ポップでとがった、真っ向青春活劇!
映像文化の発展により、CMやPVという新たな表現分野が切り開かれて、幾星霜。当ジャンルで才能を発揮したクリエイターたちが、劇映画に乗り出すケースが日米共に通例となっている。
ただ、そうした人々が撮る作品には、技巧に走って、ただ画が恰好いいだけで中身がペラペラな代物も多く、「やっぱり映画はドラマだよな…」と身に沁みることもしばしば。(ハリウッド製大作アクションには、そうした利害が一致した例が多数あるが…)
ところが、04年に公開された一本の作品に頭をガツンとやられる羽目と相成った。そう、本作『下妻物語』の登場である。なんとなく本作以前と以後で、邦画界の映像表現に対する流れが変わったような気さえする。
監督は、「しばづけ食べたい」のフジッコ漬物百選や、NTT東日本フレッツのSMAP出演「ガッチャマン編」、サッポロ黒ラベルの「温泉卓球編」、等々、数々の名CMを放った、中島哲也。氏は以前にも『夏時間の大人たち』(97)、『Beautiful Sunday』(98)と監督作を放ち、映画ファンの評価を得ていたが、僕は恥ずかしながら完全ノーマークであった。当時通っていたシネコンでやたら本作の予告編を眼にし、どうせキワモノだろと高をくくっていたのだが、そのあらゆる意味でぶっ飛んだクオリティに完全ノックアウト。度肝を抜かれた次第である。
茨城県、下妻市。見渡す限り田んぼしかないこの田舎町に住む竜ヶ崎桃子(深田恭子)は、フリル全開、メルヘンチックなロリータ・ファッションに命をかける女子高生。ロココ時代の快楽思想を信条に周囲の眼なんかなんのその、友達なんかつくらず我が道を突き進んでいた。そんな桃子の日課は、自らが崇拝するロリータ・ファッションのブランド、“BABY,THE STARS SHINE BRIGHT”の本店がある代官山に、片道2時間半かけて通うこと。しかし洋服を買う資金を早々調達できるものではなく、桃子は元ヤクザの父(宮迫博之)が大量に所蔵していた某ブランドのバッタモンの販売に着手する。すると、さっそく買いにやってきたのは、あろうことか時代錯誤のヤンキー娘、白百合イチゴ(土屋アンナ)であった。嬉々としてバッタモンを買っていったイチゴは、その後もどういう訳か、ちょくちょく桃子を訪ねてくるようになり、反発し合いながらも二人は奇妙な絆を築いていき…。
冒頭、母親(篠原涼子)からの誕生から、元ヤクザのダメ父親の怒涛の転落劇に巻き込まれ、兵庫県尼崎市から下妻へ流れ着いた桃子の半生が語られるのだが、すでにこのシークエンスの半端ない密度が本作の全てを物語っている。
登場人物が観客に語りかけるウルトラC、ベタなお笑い、唐突なファンタジー化、等々、トリッキーな表現のオンパレード!奇抜でカラフルな美術、衣装、ベスト・チョイスの音楽と完璧に世界観が造り込まれており、一気に惹き込まれてしまう。
本編がはじまっても作劇上、タブーである説明につぐ説明となるのだが、アニメを含む上記した手練手管を縦横無尽に駆使。サービス精神を揺るがせず、テンションを持続して最後まで突っ走る。
これらのスタイルは一歩間違えば、観客に見離される危険を孕んでおり、本作はそこを抜群のセンスとバランス感覚で乗り切った奇跡の一本といえよう。
何より、こうした“飛び道具”でありながら超ポップにコーティングされた作品が、日本で造られた事実に驚きを禁じえない。
とはいえ、本作が成立したのは、つまるところ、しっかりしたドラマ性が力強く流れているがゆえである。
ロリータ命の桃子は、“好きなこと”だけしか断固やらない、究極の自己中人間。優雅で怠惰なロココ時代とは正反対のヤンキーが群れる下町、尼崎“付近”に生まれ、果ては途方もない田舎町の下妻に島流しになる境遇にもめげず、信念を貫き通す。自然、周囲から浮きまくり、友達ゼロ。本人は性格がひん曲がっていることを自覚しており、あまつさえそれを誇りにし、孤独上等!とばかりに全く気にとめていない。
地元レディースに所属するイチゴは、バイクをこよなく愛し(愛車は、50ccの原付を族仕様に改造したもの)、一般市民と両親に迷惑をかけない硬派なヤンキー。勉強はからっきしでも、性格はいたって真面目。借りは死んでも返す、熱い義理人情を持ち合わせている。
ヒラヒラのロリータ・ファッションできめた桃子と、原色の特攻服と土方ファッションできめたスケ番イチゴ。
この水と油の二人が巻き起こす、異文化衝突たるスレ違いギャグは爆笑必至である。
ただ、真逆の価値観とスタイルを持ちながら、実はアウトローという点では両者の立場は同じであり、内面は限りなくピュアであるという根っこも共通している。
マイ・ウェイを猪突猛進する迷コンビが、反発しながらもお互いを認め合い、惹かれ合っていくプロセスは説得力充分。いわば、徹底した“ギャップ”が巻き起こす可笑しさとドラマ性が、これ以上なく見事に融合されている訳である。
そして物語上、桃子は憧れのブランド“BABY,THE STARS SHINE BRIGHT”の社長(岡田義徳)とひょんなことから知己をえて、愛する趣味を仕事にすべきか否か?将来の壁が立ちふさがる。
一方、イチゴは初恋を経験し、さらに尊敬していた暴走族のヘッド(小池栄子)の引退により、族内の方向性が変化し、岐路に立たされることに…。
レールを敷かれた道からドロップ・アウトしたはずの二人に降りかかる社会のしがらみ。二人はそこにどう立ち向かうのか?
