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Channel: 相木悟の映画評
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『ミリオンダラー・アーム』 (2014)

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一球逆転、アメリカン・ドリームに胸を熱くせよ!



笑って泣けて、思わず拳をギュッと握りしめるディズニー印の花丸優良作であった。
本作は、ディズニーと組み、『オールド・ルーキー』(02)、『インヴィンシブル 栄光へのタッチダウン』(06)と良質なスポーツものを手掛けてきたメイヘム・ピクチャーズ作品。埋もれた逸材が眠る大国インドに眼をつけ、メジャーリーガーの発掘を試みた男の実録映画だ。
野球に微塵も興味のない僕でも結果を気にするぐらい、メジャーリーグでの日本人の活躍が当たり前になった昨今。世界の野球人口を考えると、まだまだ各地に才能が眠っている実態は想像に難くない。ほんのひとつのキッカケで状況は一変しよう。現に大相撲の番付がかような有り様になるのを、誰が予想したろうか?未来への確たる可能性を目撃する想いで、ワクワクしてスクリーンに臨んだのだが…!?

ロサンゼルスのスポーツ・エージェントのJB・バーンスタイン(ジョン・ハム)は、クライアントとして獲得寸前であった有望アメフト選手をライバル社に横取りされ、キャリアの危機に陥っていた。そこでJBは、たまたま見ていたクリケット中継から、起死回生の策を思いつく。それは12億の人口を抱える野球未開の地インドから、メジャーリーガーの原石を発掘しようとする、イチかバチかの賭けであった。
さっそくインドに渡ったJBは地元テレビ局と組んで、『ミリオンダラー・アーム(百万ドルの剛腕)』なる番組を立ち上げ、全土でコンテストを実施。結果、数千人の応募者の中から二人の青年、独特のフラミンゴ投法を駆使するリンク・シン(スラージ・シャルマ)と荒削りながら快速球を投げるディネシュ・パテル(マドゥル・ミッタル)を見出すのであった。意気揚々と二人を連れてロスに戻ったJBは、野球経験ゼロの彼らをプロテストに合格させるため、名コーチのトム(ビル・パクストン)に指導を託すのだが…。

第一に脚本がよくできており、非の打ちどころがない。
予期せぬ苦境から、何気なく見ていたTVで、スーザン・ボイルとクリケットの試合を交互にスイッチングして奇想天外な計画をひらめく導入部。インドへ入国し、ドタバタを経て何とか大々的なオーディションを開催。集まる応募者はトホホな人材ばかりで、絶望感が漂う中、ついにリンクとディネシュを発見。…と、落ち目のエリートの逆転劇を、高揚感たっぷりにテンポよく紡いでいく。
アメリカに舞台を戻してからは、貧しい暮らしをしていたリンクとディネシュの、いきなり富国に放り込まれたカルチャーギャップで笑いを提供。と同時にグローブすらはめたことのなかった二人は、野球への対応の難しさと慣れない外国暮らしに焦燥を募らせる。
さらにビジネスライクなJBと二人の間に溝が出来てしまい…。
そうして全てがどん底に落ちてからようやくJBは人間的に成長。二人とも友情で結ばれ、エージェントの仕事の真髄に覚醒する。
史実を知っている方も多いと思うが、落ち着くところに落ち着くラストは、定番ながら胸が熱くなろう。

ことほどさようにザ・エンターテインメントな物語の構成に、微塵も隙がない。サクセス・ストーリーにJBと居候の医学生ブレンダ(レイク・ベル)との恋愛(一応、実話)も無理なく絡めているのだから恐れ入る。無駄なキャラもなく、伏線はキレイに回収され、一切がスムーズに進む職人芸だ。
人はいつでも変われ、誰にでもチャンスはあるというメッセージ性も心地良い、文句なしの痛快作である。

キャラクターも活き活きと躍動しており、リンク役のスラージ・シャルマとディネシュ役のマドゥル・ミッタルのインド人野球選手役の堂に入り具合もお見事。特にスラージ・シャルマは右利きながら、左利き投手を見事に演じたのだから、何をかいわんや。(ポスト・プロダクションのマジックあり)
コーチ志望で、インドでJBに押しかけ、アシスタントの座をゲットするお調子者のインド人アミト役のピトバッシュも実にいい味を出している。コメディ・リリーフでありながら、きっちり見せ場で泣かせてくれる好サポートだ。
老スカウトに扮し、決めるところでは格好よく決めるアラン・アーキンの絶妙なアクセントも素晴らしい。
ヒロインのブレンダ役のレイク・ベルの嫌味なさ等、アンサンブルは完璧である。

ただ、野球に詳しくない身としては、彼らの後日談にもう少し踏み込んでほしかった。なんとなく煙に巻いている感じがなきにしもあらず。あと低予算で致しかたないとしても、試合シーンがないのもちとさみしい。
それらの不満点も全体的なクオリティからすれば、些細な問題である。

他、内容を斜にみて顧みると、色々と示唆に富んでいることにピンと来よう。
JBの会社のスポンサーは中国人であり、国技たるメジャーリーグでアメリカン・ドリームを体現するのはインド人と、ことごとく当国のお家芸を奪われているように見える。もはやインド、中国がこれからの世界の主役に躍り出るといわんばかりだ。
でもそれでこれだけの娯楽作をつくりあげるところに、ハリウッドの誇りが窺えよう。“アメリカ死すとも、ハリウッドは死なず”、といったところか。
なんともはや、たのもしい限りではないか。


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