チャウ・シンチー流とんでもファンタジー・コメディ!
漫画&アニメファンには堪えられない、至高のひと時であった。
本作は、『少林サッカー』(01)にて観客を爆笑の渦に巻き込み、虜にしたチャウ・シンチー監督作。続く『カンフーハッスル』(04)、『ミラクル7号』(08)と個人的にはテンションがどんどん下がってきたのだが、今回の題材は中国四大奇書のひとつ『西遊記』。我が国では、TVドラマから漫画まで数々のモチーフに取り上げられ、すっかりお馴染みの物語である。でも、それはあくまで日本ナイズされたイメージであり、本家の中国人とのギャップは大きかろう。僕も原作にチャレンジするも、読みにくくて挫折した思い出がある。という訳で今回も期待外れに終わるのでは…という不安は隠せなかった。
しかし、過去にシンチーは『チャイニーズ・オデッセイ』2部作(05)で孫悟空を演じた経緯もあり、原作への思い入れはひしひしと感じる。何かやってくれるだろうと、おっかなびっくりスクリーンに臨んだのだが…!?
昔々の中国。ある川辺の村で、半魚半獣の妖怪が出現し、村人を襲う事件が発生。若き妖怪ハンターの玄奘(ウェン・ジャン)が駆け付け、村人と協力し、なんとか妖怪を倒すことに成功する。妖力を失い、もとの人間の姿に戻った妖怪を玄奘は改心させるべく“わらべ唄三百首”を唱えるも効果ナシ。すると、そこに女妖怪ハンターの段(スー・チー)が颯爽と現れ、難なくカプセルで妖怪を封印してしまう。
“わらべ唄三百首”を使い、善の心を甦らせんとする自分のやり方に自信をなくす玄奘であったが、師匠の励ましもあり、気をとり直して次なるターゲットへ向かう。そこは山奥の料理店。店主の豚の妖怪が、やってくるアベックの客を手にかけていた。料理店に突入し、豚の妖怪に立ち向かう玄奘であったが、手下たちに大苦戦。しかし、そこにまたも段が現れて窮地を救われ、豚の妖怪を生け捕りにする。が、突如、豚が巨大イノシシに変身し、最終的にはとり逃がしてしまう。何やら玄奘に気がある様子の段を振りきり、師匠に報告する玄奘。すると師匠は、豚の妖怪を倒すには、五指山に封印された妖怪王、孫悟空(ホワン・ボー)の助けがいるとアドバイス。玄奘は悟空に会うべく五指山へ向かうのだが…。
さすがに最強のエンターテイナー、チャウ・シンチー、『西遊記』の世界を自由奔放に換骨奪胎した、とんでもアドベンチャーをみせてくれた。何といっても、後に三蔵法師となる玄奘の生業が“妖怪ハンター”なのだから何をかいわんや。仏門の教えに従って妖怪との共存を目指し、童歌で悪の心を浄化しようとする癒し系ながら、てんで実力がない。終始、武闘派の女妖怪ハンターの段に助けてもらう始末。
本編はそんな情けないイケメンの玄奘と、彼にベタ惚れした段とのドタバタ妖怪退治の模様が綴られていく。
初戦は川辺の町を舞台にした、半魚半獣の妖怪とのバトル。精緻に建てられたセットを縦横無尽に駆使する本シーンから即、心をもっていかれる。『インディ・ジョーンズ』系のケレン味溢れるアクションが楽しいのなんの!(掴みの戦いにしては、やや長いが…)
料理店で繰り広げられる豚妖怪との二戦目は、段の自由自在に変幻するリングの妖術戦、アクロバティックな殺陣を堪能。
