」と世界中のフェミニストを敵に回すような日本男児の女性観が開陳されるボンドとタイガー田中との混浴シーン、地下鉄丸ノ内線を走行する公安の専用車両、姫路城内で柔道、剣道の特訓をする忍者軍団(この撮影時、姫路城の城壁を傷つけ、以降、当所での映画撮影が禁止されるという禍根を残した)、街中で平気で展開する銃撃戦、等々、腹が立つより先にあまりのぶっ飛びぶりに大爆笑である。

同時に、他のシリーズに比べ、正誤はともかく日本文化の紹介にじっくり尺がさかれており、観光映画っぽい側面を押し出している点が異色たる由縁といえよう。
他にも、ボンドの決め台詞がなかったり、シェイクではなくステアしたマティーニをボンドが飲んだり、ボンドが車を運転するシーンがなかったり、ロンドンのシーンがなかったりと、番外編の印象が濃い一作である。

ただ、それらの勘違い描写を抜きにしても、本作はいちいち指摘するのが疲れるほど突っ込みどころ満載だ。
敵の行動も腑に落ちず、なぜか捕えたボンドをすぐに始末せず、凝った方法で殺そうとして逃げられるという意味不明行動が散見。ボンドがハイテク技術(?)で日本人に変装して敵の基地に程近い漁村(鹿児島県坊津)に潜入し、現地エージェントのキッシー鈴木(浜美枝)と偽装結婚するという、どう見ても無謀な作戦は今や語り草である。
脚本は、イアン・フレミングと親交があった『チャーリーとチョコレート工場』で有名な作家ロアルド・ダールが執筆しているのだが、これまでの脚本家リチャード・メイボウムの代役として突貫工事で仕上げた為、練り込み不足で、氏の味が全く活きていない。

毎度お楽しみのタイトルバックは、フランク・シナトラの愛娘ナンシー・シナトラが歌う主題歌の気怠い情感と、モーリス・ビンダーが手掛けたマグマと蛇の目傘と日本女性のシルエットのデザインが妖艶に融合。さすがのクオリティを誇っている。
ちなみに本作のタイトルは、松尾芭蕉の俳句の一節「人生は二度しかない、生まれた時と、死に直面した時と」から引用されており、映画は原作にないアバンタイトルのボンドの死を偽装するシーンを付け加えた為、分かり易い意味を持つ結果となった。

ボンドガールには、日本人女優の若林映子と浜美枝が抜擢され、どちらもボンドガールの名に恥じないさすがの美女ぶりを発揮している。
有名な逸話としては、当初、二人の配役は逆であり、英語特訓で浜美枝が上達しなかった為、入れ替わる羽目となった。でも結果的にビキニで動き回る役に長身でスレンダーな日本人離れした浜さんは、あの役で最適であったと思う。
一方、悪ボスに処刑されるパターン初の敵側ボンドガール、ヘルガ・ブランド(カリン・ドール)は、超絶美人ながらコレといった見せ場なく退場。ちと不憫である。

そして本作最大のトピックといえば、宿敵“スペクター”の首領ブロフェルドの顔出しだ。
演じるのは、ドナルド・プレザンス。後年はホラー映画でお馴染みの名優だが、本作へは先に当役を演じていた役者がミスキャストと判断され降板し、急遽、代役としての出演となった。とはいえ、そのインパクトは絶大で、パロディの『オースティン・パワーズ』シリーズでも引用される等、シリーズで一、二を争う悪役の地位を築いている。

日本側諜報部のトップ、タイガー田中に扮した若き日の丹波哲郎も、なかなかの格好良さ!ショーン・コネリーと男ぶりで互角に渡り合っている。英語力を活かし、日本人スタッフと海外スタッフとの橋渡しも兼ねていた氏だが、肝心のセリフは残念ながら吹替えとなった。

他、ヘンダーソンを暗殺する殺し屋を送迎する運転手にハリウッドスター、ロックのお祖父さんにしてハワイ出身の有名レスラー、ピーターメイヴィアが“スペクター”のNO.3役で、『ピンク・パンサー』シリーズの召使い役で有名なバート・クォークが、アバンタイトルの香港シーンでは名女優ツァイ・チンが登場。豪華に脇を固めている。
日本サイドでは、海女さん役で松田きっこが1シーン出演しているのでお見逃しなく。

“MI6”のM(バーナード・リー)とマネーペニー(ロイス・マクスウェル)は、原子力潜水艦内のオフィスで海軍制服姿を披露。
Q(デスモンド・リュウェリン)は日本までわざわざ出張してくるが、ガチに長旅に疲れているように見えるところがご愛嬌。

5度目のボンド役となるショーン・コネリーは、本作にて降板を宣言し、なおかつ日本での撮影で大勢のファンと報道陣にトイレにまでつきまとわれ、終始イライラしていたからか、キレが悪く俄然やる気を感じない。

アクション方面に関しては、当時の日本の風景の中で改造トヨタ2000GTが繰り広げるカーチェイスにテンションアップ!巨大磁石を使ったウルトラCな攻略法に呆然!
秘密兵器である小型ジャイロコプター“リトルネリー”VSヘリコプターとの空中戦もダイナミックで見応えたっぷりである。

ケン・アダムが手掛けた、火口にある“スペクター”の秘密基地の壮大なセットも圧巻の一言!本セットに『ドクター・ノオ』一本の製作費をかけているのだからスゴすぎる。
またデヴィッド・リーン作品で3度アカデミー賞を受賞した名カメラマン、フレディ・ヤングが切り取った日本の映像美にもご注目!
この二人の一級の働きぶりが、確実に本作の底上げに貢献していよう。

とかく、おバカ映画として名高い本作だが、奇想天外なエンタメ路線を切り開いた記念碑としてシリーズ下、極めて重要なポジションにある。フレミングの原作を逸脱し、大衆娯楽として長く続く礎を本作で築いたといっても過言ではなかろう。
歴史は繰り返す―。
ぜひいつか日本ロケを再敢行して、本作の路線に返り咲いて欲しいものである。


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