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Channel: 相木悟の映画評
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『ふしぎな岬の物語』 (2014)

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心を癒す、眩しき太陽の笑顔!



移りゆく時の流れと幸福の意味を考えさせられるハートフルなメルヘンものであった。
本作は、不滅の輝きを放つ大女優、吉永小百合の118本目(!)の出演作。今回は自ら惚れ込んだ原作をピックアップし、成島出監督と共に企画に名を連ねた意欲作だ。それでいて、モントリオール映画祭で審査員特別賞など二冠を獲得する成果をあげてしまうのだから何をかいわんや。無邪気に喜ぶ女史の姿を見ていると、こちらもハッピーになってしまう。紛れもない国民的スターである。
原作を読んでみると、確かに女史にドンピシャの役柄であり、混迷した世にこうした癒し映画を問う意義もよく分かる。よって女史の笑顔と先読みできる内容に満腹になり、つい出足がにぶってしまったのだが…。

岬の突端にポツンとたたずむ“岬カフェ”。店主の悦子(吉永小百合)が心を込めて入れるコーヒーは、村の住人たちやフラリと訪れるお客たちの心を和ませていた。カフェの隣の掘っ立て小屋に住み、悦子と共に毎朝、小島に石清水を汲みにいく何でも屋の甥、浩司(阿部寛)、30年間密かに悦子を想い続けている不動産屋のタニさん(笑福亭鶴瓶)、突然出戻ってきた漁師の徳さん(笹野高史)の訳アリ娘みどり(竹内結子)、等々、常連客で賑わう岬カフェであったが、永遠に続くかと思われた穏やかな日常も、徐々に変化の波にさらされて…。

原作は、カフェに集ってくるお客の人生の機微を綴った連作集となっている。当然、それを一本にまとめているのだが、実に大胆な脚色が施されており仰天した。さすが大御所、加藤正人&安倍照雄のコンビである。
原作の重要エレメントであり、そもそもモデルとなったお店の売りであった店内音楽の要素をバッサリとカット。確かに音楽を入れると色分けされ、まとまりが悪くなるゆえ、的確な処置といえよう。
原作通りのキャラもいれば、オリジナルキャラも大量投入。原作より村の存在を大きくして、共同体を強調しており、これはこれでアリだと思う。

さして大きな事件も起こらず、激しい恋愛劇もない。紡がれるのは、純朴な人々の素朴な日々。でもその裏には皆、シビアな悩みを抱えている。そんな村人にホッコリと癒しを与えているミューズの悦子も反面、客に孤独を癒されている。そうした関係性から浮き彫りになる人と人とのつながりの大切さ、幸福とは何かを問いかけるテーマ性は全く変わってはいない。

特に脚色で出色だったのは、原作ではそれぞれの章の人物がカップや包丁といった忘れ形見を残していき、想いが継承されていくところを、本作では捻って一工夫施されている。そして、それがクライマックスのある事件へと自然につながっていく。(この事件は、原作執筆中にモデルとなったお店に実際に起こった悲劇であり、原作には反映されてはいない)
このフランク・キャプラ映画のようなクライマックスの展開は、原作より一歩進んで力強くテーマを明確にし、ことさら感動的である。心底「上手い!」と唸らされた次第である。

また、若者が意図的に排除されている作劇にもご注目。花農園の中年(春風亭昇太)の結婚話の顛末からも分かるように、田舎を若者の安易な逃げ場にしておらず、「甘えるな」というメッセージが漂ってこよう。これは潔い。
“旅人のオアシス”たる大人の人情話なのだ。

吉永小百合も、相も変わらず、浮世離れした存在感でスクリーンを包み込む。一挙手一投足、本当にチャーミングである。
なんとなくカリスマ女性に男たちが群がり、右往左往している興ざめの構図になりかねないところを、ミステリアスさを残した一歩引いた演出で回避。絶妙なバランスをみせた監督の手腕を讃えねばなるまい。
悦子をずっと見守る笑福亭鶴瓶と阿部寛のコメディ・リリーフぶりも、作中にうるおいを与える好サポート。(外さない笑いは、安倍照雄のセンスのお手柄か)
石橋蓮司、不破万作、嶋田久作、モロ師岡、等々、豪華助演陣も豊かに画面を彩っている。米倉斉加年さんのお元気な姿もまた感慨深い。

ただ、ちょっと惜しむらくは、画が少々辛気臭い点である。監督の作風ではないかもしれないが、もう少しファンタジー風味を足してもよかった。個人的には悦子と浩司が乗る船の古ぼけ加減にまず冷めた。
宗教が混在し、気のいい人が集まるユートピア風な世界観なのに、この変に生々しい景色のギャップが残念である。

自分の認めた錚々たる監督たちと次々に仕事をしている吉永女史。素晴らしい活躍ぶりではあるが、次は若手と組んで新境地を開いてみてはどうだろう?
サユリストはそんなものを求めてはいないか。


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