続く、玄奘と段のコメディ・パートでは、段が率いるハンター・チームの濃い面々が大いに笑わせてくれる。(この手下たちに関しては、最後に少しでもフォローが欲しかった)
そして、クライマックスの孫悟空との超絶決戦。噛ませ犬の3人のハンター、拳法使い、足を巨大化できる足じぃ、四人の姥桜を無駄に率いる空虚王子が、いい味を出しており、奇想天外な術の数々で大いに盛り上げてくれる。
もちろん、チャウ・シンチーならではのブラック・ユーモアも満載。大ネタから小ネタまで息つく間もないナンセンスなギャグの波状攻撃にお腹一杯だ。今回は多少抑え目ながら、イケメンと美女がえらい目にあう、いつものマゾヒズムも健在。かと思えば、段役のスー・チーの見惚れるぐらい美しい舞踏シーンも用意されているのだから心憎い。
また、玄奘が三蔵法師へと覚醒するプロセスは真っ当に描かれ、きっちり泣かせる。童歌に秘められたメッセージも考えさせられるし、ヘタレだった玄奘の成長譚として、しめるところはしめている。最後の戦いの果て、映像のみで荘厳な仏教的テーマを謳う、真面目とバカバカしさの絶妙なバランスには唸らんばかり。
東洋人の役者に妖怪退治という親しみ易い題材に加え、日本サブカルチャーに造詣の深いシンチーによる『ドラゴンボール』へのオマージュ、お父さんの目頭が熱くなる、あっと驚くBGMの使い方(特にラストは大爆笑!)、等々、観ていてノリが自然に馴染む。『少林サッカー』よろしく、それが涙が出るほど心地良い。
往年のTVアニメや漫画の伝統芸を、なぜ日本人監督ではなく、チャウ・シンチーが正統継承しているのか。悔しさが募る。
そんな本作は、サブタイトル通り、はじまりの物語として、定番の古典をちゃかす一本として観ることも可能であろう。ココがこうつながるのかという興味はあるものの、先の展開を知っている分、如何せんストーリーの求心力は弱い。序章としての物足りなさが、どうしても残る。
これは、ぜひとも本番の冒険を描く続編を早々とつくってもらいたい。そうでないと困る。
しかしながら、ジャンル映画とチャウ・シンチーの相性もいいが、本作を観ると歴史モノにもハマると思う。ひねくれた視線で描くシンチー流中国史、観てみたいなぁ。
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング
漫画&アニメファンには堪えられない、至高のひと時であった。
本作は、『少林サッカー』(01)にて観客を爆笑の渦に巻き込み、虜にしたチャウ・シンチー監督作。続く『カンフーハッスル』(04)、『ミラクル7号』(08)と個人的にはテンションがどんどん下がってきたのだが、今回の題材は中国四大奇書のひとつ『西遊記』。我が国では、TVドラマから漫画まで数々のモチーフに取り上げられ、すっかりお馴染みの物語である。でも、それはあくまで日本ナイズされたイメージであり、本家の中国人とのギャップは大きかろう。僕も原作にチャレンジするも、読みにくくて挫折した思い出がある。という訳で今回も期待外れに終わるのでは…という不安は隠せなかった。
しかし、過去にシンチーは『チャイニーズ・オデッセイ』2部作(05)で孫悟空を演じた経緯もあり、原作への思い入れはひしひしと感じる。何かやってくれるだろうと、おっかなびっくりスクリーンに臨んだのだが…!?
