弱きを助け強きを挫く、頼りになるDIYヒーロー登場す!
何かと理不尽な世に、神も仏もないものかと天に嘆きたくなる昨今。そんな憂さをささやかに晴らしてくれる快作ではあった。
本作は、演技派として重厚作に顔を出しながら、娯楽作もこなす名優デンゼル・ワシントン主演作。『トレーニングデイ』(01)で氏にアカデミー主演男優賞をもたらしたアントワーン・フークア監督とタッグを組み、今回挑んだのはTVドラマ『ザ・シークレット・ハンター』(85~89)を原案にしたサスペンス・アクションだ。
お客を呼べるアイドル・スターがいなくなり、アクション映画もオスカー級の演技派が務めるようになって幾星霜。ニコラス・ケイジのように転向してから落ちぶれるパターンもあれば、リーアム・ニーソンのような渋い役者が急ブレイクするケースも散見。その中でもデンゼルは、誠実な人柄を表すように絶妙なバランスで渡り歩いている。憧れから親しみへとアクション・スター像が変わってきた現実を、氏の活躍から如実に感じとれよう。
マッコール(デンゼル・ワシントン)は、ホームセンターで働く真面目な中年男。日課として深夜のダイナーで亡き妻の残した本を読みふける彼は、ある日、あどけない顔の娼婦テリー(クロエ・グレース・モレッツ)と知己をえる。テリーには歌手になる夢があるものの、ロシアン・マフィアに囲われ、17歳の若さで娼婦を強要させられていた。しかもある夜、客の暴力に反抗したことを咎められ、半殺しにあって病院送りとなる。そんなテリーの惨状を目のあたりにしたマッコールの表情は一変。実はマッコールは元CIAのトップエージェントであり、殺しのプロであった。ある決意を胸にマッコールは、ギャングのアジトであるロシア料理店へ単身乗り込んでいくのだが…。
じっくり描かれる主人公マッコールの私生活は、几帳面で穏やか。職場では面倒見がよく、人望も厚い。でも、素っ気ない部屋には生活感がなく、不眠症に悩まされている姿からは、心に抱える闇と只者ではない雰囲気がひしひしと漂ってくる。この男がいつ本性を表すのか?その興味がぐいぐいと観る者をひきつけ、ついに悪に対して暴発する瞬間のテンションを高めていく。
この辺りのキャラクターの実在感は、演技派デンゼル・ワシントンの面目躍如といえよう。気のいい兄ちゃんのリアルティと、凄腕の殺人スキルをもつ浮世離れしたヒットマンを同時に成立させるのだから何をかいわんや。下手にやれば、漫画みたいなキャラになったこと確実である。
銃やナイフといった武器をもたず、身の回りにある日用品を武器に変えて敵を瞬殺する庶民目線(?)の戦闘テクニックも実に心憎い。
マッコールとロシアン・マフィアの抗争は熾烈を極め、マフィア側は元KGBの異常殺人者テディ(マートン・ソーカス)を招聘。マッコールは頭脳を駆使してテディの裏をかきつつ、最終決戦たるクライマックスへとなだれ込んでいく。詳細はさけるが、その舞台とマッコールの戦法がまた膝を打つほど的確で、とにかく燃えに燃える。
ただ、構成的に物申したいのが、クロエ・グレース・モレッツ演じる娼婦テリーの扱いだ。
クロエちゃんに関しては、『タクシー・ドライバー』(76)のジョディ・フォスターほどの衝撃はないが、背伸びしている感じとはち切れんばかりのポッチャリぶりが可愛らしく、さすがの好演を刻んでいる。でも彼女が出てくるのは前半のちょっととオチだけで、出番は多くない。てっきり『レオン』(94)や『アジョシ』(10)みたいな展開を期待していただけに、拍子抜けであった。現にそんな宣伝をうっているし、劇中の流れ自体もそういう風になっており、ちょっと歪な印象をうける。彼女が消えてから、画面は急激に潤いを失い、退屈になってしまった。クロエちゃん目当てのファンは、注意を喚起しておく。
何か裏の事情があったのかもしれないが、どう考えても彼女をもっとピックアップし、物語に絡ませるべきであろう。それでいて無駄に長い上映時間をタイトにすれば、さらにクオリティはあがったように思う。これは心底勿体ない。
“イコライザー”とは、平衡化、平準化の意。本作は、世捨て人であったマッコールが自らの使命に気付き、弱者の味方として世に均衡をもたらす必殺仕事人と化すまでの誕生編。劇中では本筋の他に、同僚の家族を陥れた汚職警官や強盗などをマッコールが人知れず成敗するエピソードも紡がれていく。
この辺り、均衡の実行者が黒人で、悪人がロシア人、白人は周囲で右往左往するだけで、苦しめられるのはヒスパニックという、あざとい構図が若干気になるところではある。
世の中には、裏で全てを牛耳っている組織が存在し、正義の面でもこうした存在がいてほしいと願うのは、庶民の希望なのであろう。それが日本のTVドラマの専売特許ではなく、全世界共通であることが本作を観ればよく分かる。
なんとなく続編を匂わせて終わった本作。デンゼル・ワシントン初のシリーズ化なるか?それこそ必殺シリーズよろしく、色んな表の仕事につく仲間が出てきてチームを組めば、楽しいのだが。