好きに生きて人生を謳歌せんとする二人の自由さに観る者は憧れ、困難に立向かう姿を精一杯応援したくなろう。
ことほど左様に、真っ当な青春映画の泥臭さを根本に持ち合わせている点が、本作が万人の心を射抜く底力なのだ。
竜ヶ崎桃子に扮するは、マイペースなむちむち女優、深田恭子。お伽の国を抜け出したようなファンシーな外見ながら、内面がドス黒い小悪魔ギャップのイメージが、まさにそのまんま!(注:褒めてます)一世一代のハマリ役といっても過言ではあるまい。
白百合イチゴに扮するは、本作にて役者稼業で大ブレイクをはたした、カリスマモデルの土屋アンナ。こちらもイケイケぶりの本性とケバイ中に垣間見えるキュートさが、キャラクターそのまんま!(注:褒めてます)
他、福田麻由子、宮迫博之、篠原涼子、岡田義徳、小池栄子、阿部サダヲ、荒川良々、矢沢心、生瀬勝久、本田博太郎と脇を芸達者な役者陣が固めている。
そんな中、駆け出し時代の真木よう子がショップ店員の役で出演しているので、お見逃しなく!
あと、水野晴郎のカメオ出演も要チェック!
さて。
私事ながら本稿を機に、未読であった嶽本野ばらの原作小説の続編『下妻物語 完』を読んでみたのだが、内容の方は一先ず置くとしても、ラストに大泣きしてしまった。本作ファンは、ぜひご一読をオススメします。桃子とイチゴの友情の一区切りは涙なくして読むことはできない。
ぜひとも間髪入れずに同キャストで映画化して欲しかった。もう叶わないが…。
観始めたら最後、アッという間に終わる100%純粋に面白い日本映画をぜひご覧あれ!
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映像文化の発展により、CMやPVという新たな表現分野が切り開かれて、幾星霜。当ジャンルで才能を発揮したクリエイターたちが、劇映画に乗り出すケースが日米共に通例となっている。
ただ、そうした人々が撮る作品には、技巧に走って、ただ画が恰好いいだけで中身がペラペラな代物も多く、「やっぱり映画はドラマだよな…」と身に沁みることもしばしば。(ハリウッド製大作アクションには、そうした利害が一致した例が多数あるが…)
ところが、04年に公開された一本の作品に頭をガツンとやられる羽目と相成った。そう、本作『下妻物語』の登場である。なんとなく本作以前と以後で、邦画界の映像表現に対する流れが変わったような気さえする。
監督は、「しばづけ食べたい」のフジッコ漬物百選や、NTT東日本フレッツのSMAP出演「ガッチャマン編」、サッポロ黒ラベルの「温泉卓球編」、等々、数々の名CMを放った、中島哲也。氏は以前にも『夏時間の大人たち』(97)、『Beautiful Sunday』(98)と監督作を放ち、映画ファンの評価を得ていたが、僕は恥ずかしながら完全ノーマークであった。当時通っていたシネコンでやたら本作の予告編を眼にし、どうせキワモノだろと高をくくっていたのだが、そのあらゆる意味でぶっ飛んだクオリティに完全ノックアウト。度肝を抜かれた次第である。
茨城県、下妻市。見渡す限り田んぼしかないこの田舎町に住む竜ヶ崎桃子(深田恭子)は、フリル全開、メルヘンチックなロリータ・ファッションに命をかける女子高生。ロココ時代の快楽思想を信条に周囲の眼なんかなんのその、友達なんかつくらず我が道を突き進んでいた。そんな桃子の日課は、自らが崇拝するロリータ・ファッションのブランド、“BABY,THE STARS SHINE BRIGHT”の本店がある代官山に、片道2時間半かけて通うこと。しかし洋服を買う資金を早々調達できるものではなく、桃子は元ヤクザの父(宮迫博之)が大量に所蔵していた某ブランドのバッタモンの販売に着手する。すると、さっそく買いにやってきたのは、あろうことか時代錯誤のヤンキー娘、白百合イチゴ(土屋アンナ)であった。嬉々としてバッタモンを買っていったイチゴは、その後もどういう訳か、ちょくちょく桃子を訪ねてくるようになり、反発し合いながらも二人は奇妙な絆を築いていき…。
冒頭、母親(篠原涼子)からの誕生から、元ヤクザのダメ父親の怒涛の転落劇に巻き込まれ、兵庫県尼崎市から下妻へ流れ着いた桃子の半生が語られるのだが、すでにこのシークエンスの半端ない密度が本作の全てを物語っている。
