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Channel: 相木悟の映画評
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『ジャージー・ボーイズ』 (2014)

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名曲の裏にあるサクセス・ストーリーをしっとりと味わうべし!



古き良きクラシカルな味わいが心地良い、匠がみせる一級の良品であった。
本作は、ハリウッドの生き神様クリント・イーストウッド監督作。60年代以降、アメリカを席捲したポップ・グループ、“ザ・フォー・シーズンズ”の激動の半生をミュージカル化し、ブロードウェイでロングランを記録、トニー賞を受賞した同名作の映画版だ。
プロのジャズ・ミュージシャンであるイーストウッド御大には、ミュージカル映画の企画が幾度も浮上するも実現せず、やきもきしていたところに登場した本作。役者、脚本と舞台版のスタッフを勢揃いさせ、どういった映画的アプローチで挑んだのか、興味津々だったのだが…!?

1950年代。ニュージャージー州の貧しい街。天性の歌声をもつ青年ヴァリ(ジョン・ロイド・ヤング)は歌手としての成功を夢見ながら、ギャングの真似事をしてくすぶっていた。やがて刑務所を行き来するチンピラのトミー(ビンセント・ピアッツァ)とニック(マイケル・ロメンダ)のバンドに加入したヴァリは、徐々にその才能を開花。ヴァリのファルセット・ボイスに惚れ込んだ天才作曲家ボブ(エリック・バーゲン)もバンドに加入し、4人は“ザ・フォー・シーズンズ”として活動を開始する。しかし世の中はそんなに甘くはなく、回ってくるのはバック・コーラスやボーリング場の営業等、ケチな仕事ばかり。一向に眼が出ず、くさる4人であったが、ボブが土壇場でつくった曲『シェリー』がまさかの大ヒット。続けてチャート1位のヒット曲を連発し、勢いにのった彼らは一躍スターダムを駆けあがっていくのだが…。

ザ・フォー・シーズンズといえば、ビートルズ上陸前夜にアメリカで人気を博し、息の長い活躍を続けたレジェンド・バンド。ご存じの通り、ビートルズ旋風によって音楽界に革命が起き、呼応するようにアメリカの世相もベトナム戦争の泥沼化や政治不信をうけて、カウンター・カルチャーが発生。ヒッピーのフラワー・ムーヴメントにより、音楽も反体制等のメッセージを放つ魂の咆哮へと様相が変化していく。
そんな中、ザ・フォー・シーズンズはアメリカにまだ理想があったのん気(?)な時代を継承したグループであり、ノスタルジックで甘い楽曲は当国の最後の良心ともいえよう。

…ともっともらしく書いたが、僕は洋楽に関しては完全な門外漢。ザ・フォー・シーズンズについても、「あ、この曲聴いたことある」程度の知識しかない。だからして本作はハードルが高いかな…と危惧していたのだが、まずミュージカルでなかったことに拍子抜け。中身は直球の伝記映画であり、その分、当バンドの成り立ちと功績をかいつまんで学ぶことができた。(とはいえ、ミュージカル・ファンに対する配慮を忘れず、美味しいサービス・シーンを用意しているところがニクイ)

ただ伝記映画としては、はなはだパンチが弱い。
貧しい若者たちが好きな音楽で成り上がり富と名声を得るも、問題を起こして足をひっぱるメンバーがいれば、他とくらべて才能のなさを痛感し存在意義に悩むメンバーもいて、忙し過ぎて家庭が崩壊するメンバーも出てくる。これら登場人物が直面するエピソードは、ド定番な代物ばかり。それらを今回、バンド・メンバーが持ち回りで観客に語りかけて解説するという舞台版を踏襲したトリッキーな仕掛けはあれ、基本、奇をてらわずしっとりと紡いでいく。マフィアとの関係といったダーティーなくだりもあるにはあるが、生々しくなることはない。
どことなく書割のシット・コムを観ているような平板さである。それでいて、時代性を出さんと造り込まれた美術や衣装の凝りようは素晴らしく、世界観においては完璧なリアルさを保っている。

役者陣もあえて舞台版からトミー役のビンセント・ピアッツァ以外スライドさせ、映画的には無名の若手陣を揃えており、現代性が匂わない不思議な雰囲気を醸成。スターはギャングのボスを演じるクリストファー・ウォーケン(意外にもイーストウッドと初顔合わせ)ぐらいである。

では、なぜこんな作劇にしたのか?
イーストウッドの狙いとしては、ザ・フォー・シーズンズというバンドが象徴する件の古き良き時代性を、『グレン・ミラー物語』(54)のようなクラシカルなタッチで再現してみせたというのが一点。
そして、後世に残った楽曲があくまで主役であり、それらの曲が浮き立つよう、ドラマ性を抑えたがゆえ。要はサクセス・ストーリーが過度に前に出ないようあえて淡白に簡略化し、巧妙にバランスをとっているのだ。
現に『君の瞳に恋してる』等の名曲を聴くと、街灯の下で歌うニュージャージー出身の4人組の姿が脳内再生される。地元を出る方法は3つ。“軍隊に入る”。“マフィアに入る”。あるいは“有名になる”。殺されないのは3つ目だけ。過酷な環境を成り上がってきた彼らのバック・ストーリーを思い出さずにはいられない。
イーストウッドの無駄のないスマートで高潔な演出には、唸らんばかりである。

しかし、かようなスタイルが地味な印象を与えるからか、本作の興行は全米で大コケしてしまった。これは勿体ない。
オールド・ファンより、僕のような当グループに無知な人間こそ観るべき映画であろう。


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