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何かと理不尽な世に、神も仏もないものかと天に嘆きたくなる昨今。そんな憂さをささやかに晴らしてくれる快作ではあった。
本作は、演技派として重厚作に顔を出しながら、娯楽作もこなす名優デンゼル・ワシントン主演作。『トレーニングデイ』(01)で氏にアカデミー主演男優賞をもたらしたアントワーン・フークア監督とタッグを組み、今回挑んだのはTVドラマ『ザ・シークレット・ハンター』(85~89)を原案にしたサスペンス・アクションだ。
お客を呼べるアイドル・スターがいなくなり、アクション映画もオスカー級の演技派が務めるようになって幾星霜。ニコラス・ケイジのように転向してから落ちぶれるパターンもあれば、リーアム・ニーソンのような渋い役者が急ブレイクするケースも散見。その中でもデンゼルは、誠実な人柄を表すように絶妙なバランスで渡り歩いている。憧れから親しみへとアクション・スター像が変わってきた現実を、氏の活躍から如実に感じとれよう。
マッコール(デンゼル・ワシントン)は、ホームセンターで働く真面目な中年男。日課として深夜のダイナーで亡き妻の残した本を読みふける彼は、ある日、あどけない顔の娼婦テリー(クロエ・グレース・モレッツ)と知己をえる。テリーには歌手になる夢があるものの、ロシアン・マフィアに囲われ、17歳の若さで娼婦を強要させられていた。しかもある夜、客の暴力に反抗したことを咎められ、半殺しにあって病院送りとなる。そんなテリーの惨状を目のあたりにしたマッコールの表情は一変。実はマッコールは元CIAのトップエージェントであり、殺しのプロであった。ある決意を胸にマッコールは、ギャングのアジトであるロシア料理店へ単身乗り込んでいくのだが…。
じっくり描かれる主人公マッコールの私生活は、几帳面で穏やか。職場では面倒見がよく、人望も厚い。でも、素っ気ない部屋には生活感がなく、不眠症に悩まされている姿からは、心に抱える闇と只者ではない雰囲気がひしひしと漂ってくる。この男がいつ本性を表すのか?その興味がぐいぐいと観る者をひきつけ、ついに悪に対して暴発する瞬間のテンションを高めていく。
この辺りのキャラクターの実在感は、演技派デンゼル・ワシントンの面目躍如といえよう。気のいい兄ちゃんのリアルティと、凄腕の殺人スキルをもつ浮世離れしたヒットマンを同時に成立させるのだから何をかいわんや。下手にやれば、漫画みたいなキャラになったこと確実である。
銃やナイフといった武器をもたず、身の回りにある日用品を武器に変えて敵を瞬殺する庶民目線(?)の戦闘テクニックも実に心憎い。
マッコールとロシアン・マフィアの抗争は熾烈を極め、マフィア側は元KGBの異常殺人者テディ(マートン・ソーカス)を招聘。マッコールは頭脳を駆使してテディの裏をかきつつ、最終決戦たるクライマックスへとなだれ込んでいく。詳細はさけるが、その舞台とマッコールの戦法がまた膝を打つほど的確で、とにかく燃えに燃える。
ただ、構成的に物申したいのが、クロエ・グレース・モレッツ演じる娼婦テリーの扱いだ。
クロエちゃんに関しては、『タクシー・ドライバー』(76)のジョディ・フォスターほどの衝撃はないが、背伸びしている感じとはち切れんばかりのポッチャリぶりが可愛らしく、さすがの好演を刻んでいる。でも彼女が出てくるのは前半のちょっととオチだけで、出番は多くない。てっきり『レオン』(94)や『アジョシ』(10)みたいな展開を期待していただけに、拍子抜けであった。現にそんな宣伝をうっているし、劇中の流れ自体もそういう風になっており、ちょっと歪な印象をうける。彼女が消えてから、画面は急激に潤いを失い、退屈になってしまった。クロエちゃん目当てのファンは、注意を喚起しておく。
何か裏の事情があったのかもしれないが、どう考えても彼女をもっとピックアップし、物語に絡ませるべきであろう。それでいて無駄に長い上映時間をタイトにすれば、さらにクオリティはあがったように思う。これは心底勿体ない。
“イコライザー”とは、平衡化、平準化の意。本作は、世捨て人であったマッコールが自らの使命に気付き、弱者の味方として世に均衡をもたらす必殺仕事人と化すまでの誕生編。劇中では本筋の他に、同僚の家族を陥れた汚職警官や強盗などをマッコールが人知れず成敗するエピソードも紡がれていく。
この辺り、均衡の実行者が黒人で、悪人がロシア人、白人は周囲で右往左往するだけで、苦しめられるのはヒスパニックという、あざとい構図が若干気になるところではある。
世の中には、裏で全てを牛耳っている組織が存在し、正義の面でもこうした存在がいてほしいと願うのは、庶民の希望なのであろう。それが日本のTVドラマの専売特許ではなく、全世界共通であることが本作を観ればよく分かる。
なんとなく続編を匂わせて終わった本作。デンゼル・ワシントン初のシリーズ化なるか?それこそ必殺シリーズよろしく、色んな表の仕事につく仲間が出てきてチームを組めば、楽しいのだが。
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