登場人物が観客に語りかけるウルトラC、ベタなお笑い、唐突なファンタジー化、等々、トリッキーな表現のオンパレード!奇抜でカラフルな美術、衣装、ベスト・チョイスの音楽と完璧に世界観が造り込まれており、一気に惹き込まれてしまう。
本編がはじまっても作劇上、タブーである説明につぐ説明となるのだが、アニメを含む上記した手練手管を縦横無尽に駆使。サービス精神を揺るがせず、テンションを持続して最後まで突っ走る。
これらのスタイルは一歩間違えば、観客に見離される危険を孕んでおり、本作はそこを抜群のセンスとバランス感覚で乗り切った奇跡の一本といえよう。
何より、こうした“飛び道具”でありながら超ポップにコーティングされた作品が、日本で造られた事実に驚きを禁じえない。
とはいえ、本作が成立したのは、つまるところ、しっかりしたドラマ性が力強く流れているがゆえである。
ロリータ命の桃子は、“好きなこと”だけしか断固やらない、究極の自己中人間。優雅で怠惰なロココ時代とは正反対のヤンキーが群れる下町、尼崎“付近”に生まれ、果ては途方もない田舎町の下妻に島流しになる境遇にもめげず、信念を貫き通す。自然、周囲から浮きまくり、友達ゼロ。本人は性格がひん曲がっていることを自覚しており、あまつさえそれを誇りにし、孤独上等!とばかりに全く気にとめていない。
地元レディースに所属するイチゴは、バイクをこよなく愛し(愛車は、50ccの原付を族仕様に改造したもの)、一般市民と両親に迷惑をかけない硬派なヤンキー。勉強はからっきしでも、性格はいたって真面目。借りは死んでも返す、熱い義理人情を持ち合わせている。
ヒラヒラのロリータ・ファッションできめた桃子と、原色の特攻服と土方ファッションできめたスケ番イチゴ。
この水と油の二人が巻き起こす、異文化衝突たるスレ違いギャグは爆笑必至である。
ただ、真逆の価値観とスタイルを持ちながら、実はアウトローという点では両者の立場は同じであり、内面は限りなくピュアであるという根っこも共通している。
マイ・ウェイを猪突猛進する迷コンビが、反発しながらもお互いを認め合い、惹かれ合っていくプロセスは説得力充分。いわば、徹底した“ギャップ”が巻き起こす可笑しさとドラマ性が、これ以上なく見事に融合されている訳である。
そして物語上、桃子は憧れのブランド“BABY,THE STARS SHINE BRIGHT”の社長(岡田義徳)とひょんなことから知己をえて、愛する趣味を仕事にすべきか否か?将来の壁が立ちふさがる。
一方、イチゴは初恋を経験し、さらに尊敬していた暴走族のヘッド(小池栄子)の引退により、族内の方向性が変化し、岐路に立たされることに…。
レールを敷かれた道からドロップ・アウトしたはずの二人に降りかかる社会のしがらみ。二人はそこにどう立ち向かうのか?
好きに生きて人生を謳歌せんとする二人の自由さに観る者は憧れ、困難に立向かう姿を精一杯応援したくなろう。
ことほど左様に、真っ当な青春映画の泥臭さを根本に持ち合わせている点が、本作が万人の心を射抜く底力なのだ。
竜ヶ崎桃子に扮するは、マイペースなむちむち女優、深田恭子。お伽の国を抜け出したようなファンシーな外見ながら、内面がドス黒い小悪魔ギャップのイメージが、まさにそのまんま!(注:褒めてます)一世一代のハマリ役といっても過言ではあるまい。
白百合イチゴに扮するは、本作にて役者稼業で大ブレイクをはたした、カリスマモデルの土屋アンナ。こちらもイケイケぶりの本性とケバイ中に垣間見えるキュートさが、キャラクターそのまんま!(注:褒めてます)
他、福田麻由子、宮迫博之、篠原涼子、岡田義徳、小池栄子、阿部サダヲ、荒川良々、矢沢心、生瀬勝久、本田博太郎と脇を芸達者な役者陣が固めている。
そんな中、駆け出し時代の真木よう子がショップ店員の役で出演しているので、お見逃しなく!
あと、水野晴郎のカメオ出演も要チェック!
さて。
私事ながら本稿を機に、未読であった嶽本野ばらの原作小説の続編『下妻物語 完』を読んでみたのだが、内容の方は一先ず置くとしても、ラストに大泣きしてしまった。本作ファンは、ぜひご一読をオススメします。桃子とイチゴの友情の一区切りは涙なくして読むことはできない。
ぜひとも間髪入れずに同キャストで映画化して欲しかった。もう叶わないが…。
観始めたら最後、アッという間に終わる100%純粋に面白い日本映画をぜひご覧あれ!
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