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Channel: 相木悟の映画評
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『超能力研究部の3人』 (2014)

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括目すべき、変化球アイドル映画!



衰えぬアイドル・ブームの中、奇妙奇天烈でいて実は本質を突いた珍作の登場である。
本作は、インディーズからメジャーへ見事羽ばたいた奇才、山下敦弘監督作。山下監督といえば、前田敦子とコラボしたことも記憶に新しいところであるが、今回は乃木坂46の3人を起用したアイドル映画だ。思えば、単発の配信ドラマを長編化した『もらとりあむタマ子』(13)も特殊ケースであったが、本作の経緯もまたユニークである。というか、ややこしい。
まず、当グループのシングル『君の名は希望』のMVを山下監督が手掛け、その内容というのがウソ映画のオーディションをメンバーに課すドッキリ企画。そこで生田絵梨花、秋元真夏、橋本奈々未の3人が合格したのだが、どうせなら3人で本当に映画を撮ろうという運びになり、大橋裕之の連作短編漫画『シティライツ』を原作にした脚本(いまおかしんじ脚色)を用意。しかし、何かが足りないと感じた監督は、メイキングを本編に合体するアイディアを思いつく。という訳で、一体どんな代物になっているのか全く想像がつかないが、はたしてその内容や如何に…!?

(映画パート、あらすじ)
北石器山高校の超能力研究部に所属する村田育子(生田絵梨花)、山崎良子(秋元真夏)、木暮あずみ(橋本奈々未)の3人は、文字通り、念力などの超能力を研究する冴えない日々を送っていた。そんな折り、育子の初恋騒動が勃発する中、スプーンを平然と曲げ、人の心を読める同級生の森(碓井将大)に遭遇。「実は僕、宇宙人なんだ」と告白する森の言葉を真に受けた3人は、彼を宇宙へ返すべくUFOを呼び寄せようと画策するのだが…。

はじめに予告編事件から記すと、当予告編は映画パートだけを抽出しており、これだけ観れば、いつものオフビートな山下節が炸裂した、それこそ『リンダ リンダ リンダ』(05)や『もたりあむタマ子』の学園版を十中八九、期待しよう。でもコレ、上記した如く真の内容とは異なり、ほとんど詐欺である。好意的に判断すれば、この虚偽予告もフェイク映画の象徴といえ、納得できないこともないが…。
小規模公開だから通用したイタズラであり、製作陣は結構危ない橋を渡ったと思う。倫理上、問題化してもおかしくはあるまい。

本編は、抽象的セットで撮られたリハーサル風景、映画パート、そのメイキングと3つのパートを行き来して紡がれていく。とはいえ、メイキング・パートに魅力がありすぎて比重が傾いてしまったと監督が語る通り、印象としてはメイキング・パートが大半を占める。映画パートの物語は、もとから濃くないからか、サラリと流れ、ほとんど頭に入ってこない。
個人的には、リハーサル・パートはなくして、その分、映画パートを挟んでいった方が、より物語が浮きだったように感じる。セットも幻想的で面白く、何より彼女たちの成長プロセスを見せる意図は分かるのだが…。

見どころといえば、やはり主演3人の悪戦苦闘ぶりである。女優業に挑み、経験の薄さから壁にぶち当たり、仲間との競争意識に苛まれ、将来に想いを馳せ、時に「アイドルとは何か?」という命題を突きつけられ自問自答する。様々な種類の涙を流して成長していく年端のいかない彼女たちの姿は瑞々しく、観応えたっぷりだ。

ところがどっこい、観ていて即座に気付くと思うが、本作にはさらに“ある仕掛け”が施されている。知っていても面白さは損なわれないので記してしまうが、ズバリ、このメイキング・パートもまたフェイクなのである。いわば、スタッフに見える人々にも役者が潜り込んでおり、山下監督自身も監督役を“演じて”いるのだ。そもそも山下作品の熱心なファンであれば、統括マネージャー“舟木”のキーワードに「!」なり、怪優、山本剛史扮する当キャラが登場すると「きたきた!」とテンション・アップは避けられまい。そして彼は我々の期待を裏切らことなく大暴れしてくれる。
この辺りの監督の手管は、『不詳の人』(04)から『めちゃ怖!』シリーズ(09)といったフェイクドキュメンタリーの作品群で実証済みだ。

他方、その特異な構成が、そのままアイドル論となっているところが本作のツボである。
アイドル文化とは、偶像を虚と理解しつつ愛でて、己の糧とする娯楽である。(中には、虚実が曖昧になって暴走する者もいるが、そこも本作はきちんと警鐘を鳴らしているのだから偉い)
その実在しないモノに対する信奉が、超能力やUFOといった超常現象に結びつく。さらに偶像を生み出す少女たちの人間的な苦悩は紛れもない真実であり、虚と実が入り乱れる、ある種、矛盾した重層構造もまた然り。
要するにこの映画自体と、それを観る経験自体が、アイドルというものの複雑さを総体的に表しているのである。

また、純粋なアイドル映画としても、本作は成功していることを付け加えておく。
というのも、僕自身、乃木坂46なんて微塵も興味なかったが、観終わった後は3人の顔と名前と個性を覚え、その健気さにすっかりファンになってしまった(笑)。

願わくば、映画パート本編も観てみたいもの。単独でも充分面白いものになっていよう。
何はともあれ、本作は一回しか通用しない奇手。流れでそうなったとはいえ、それをモノにした山下監督、恐るべし、である。


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