やがて哀しきコリアン・ノワール!
情感溢れるルックとクールな活劇に魅せられる一級の韓国映画ではあるのだが…。
本作は、『アジョシ』(10)にて韓流バイオレンスの凄まじさを世に知らしめたイ・ジョンボム監督作。主演は、『ブラザーフット』(04)で『アジョシ』の主役ウォンビンの兄を演じたチャン・ドンゴンだ。過去をもつ凄腕の男が闇組織を単身相手取るパターンとなると、どうしても二番煎じのあざとさが拭えないが、比べられるのは百も承知。あえて同スタイルで挑む監督の職人精神をこそ讃えたい。
はたして本作は『アジョシ』のエモーショナルなアクションを越えることができたのか…!?
中国系犯罪組織に所属する殺し屋ゴン(チャン・ドンゴン)は、アメリカで任務遂行中に過って幼い少女ユミ(カン・ジウ)の命を奪ってしまう。罪悪感から姿をくらまし、酒におぼれるゴンであったが、組織はそれを許さず新たな指令を下す。それは組織の秘密口座の情報を握っている可能性のある、投資会社の女取締役モギョン(キム・ミニ)の暗殺。しかもモギョンは、ユミの母親であった。覚悟を決めたゴンは韓国に飛び、モギョンのもとに赴くのだが、娘を失って悲しみに暮れる彼女に銃の引き金を引くことが出来ず…。
監督曰く、冒頭の少女の誤殺シーンは、少女を守って戦う『アジョシ』からの決別を意図しているそうな。この点から、なんとなく前作を過剰に意識しているのは、造り手である旨が窺える。それにより、考えなくてもいい余計な比較を観客に強いているように思う。
殺めた少女の母親との心が通いようもない断絶された関係と、『アジョシ』の主人公と少女の深い絆。多彩な肉弾戦と銃撃戦。漫画のようにケレン味があった『アジョシ』の敵キャラと、シリアスに抑えられた本作の敵キャラ、等々…。
こうしてみると、すべからく『アジョシ』と別ベクトルを目指す試みが目につこう。かような詮索自体が、個人的には逆効果なノイズになってしまった。本作は本作で勝負すればよいものを…。う~ん、勿体ない。
本編自体は、実にハードな内容である。哀しい過去を背負った殺人マシーンのゴンが、罪もない子供をミスで殺害したことをキッカケに、自身の内面と向き合っていく。殺した子供の母親であり、ターゲットである女性に自分を捨てた母親を重ね、“贖罪”と“許し”の狭間で惑い苦しみ、人間性を取り戻すゴン。
それらの葛藤をペラペラと内面を語ることなく、あくまでアクションで指し示す。モギョンを守るために組織に反旗を翻し、血を流しボロボロになりながら悲愴な戦いに身を投じる姿で全てを物語る。まこと玄人好みの、大人のダーク活劇といえよう。
さすがにアクションも、見応え大アリ。特にアパートでの白昼堂々の銃撃戦は、圧巻の一言。日本の団地と見紛い、身近なリアリティに鳥肌がたった。一般の人々の気配がないのが残念ではあるが…、これはクライマックスのタワービルも同様。どうせならこの辺りも丁寧につくってほしかったところである。
日本映画では、逆立ちしても無理であろうことを考えると悔しい限り。
寡黙な主人公ゴンを顔力でこなしたチャン・ドンゴンの鬼気迫る熱演も印象深い。やんちゃ坊主のような風貌ながら、危険なセクシーさも香る色んな面を味わえる俳優さんである。
モギョン役のキム・ミニさんの吸い込まれるような美人ぶりも眼福だ。
ただ本作。確かにラストはカタルシスがあり、感動はあるのだが、こちらに理解を要求する割にキャラが素っ気なさすぎてノリきれず、途中すっかり退屈してしまった。あまりに渋すぎる。敵キャラや主人公に近い脇役等にもう少し魅力的な人物を配して、メリハリをつけた方がよかったのでは?
