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Channel: 相木悟の映画評
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『荒野はつらいよ ~アリゾナより愛をこめて~』 (2014)

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マクファーレン流、お下劣西部劇コメディを堪能せよ!



バカバカしくも、その実、真っ当な青春モノで、なおかつジャンル映画への愛を感じる良コメディではあった。
本作は、『テッド』(12)で一大旋風を巻き起こしたセス・マクファーレン監督作。今回は堂々、顔出し主演だ。ところが、『テッド』ほどのインパクトがなかったからか、はたまたアメリカの良心“西部劇”をおちょくった内容が拒否られたのか、興行はまさかの大コケ。
原題は『A Million Ways to Die in the West(西部で100万回死ぬ方法)』で、何やら面白そうなのだが、対してB級まっしぐらな投げやりなこの邦題…。
一体全体、内容はどんな代物に仕上がっているのか?真偽を確かめるべく劇場へ向かったのだが…。

1882年、西部開拓時代のアリゾナの田舎町。羊飼いのアルバート(セス・マクファーレン)は、口だけが達者なヘタレ青年。決闘を申し込まれても、平謝りして逃げ出す始末。ついに恋人のルイーズ(アマンダ・セイフライド)に愛想をつかされ、オタク仲間のエドワード(ジョバンニ・リビシ)に愚痴をこぼす毎日を送っていた。
ある日、アルバートは酒場の乱闘の最中、流れ者のアナ(シャーリーズ・セロン)を偶然救い出す。実はアナは悪名高い無法者クリンチ(リーアム・ニーソン)の妻だったのだが、そんなことは露知らず、恋におちてしまうアルバート。そして祭りの日、ルイーズの新しい彼氏である髭サロン経営者のフォイ(ニール・パトリック・ハリス)と諍いを起こしたアルバートは、なりゆきでフォイと一週間後に決闘する羽目となる。こうしてアルバートは、銃の名手であるアナから猛特訓をうけるのだが…。

モニュメントバレーの雄大な景色に、エルマー・バーンスタイン風の音楽が重なり、いかにもなテロップが躍る冒頭。造り手の当ジャンルへのこだわりが、ひしひしと感じられ、早々と西部劇ファンの心はキャッチされてしまう。

主人公アルバートは、西部開拓時代においては浮いている感覚の持ち主。いわば、現代常識を持ち合わせた“進んだ”人物なのだが、皮肉にもその時代では“おバカ”となる。要は、現代人が過去にタイムスリップして、カルチャーギャップに遭遇する『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』(90)方式の肌触りに近い。日本でも戦国時代や幕末にタイムスリップする設定の作品が飽きもせず造られ続けており、今も昔も人気ジャンルであるのはご存じの通り。
本作では、それが“変わり者”の同時代人になっているだけなのだが、考えてみれば、そういう人物は当時もいたはずである。皆、同じな訳がない。得てして先見の明のある人間は、奇人扱いされるものなのだ。
意地悪な見方をすれば、そうしたタイムスリップものの安易さへのパロディとしても本作は機能していよう。

よって、劇中のアルバートは、西部劇の定番にことごとくノレず、冷ややかに突っ込み対処していく。死体が日常茶飯事の命を軽んずる無法状態の生活模様から、酒場での無意味なケンカ、バカバカしい決闘、いつも定位置にいる老父母まで、大小様々な西部劇ネタをおちょくり倒すアルバート。西部劇ファンには、いちいち笑え、堪らないものがあろう。
テイストがボブ・ホープやメル・ブルックスの西部劇コメディを匂わせるのも、また懐かしい。

もちろん、マクファーレン流のドン引き確実のお下品ネタもテンコ盛りだ。排泄物、ドラッグ、人種差別、娼婦、宗教、動物虐待、と迷いなく不謹慎ネタを投下するやりたい放題。グロ描写も容赦なく、『テッド』ファンは満足できよう。
この辺りも西部劇のリアル描写という意味で、パロディのスパイスとして効いている。

期せずして大悪党との戦いに巻き込まれた男のドタバタ騒動を、最終的にはきちんとした純愛モノへとまとめあげている点もまたマクファーレン流。
「生まれてくる時代と場所を間違えた」と自信をなくしていたアルバートが、自分らしく立ち上がっていく成長物語としてもストレートに胸をうつ。マッチョ信仰から“羊”の時代へと推移していく予感を匂わすラストの後味は、変に爽やかだ。

マクファーレン主演では弱いと踏んだのか、性悪役でも可憐なアマンダ・セイフライドと、ガンマン姿にしびれる男前なシャーリーズ・セロンという二大美女が配役されており、大いに眼福。
リーアム・ニーソンも悪党を気分良さげに貫録の快演。美尻のサービスまであるのだから、女性ファンはお楽しみに。
あっと驚く豪華カメオ出演陣にも注目だ。使い捨て扱いから、何処に出ていたのか不明な大物まで贅沢極まりない。

ただ、全体的にいささか笑いの弾数が少なかったのは確か。ドラマがしっかりしているだけに、物足りない。いまいち弾けなかったのも分かる。好きな人だけひっそり楽しむ良作といったところか。

しかしながら、誰かこんな時代劇のシニカルなコメディをつくってくれないものか。さぞかし、いじりがいがあると思うのだが。


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