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Channel: 相木悟の映画評
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『6才のボクが、大人になるまで。』 (2014)

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前代未聞の体感人生ドラマ!



いやはや、眼の肥えたファンをも唸らせる驚愕の一本であった。
本作は、実際の年月経過に劇中時間をシンクロさせ、同じ役者が演じるカップルの軌跡を9年スパンで綴る『ビフォア』シリーズ(95~13)のリチャード・リンクレイター監督作。今回はなんと12年に渡り、6才の少年を含む家族の物語を同じ役者で撮りためてまとめた画期的な一本である。
こうしたリアルタイムを長期記録した企画は、イギリスのグラナダ・テレビ製作のドキュメンタリー『セブン・アップ』シリーズ、日本の『北の国から』シリーズ、倉本聰監督の『時計』(86)と色々あるが、これだけの年月を一本の劇映画にまとめたのは史上初なのではなかろうか?その企画の困難さは、察してあまりあろう。完成させただけでも拍手を送りたいところが、はたして興味津々の中身や如何に…!?

テキサス州に住む6才の少年メイソン(エラー・コルトレーン)は、母オリヴィア(パトリシア・アークエット)と姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)と三人暮らし。母はキャリアアップのために大学への進学を決意し、3人はヒューストンへ移り住む運びとなる。そしてそこにアラスカへ放浪の旅に出かけていた父(イーサン・ホーク)が帰還。以降、メイソンは折にふれて父との時間を持つようになる。一方、母は教授のビル(マルコ・ペレッラ)と再婚。ビルの連れ子二人が家族に加わり、暮らしは一気に賑やかになる。ところが、実はビルはアル中で、度々暴力を振るうようになり…。

ドキュメンタリーではなく劇映画である分、メイソン君の境遇は、劇的な事件こそ起こらないものの波乱万丈ではある。ただドラマティックな演出は避けられ、あくまで日常を切り取る定点観測に終始。随分と淡々とした印象を受ける。それでもサクサクと流れる時間と登場人物のリアルな変化に眼が離せず、なおかつその圧倒的な実在性が共感を呼ぶ。誰しも身に覚えのある何気ないエピソードのオンパレードだ。
これは監督が役者陣と密にコミュニケーションをとった賜物であろう。フィクションに寄り過ぎれば、しらける題材であり、当然ドキュメンタリーとは違う。筋を決めて型にはめようとせず、年に一度の撮影時に近況を話し合い、役者本人を投影した未知のストーリーを紡いでいった経緯が、豊かに画面を彩っている。
本作の製作は、主人公の少年が駄々をこねれば、即アウトなのだ。強い信頼関係の上、フィクションとドキュメンタリーの中間の作劇を見出した点が、本作の奇跡といえよう。

本編では、ナレーションや年代のテロップといった説明はなく、いつの間にか時間が飛び、登場人物の経年変化により、観客は時代を知る。
可愛らしい少年が、恋やお酒の味を知り、イケメンの立派な青年へ、キュートだった姉も同様に大人の女性へと、あれよあれよと成長していく。(監督にとっては愛娘の最高の記録になったであろう)
イーサン・ホークは、ミュージシャンを夢見る大人子供だったのが、再婚して新しく子供をもうけ、最終的には落ち着いたおっさんへと変化。そして何といっても、時の流れの残酷さを身体をはって表したのが、母親役のパトリシア・アークエット。美人のシングルマザーが、どすこい体型になり、老けてまた痩せているサイクルが生々しい。

仕込みではないリアルな情景の変化も見どころだ。ファッションや日用雑貨、小道具のゲーム類の進化、『ハリー・ポッター』の出版イベント、『スターウォーズ エピソード3』の盛り上がり、懐かしのTV番組(アニメ『ドラゴンボールZ』の『魔人ブウ編』を子供時代のメイソンが観ているのだが、我が国では現在、当パートの再編集版が放送されており、時間軸の不思議を体感…)といった、種々多様なサブカルチャー描写に感慨しきり。
もちろんイラク戦争やオバマ旋風等の社会現象も差し挟まれ、離婚と再婚を繰り返す母親の社会進出といった家族模様から、チャンスの国である当国のちょい裕福なモデルケースといった見方もできよう。が、この辺りの妙味は単なる設定で、強くは打ち出していない。
あくまで本作の主役は、“時間”である。

本作の捉え方は、観る者の年齢によって異なろう。僕なんぞは終盤に母オリヴィアが嘆く、時間への絶望と、若きメイソンの意識のギャップにグサッときた。反面、若者が観ても、メイソンの成長と、ラストの“場所”とセリフが訴えるメッセージに得るものは大きかろう。

いずれによせ、“時間”というテーマを映画というメディアを通して語ったところがミソである。映画は、自由自在に時間をあやつれる芸術だ。しかも造られた作品は、半永久に残る。上映時間165分の中にリアルな12年の経過が圧縮され、あっという間の人生を疑似体験させてしまうこの底知れぬ味わい深さは唯一無二であろう。まさにやったもん勝ち。確実に映画史に残る一本である。


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