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『ゴーン・ガール』 (2014)

二転三転、驚愕のサイコロジカル・スリラー!

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どんより暗くなる身も蓋もない内容ながら、めちゃくちゃ面白いサスペンスであった。
本作は、今やハズれるイメージのわかない名匠となったデヴィッド・フィンチャー監督作。ギリアン・フリンの同名ベストセラー小説の映画化だ。
フィンチャー監督といえば、ビジュアル派の先鋒として、センスのいい映像美で通を魅了してきたのはご存じの通り。それが昨今、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)、『ソーシャル・ネットワーク』(10)とオスカー戦線に絡む人間ドラマでも手腕を発揮。映像のシャープさと中身の深さを手中にした氏は、もう鬼に金棒の無敵状態である。そんな中、否が上でもファンが求めるのは、フィンチャー節のダーク・サスペンスであろう。原作小説を己の興味分野に特化させる腕が、とにかく冴える監督である。前作『ドラゴン・タトゥーの女』(11)はリメイクで新鮮味がなかった分、期待のかかる本作だが、はたして全米で大ヒットを飛ばしたその内容は如何に…!?

ミズーリ州の田舎町。双子の妹マーゴ(キャリー・クーン)とバーを経営するニック(ベン・アフレック)は、美しい妻エイミー(ロザムンド・パイク)と共に誰もが羨む結婚生活を送っていた…筈であった。5回目の結婚記念日のその日、エイミーが突如、失踪する。自宅には争った形跡があり、警察は事件として捜査を開始。全米メディアが注目する中、ニックは一躍、時の人となる。しかし、事件を担当する女刑事ボニー(キム・ディケンズ)と相棒のジム(パトリック・フェジット)は、事情聴取と捜査結果との食い違いや愛人疑惑、加えて清掃されたキッチンの血痕、等々、ニックへ疑いの眼を向け始める。同時にメディアと世間もまた手のひらを返し、ニックを猛攻撃するようになり…。

原作は未読。おそらくフィンチャーに寄せたであろう原作者自身の脚色術を検証できなかったことが悔やまれる。が、幸か不幸か予測不能のストーリー自体は存分に楽しめた。こんなレビューを書いていて何だが、予備知識ナシで観た方が衝撃度は高かろう。これから完全な白紙状態で観られる人が、本当にうらやましい。

美人妻エイミー失踪事件が発生し、夫ニックの物語を追う内に徐々に裏の本性が暴かれ、彼が単なる被害者ではない旨が判明していく。メディアによって悲劇の主人公として祀り上げられ、やがて突き落とされる。このメディアのヒステリックな上げ下げ感は、観客の心情とシンクロ。記憶に新しい実際の出来事を思わせ、身につまされよう。
並行して本編では、エイミーの日記を読む形式で、時間を逆行。こちらはエイミー視点でニックとの出会いからNYの生活、ミズーリ州に落ちぶれる顛末が語られ、夫婦間に潜む闇が見えてくる。
エイミーは、子供の頃から作家の母親(リサ・バネス)の描く作品で“アメイジング(完璧な)・エイミー”としてキャラクター化にされ、偶像化された理想の自分と思い通りに運ばない実人生との間に焦燥を募らせてきた。そんな夢見る凡人エイミーとニックとの間では、幸せそうに見えて価値観のズレがあり、時を経て溝は深まっていく。

そして、物語は中盤にふたつの時間軸が合致し、事件の真相が明かされる。ここから怒涛のどんでん返しのつるべ打ち!キャラクターの立場が急転直下、コロコロ変わり、凄まじい展開となる。もちろん野暮なネタバレはしない。ぜひこの丹念なスリラー・ジェットコースターをご体験あれ。

落ちつくところに、落ちついたラスト。未婚の僕からすれば、ひたすら暗くなった。要するに本作は、“結婚”というものを、猛毒の味付けでカリカチュアライズして表現した作品ともいえよう。自然、彼らには“ネキスト・ステージ”がある訳だが、落語の格言にあるように、そこに家族の希望を託すのは楽観的にすぎるだろうか?
また蓋を開けてみれば、人間関係なんてこんなもの。幸せって一体、何?という根源的な疑問も渦巻く。なかなかに一筋縄ではいかない映画である。
もちろん既婚の方、若者、年配者と捉え方はそれぞれ異なろう。その各意見を交わすのもまた醍醐味だ。(とはいえ、カップルや夫婦で観るのは、覚悟が必要であろうが…)
他方、窮余の策としてブラック・コメディーとして観るのもアリである。見ようによっては、ドタバタ・コメディーに見えなくもない。現にアメリカの観客は爆笑しているそうな。
これらの深い娯楽性が、『ブルーバレンタイン』(10)等のシビアな恋愛モノとは異なるポイントである。

自身のでくの棒の持ち味(褒めてます)を最大限に活かしたベン・アフレックの好演も讃えたい。はじめから怪しい香りがプンプン匂うも、個人的にはキャリー・クーン扮する妹とのやりとりに妙な安心感が漂い、人間臭いダメぶりが嫌いになれなかった。アゴをネタにされる愛嬌もヨシ。当キャラがキレ者だと、重すぎてついていけなかったように思う。

刑事役のキム・ディケンズ、エイミーの母親役のリサ・バネス、TV司会者役のミッシー・パイル、ニックの浮気相手役のキャスリーン・ローズ・パーキンス、と他の女優たちも適材適所、おしなべて魅力たっぷり。
中でもエイミー役のロザムンド・パイクが、鮮烈過ぎるほど鮮烈である。色んな表情をもつ複雑怪奇な女性を見事に体現。どの顔も実に魅惑的である。本作以後、大女優としてブレイク必至であろう。『007/ダイ・アナザー・デイ』(02)のボンドガール時代から注目していた身としては、何を今さらといった感じである。(ただ、体当たりという割には、脱ぎ惜しんでいる点がちょっと残念。オスカーに響かないといいが…)

しかしながら、これほど底意地の悪い映画を極上のエンターテインメントに仕上げたフィンチャーの的確な語り口には、ほとほと恐れ入る。
また別ステージへ進んだとみてよかろう。


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