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Channel: 相木悟の映画評
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『柘榴坂の仇討』 (2014)

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時代の荒波を乗り越える人の情!



誇り高き男の生き様を描いた直球の時代劇であった。ゆえに好感度は高いのだが…。
本作は、浅田次郎の短編集『五郎治殿御始末』に収められた同名小説の映画化。浅田原作、主演:中井貴一、音楽:久石譲とくれば、監督は滝田洋二郎かと思いきや、メガホンをとったのは『沈まぬ太陽』(09)の若松節朗監督だ。
原作ものの場合、ほとんどが長編を圧縮し、ファンの不満がもれるケースが大半だが、本作は逆パターン。原作を膨らます形の方が必然的に無理はなくなるが、はたして本作はうまくいったのか?くしくも同じ明治初期に材をとった『るろうに剣心』の派手さに比べると地味な印象が否めず、不運にも陰に覆われてしまった感があるが…。

時は幕末。彦根藩士、志村金吾(中井貴一)は、剣術の腕を認められ、大老、井伊直弼(中村吉右衛門)の近習に取り立てられる。ところが安政七年三月三日、登城途中の桜田門外で水戸浪士たちの襲撃をうけ、金吾は下手人の一人、佐橋十兵衛(阿部寛)と刃を交えているうちに、直弼の首をとられてしまう。この失態をうけ、両親は自害し、自分も切腹するつもりの金吾であったが、藩はそれを許さず仇討を厳命するのであった。
こうして13年の月日が流れ、時代は明治へと移りかわるも、金吾は酌婦に身をやつした妻セツ(広末涼子)に支えられながら任務を遂行。仇の最後の生き残りである十兵衛をひたすら探し続けていた。一方、十兵衛はすでに刀を捨て、車夫として孤独な生活を送っており…。

明治維新により、ライフスタイルが一変。武士階級が没落し、あまつさえ“仇討禁止令”まで布告される中、髷もそのまま、かたくなに武士の矜持を守り、仇を追い続ける金吾。しかしその真意は、主君への人間的な情に基づいている。旧システムを美化し、それにしがみついている訳でもなく、もちろんさっさと転身した武士たちに対する蔑みもない。およそ復讐心とも異なり、いわば、執着するのは“自分との決着”。普遍的な信念の生き様といえよう。
十兵衛もまた欧米化が進む現在を見て、開国派であった井伊直弼を討った行為に意味があったのか?と思い悩み、俥よりはるかにヘビーな過去を引きずっている。
かように重荷を背負った二人は、実のところはお互い相手に斬られる決着を望んでいる。死を欲していた二人が相まみえ、戦いの果てに辿り着く境地は、まこと感動的だ。中井貴一と阿部寛の静かなる熱演により、胸をうつ名シーンとなった。
そして、自らを滅して夫を援助する妻の存在を落としどころにしたのも、時代の進化を表しており、清々しいことこの上ない。

ことほどさように本作がいい映画ではあるのは間違いないのだが…、以下、不満点を少々。
やはり短編を膨らます脚色作業は相当難航したそうで、工夫のあとはみえるが、如何せん冗長になっているように感じた。
二人がいつ出会うのか!?という緊迫感がはりつめ、引き込まれはするが、探し当てるプロセスに芸がないのは如何なものか?正直、座ったしゃべりの芝居ばかりで、中だるみしてしまった。
同様に脚色で「?」となったのは、前半早々に小説の終盤で明かされる金吾の真意を、台詞でバラしてしまっている点である。最大の泣かせどころであるにも関わらずだ。
はじめは、クライマックスのテンポを上げ、愁嘆場を映像だけで見せて余韻を残す意図なのかな?と察していたのだが、どういう訳かクライマックスでも長々と同じことをしゃべらせている。ならば、どっちかひとつでいいのでは?

原作は明治という転換の時代、グローバル化により失われてしまった古き習慣への郷愁を描き、「それでいいのか?」と問いつつも受け入れ、前向きに生きていく先人たちを温かく綴った短編で構成されている。特に一日を分秒で刻む時間の変革に対する悲喜こもごもを描いた一編『遠い砲音』には感銘をうけた。
以下、当作品の記述を要約して抜粋。
「かつては大河のごとく鷹揚に流れる時の中で、武士も町人も百姓も、けっして急かされることなく暮らしていた。東の空が白む明け六つに一日がはじまり、暮れ六つの鐘とともに、その一日が終わった。夏の一日は長く、冬は短かった。そのことに、いったい何の不都合があるというのか。
人は空を見上げ、影を見おろして時を知った。日々の勤めも、他人との待合いも、だいたいの時刻でかまわず、遅刻を咎めだてする者などいなかった。時計の針が二本になれば、待人は苛立つ。いずれ来る人をぼんやりと待つ、あの真綿のような時間は永久に失われてしまった」
本作は本作で、上記したテーマを見事に昇華させてはいるのだが、短編集にあった失われた文化に対するやるせない妙味は薄れてしまった。(瓦版屋のオリジナル・エピソードを加えたりしてはいるのだが…)
個人的には引き伸ばし作戦より、いっそのこと原作の各話を組み込んだ群像劇にしてもよかったように思う。

しかしながら本作、若者への波及力は、どれほどあるのだろうか?こういうメッセージは若者にこそ届けるべきなのだが…。


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