過去の監督作はいうまでもなく、雰囲気はタイ映画『RAIN』(99)、香港映画『狼/男たちの挽歌・最終章』(89)をつい思い出したりと、決して真新しいことはやってはいないジョンボム監督。サンプリング・ムービーとは一味違い、オーソドックスなつくりをあえてなぞり、個性を見出していくスタイルは、それはそれで独特である。本作の出来はいまいちながら、心意気やヨシ!だ。
これからも追っていきたい監督であるのは間違いない。
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング
情感溢れるルックとクールな活劇に魅せられる一級の韓国映画ではあるのだが…。
本作は、『アジョシ』(10)にて韓流バイオレンスの凄まじさを世に知らしめたイ・ジョンボム監督作。主演は、『ブラザーフット』(04)で『アジョシ』の主役ウォンビンの兄を演じたチャン・ドンゴンだ。過去をもつ凄腕の男が闇組織を単身相手取るパターンとなると、どうしても二番煎じのあざとさが拭えないが、比べられるのは百も承知。あえて同スタイルで挑む監督の職人精神をこそ讃えたい。
はたして本作は『アジョシ』のエモーショナルなアクションを越えることができたのか…!?
中国系犯罪組織に所属する殺し屋ゴン(チャン・ドンゴン)は、アメリカで任務遂行中に過って幼い少女ユミ(カン・ジウ)の命を奪ってしまう。罪悪感から姿をくらまし、酒におぼれるゴンであったが、組織はそれを許さず新たな指令を下す。それは組織の秘密口座の情報を握っている可能性のある、投資会社の女取締役モギョン(キム・ミニ)の暗殺。しかもモギョンは、ユミの母親であった。覚悟を決めたゴンは韓国に飛び、モギョンのもとに赴くのだが、娘を失って悲しみに暮れる彼女に銃の引き金を引くことが出来ず…。
監督曰く、冒頭の少女の誤殺シーンは、少女を守って戦う『アジョシ』からの決別を意図しているそうな。この点から、なんとなく前作を過剰に意識しているのは、造り手である旨が窺える。それにより、考えなくてもいい余計な比較を観客に強いているように思う。
殺めた少女の母親との心が通いようもない断絶された関係と、『アジョシ』の主人公と少女の深い絆。多彩な肉弾戦と銃撃戦。漫画のようにケレン味があった『アジョシ』の敵キャラと、シリアスに抑えられた本作の敵キャラ、等々…。
こうしてみると、すべからく『アジョシ』と別ベクトルを目指す試みが目につこう。かような詮索自体が、個人的には逆効果なノイズになってしまった。本作は本作で勝負すればよいものを…。う~ん、勿体ない。
本編自体は、実にハードな内容である。哀しい過去を背負った殺人マシーンのゴンが、罪もない子供をミスで殺害したことをキッカケに、自身の内面と向き合っていく。殺した子供の母親であり、ターゲットである女性に自分を捨てた母親を重ね、“贖罪”と“許し”の狭間で惑い苦しみ、人間性を取り戻すゴン。
それらの葛藤をペラペラと内面を語ることなく、あくまでアクションで指し示す。モギョンを守るために組織に反旗を翻し、血を流しボロボロになりながら悲愴な戦いに身を投じる姿で全てを物語る。まこと玄人好みの、大人のダーク活劇といえよう。
さすがにアクションも、見応え大アリ。特にアパートでの白昼堂々の銃撃戦は、圧巻の一言。日本の団地と見紛い、身近なリアリティに鳥肌がたった。一般の人々の気配がないのが残念ではあるが…、これはクライマックスのタワービルも同様。どうせならこの辺りも丁寧につくってほしかったところである。
日本映画では、逆立ちしても無理であろうことを考えると悔しい限り。
寡黙な主人公ゴンを顔力でこなしたチャン・ドンゴンの鬼気迫る熱演も印象深い。やんちゃ坊主のような風貌ながら、危険なセクシーさも香る色んな面を味わえる俳優さんである。
モギョン役のキム・ミニさんの吸い込まれるような美人ぶりも眼福だ。
ただ本作。確かにラストはカタルシスがあり、感動はあるのだが、こちらに理解を要求する割にキャラが素っ気なさすぎてノリきれず、途中すっかり退屈してしまった。あまりに渋すぎる。敵キャラや主人公に近い脇役等にもう少し魅力的な人物を配して、メリハリをつけた方がよかったのでは?
過去の監督作はいうまでもなく、雰囲気はタイ映画『RAIN』(99)、香港映画『狼/男たちの挽歌・最終章』(89)をつい思い出したりと、決して真新しいことはやってはいないジョンボム監督。サンプリング・ムービーとは一味違い、オーソドックスなつくりをあえてなぞり、個性を見出していくスタイルは、それはそれで独特である。本作の出来はいまいちながら、心意気やヨシ!だ。
これからも追っていきたい監督であるのは間違いない。
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング