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Channel: 相木悟の映画評
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『幻肢』 (2014)

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ミステリー界の巨匠が仕掛けるラヴ・ミステリー!



ミステリー映画の新境地を切り開かんとする意欲はかいたいのだが、少々物足りない一作であった。
本作は、“新本格”ミステリーの第一人者、島田荘司の同名小説の映画化。という訳ではなく、御大が映画用に書き下ろしたストーリーの映像化であり、もちろん御大の小説版も出版される、めずらしい連動プロジェクトである。
島田荘司といえば、ミステリー界における重鎮であるが、実は映画作品は今回がはじめて。(氏が代表作である“御手洗シリーズ”の映像化に許可を出さないこともあるが…)それがこうした原作モノ映画に一石を投じるチャレンジングな企画で実現したのだから、ファンとしてはじっとしてはいられない。クラウドファンディングを実施し、自由に納得いくまで氏がクリエイティヴ面にかかわった本作の実態とは、これ如何に…!?

“幻肢”とは、事故等で手や足を失った際、喪失のショックが生命を脅かすと脳が判断した場合、幻の手や足をみせて精神の安定をはかる自衛本能である。都内の医大に通う雅人(吉木遼)は、いわゆる幽霊の存在も、大切な人を失った衝撃から脳がつくり出す幻肢であるという見解をもっていた。
ある日、恋人の遥(谷村美月)とドライブ中に事故にあった雅人は重傷を負い、事故と遥の記憶を失ってしまう。記憶障害に精神を苛まれていく雅人をみかねた友人の亀井(遠藤雄弥)は、TMS治療を提案。TMS治療とは、脳に磁気刺激を与えるうつ治療に用いられている先進技術であり、事故以前に雅人は当治療を記憶の回復へと応用する研究をしていたのだった。さっそくTMS治療を受ける雅人であったが、時をおかずして眼の前に遥の幻が現れるようになり、さらに失った記憶も徐々に甦ってきて…。

エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』から発生した本格ミステリーは、時に幽霊や祟りに関わる不可能事件を探偵や刑事が、化学発想で論理的に解決する文学ジャンルとしてはじまった。ゆえに歴史を重ねるにつれ、科学の発展の影響をうけ、変化していくのは当然の成り行きといえよう。本格ミステリーと文明の進化は、きってもきれない間柄なのだ。
そこで長年、脳科学に着目してきた“知の巨人”、島田荘司氏が今回、目を付けたのが“幻肢”である。確かに映像でミステリーを紡ぐ手段としては、格好の材料といえよう。

また、本格ミステリーが映画として、なかなか成立しにくいのはご存じの通り。どうしても謎解き形式はTV的スケールを脱せず、推理モノの映画版は、とかく派手なアクションに傾いてしまうのが現状である。
そこを見越して、雅人と遥のラヴ・ストーリーにまとめあげたのもまた理にかなっている。

映画を念頭に置かれているため、上映時間90分と無駄がなく、駆け足でもなく、仕掛けも無理がない。島田荘司らしく推理の情報をフェアに提示する真っ向勝負だ。
他方、“別視点”で物語を描いた小説版も出版するという、さらなるお楽しみまで用意されているのだから、周到さには恐れ入る。

ことほどさようにまさに“満を持して”といった按配の作品であるのは分かるのだが…。正直いって、その出来は微妙である。
主人公の雅人は、開幕早々に事故に遭う。これは構造上、仕方ないといえば仕方ないのだが、彼がどういう人間かこっちも分からないまま、記憶喪失という状態で現れるので、如何せん感情が入りにくい。
脚本で不必要なモノローグも多く、何度も同じ説明を繰り返すくどさにも辟易。
そして何といっても、徐々に明らかになっていく雅人と遥におこった事故の真相、仕掛けられたトリックが全く真新しくないのが致命傷である。当方式をあつかった映画は、吐いて捨てるほどあり、ほとんどの人が早い段階でオチに勘付いてしまうのではないか?

島田氏が語るように、創作論を構築し、システマチックなゲームへと本格ミステリーを導いたヴァンダイン以降、パターンはすでに全弾撃ち尽くされており、新しいトリックを生み出すのが難しくなっている。それは映像の世界も然り。映画のスタイルも、ほぼ出尽くしているといってよい。
要は、脳科学という新たな鉱脈を見出すも、それをやりつくされた映像表現で語ってしまったのが本作の悲劇といえよう。ちょっと皮肉な結果になってしまった。
島田作品の初映画として、打ち上げ花火にならなかったのは残念でならない。

ただ、ファンが待ちに待った“御手洗シリーズ”の映像化がついに本腰を入れて動きはじめたという、ウソかマコトか希望ある情報も漂っている。“金田一シリーズ”のごとく、やりようによっては成功すると思うのだが…。今後の動向に注目したい。


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