昔々の中国。ある川辺の村で、半魚半獣の妖怪が出現し、村人を襲う事件が発生。若き妖怪ハンターの玄奘(ウェン・ジャン)が駆け付け、村人と協力し、なんとか妖怪を倒すことに成功する。妖力を失い、もとの人間の姿に戻った妖怪を玄奘は改心させるべく“わらべ唄三百首”を唱えるも効果ナシ。すると、そこに女妖怪ハンターの段(スー・チー)が颯爽と現れ、難なくカプセルで妖怪を封印してしまう。
“わらべ唄三百首”を使い、善の心を甦らせんとする自分のやり方に自信をなくす玄奘であったが、師匠の励ましもあり、気をとり直して次なるターゲットへ向かう。そこは山奥の料理店。店主の豚の妖怪が、やってくるアベックの客を手にかけていた。料理店に突入し、豚の妖怪に立ち向かう玄奘であったが、手下たちに大苦戦。しかし、そこにまたも段が現れて窮地を救われ、豚の妖怪を生け捕りにする。が、突如、豚が巨大イノシシに変身し、最終的にはとり逃がしてしまう。何やら玄奘に気がある様子の段を振りきり、師匠に報告する玄奘。すると師匠は、豚の妖怪を倒すには、五指山に封印された妖怪王、孫悟空(ホワン・ボー)の助けがいるとアドバイス。玄奘は悟空に会うべく五指山へ向かうのだが…。
さすがに最強のエンターテイナー、チャウ・シンチー、『西遊記』の世界を自由奔放に換骨奪胎した、とんでもアドベンチャーをみせてくれた。何といっても、後に三蔵法師となる玄奘の生業が“妖怪ハンター”なのだから何をかいわんや。仏門の教えに従って妖怪との共存を目指し、童歌で悪の心を浄化しようとする癒し系ながら、てんで実力がない。終始、武闘派の女妖怪ハンターの段に助けてもらう始末。
本編はそんな情けないイケメンの玄奘と、彼にベタ惚れした段とのドタバタ妖怪退治の模様が綴られていく。
初戦は川辺の町を舞台にした、半魚半獣の妖怪とのバトル。精緻に建てられたセットを縦横無尽に駆使する本シーンから即、心をもっていかれる。『インディ・ジョーンズ』系のケレン味溢れるアクションが楽しいのなんの!(掴みの戦いにしては、やや長いが…)
料理店で繰り広げられる豚妖怪との二戦目は、段の自由自在に変幻するリングの妖術戦、アクロバティックな殺陣を堪能。
続く、玄奘と段のコメディ・パートでは、段が率いるハンター・チームの濃い面々が大いに笑わせてくれる。(この手下たちに関しては、最後に少しでもフォローが欲しかった)
そして、クライマックスの孫悟空との超絶決戦。噛ませ犬の3人のハンター、拳法使い、足を巨大化できる足じぃ、四人の姥桜を無駄に率いる空虚王子が、いい味を出しており、奇想天外な術の数々で大いに盛り上げてくれる。
もちろん、チャウ・シンチーならではのブラック・ユーモアも満載。大ネタから小ネタまで息つく間もないナンセンスなギャグの波状攻撃にお腹一杯だ。今回は多少抑え目ながら、イケメンと美女がえらい目にあう、いつものマゾヒズムも健在。かと思えば、段役のスー・チーの見惚れるぐらい美しい舞踏シーンも用意されているのだから心憎い。
また、玄奘が三蔵法師へと覚醒するプロセスは真っ当に描かれ、きっちり泣かせる。童歌に秘められたメッセージも考えさせられるし、ヘタレだった玄奘の成長譚として、しめるところはしめている。最後の戦いの果て、映像のみで荘厳な仏教的テーマを謳う、真面目とバカバカしさの絶妙なバランスには唸らんばかり。
東洋人の役者に妖怪退治という親しみ易い題材に加え、日本サブカルチャーに造詣の深いシンチーによる『ドラゴンボール』へのオマージュ、お父さんの目頭が熱くなる、あっと驚くBGMの使い方(特にラストは大爆笑!)、等々、観ていてノリが自然に馴染む。『少林サッカー』よろしく、それが涙が出るほど心地良い。
往年のTVアニメや漫画の伝統芸を、なぜ日本人監督ではなく、チャウ・シンチーが正統継承しているのか。悔しさが募る。
そんな本作は、サブタイトル通り、はじまりの物語として、定番の古典をちゃかす一本として観ることも可能であろう。ココがこうつながるのかという興味はあるものの、先の展開を知っている分、如何せんストーリーの求心力は弱い。序章としての物足りなさが、どうしても残る。
これは、ぜひとも本番の冒険を描く続編を早々とつくってもらいたい。そうでないと困る。
しかしながら、ジャンル映画とチャウ・シンチーの相性もいいが、本作を観ると歴史モノにもハマると思う。ひねくれた視線で描くシンチー流中国史、観てみたいなぁ。
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング