閉塞感を打ち破る、切なき輝き!
史実が訴える重みに圧倒されつつ、深い感動に包まれる至高の一本であった。
本作は、『舟を編む』(12)にて最年少で日本アカデミー賞を制した俊英、石井裕也監督作。齢の割には老成し過ぎとやっかみの対象になりながらも、自主映画からメジャーへ着実にステップアップし、ついにビッグ・バシェットへ挑戦である。題材は、1914~41年まで実在したカナダ、バンクーバーの日系移民の野球チームを描いたスポーツ・ドラマだ。
恥ずかしながら、当チームについて全く知らなかったが、話を聞くだけで胸が熱くなる実話である。名脚本家の奥寺佐渡子のオリジナル・シナリオを迎え、純然たるジャンル映画になるであろうモチーフを如何なる手管で仕上げたのか?楽しみにスクリーンへ臨んだのだが…!?
1900年代初頭のカナダ、バンクーバー。一攫千金を夢見て新天地カナダへ多くの日本人が移民するも、当地では人種差別に直面。移民たちは低賃金と重労働に耐えながら、日本人街で肩を寄せ合うように暮らしていた。そんな中、当地で生まれ育った日系二世を中心に野球チーム“バンクーバー朝日”が結成される。製材所に勤めるキャプテンのレジー笠原(妻夫木聡)とケイ北本(勝地涼)、漁業に従事するピッチャーのロイ永西(亀梨和也)、豆腐屋で働く所帯持ちのキャッチャーのトム三宅(上地雄輔)、ホテルのポーターのフランク野島(池松壮亮)たちは、体格差で白人に歯が立たず連戦連敗のみじめな思いをしながらも日々練習に励んでいた。そして思案の末、自分たちの特性をいかした戦術的なプレイ法をレジーが見出し、徐々にチームは白人チームを負かすようになり…。
とりあえず真っ先に記しておきたいのが、当時代を完全再現した衣装や巨大オープンセットの美術の完成度である。正直、予告編を観た際は、現地でロケしたとばかり思っていた。セコさは微塵も感じず、ずっとそこにあったかのような建物と街並みのスケールの大きいリアリティに圧倒されんばかり。近藤龍人カメラマンが切りとるシャープな映像の美しさも相俟って、違和感なくタイム・トリップできよう。
ストーリーだけを聞くと、定番の成り上がりスポ根モノを想像してしまうのは、むべなるかな。確かにその要素はあるにはあるが、のっけから趣きが違う。なんせ厳しい冬のオフシーズンから話は始まるのだ。先の展開を知っている身としては、どうしても「早く早く!」と急いてしまうが、エンジンがかかるまでが異様に長い。
このパートでは、人種差別の屈辱に耐え、貧困にあえぐ日本人移民たちの過酷な生活が、キャラクラー毎に丹念に紡がれていく。とかく画面には、凄まじいまでの閉塞感が満ち満ちている。これはもう本作が、単なるエンタメではないという初期宣言に他あるまい。
野球シーズンがはじまってからは、エンタメ要素も快調に滑り出す。大柄な白人のパワー・プレーに対し、バントや盗塁といった俊敏な動きで翻弄し、情報分析で白人チームに対抗し、撃破していくバンクーバー朝日。そんな彼らの痛快な活躍が、常日頃から鬱屈していた日本人移民たちの希望と誇りになっていく。
また、彼らの“アリが巨象を倒す”スモール・ベースボールは、次第に白人の野球ファンをも魅了し、カナダ全土を席捲する。
もうこの辺りは、問答無用でテンション・アップだ。個人的には、暗い日本人街から陽の当たる球場に向って彼らが歩きながら徐々に集結していくシーンの高揚感にやられた!
一方、冒頭から引き続き、進学を夢見るレジーの妹(高畑充希)の理不尽な挫折や、肉体労働でこき使われる親世代、フランクの日本への帰国、そして迫りくる戦争の影といった“暗さ”も重低音で並奏される。
日系移民二世である彼らは、カナダでも虐げられ、かといって日本でも差別の対象となる。居場所のない哀しさが、観る者に重くのしかかる。それでも自分たちの出来ることを探し、そこを懸命にがんばれば、いつかは陽の目をみるというド根性が、彼らの野球を通してストレートに伝わってこよう。
いわば、野球は要素の一部に過ぎず、ネバーギブアップの尊い精神を描いた青春モノなのだ。
ラスト。彼らに待ち受ける顛末は、これ以上ない反戦メッセージとして胸をうつ。凡百の戦争映画では敵わない強烈さである。それもこれも的確な描写を冒頭から積み上げてきたゆえのヘビーさだ。
野球経験がないながらも形にした妻夫木君の役者魂を筆頭に、バンクーバー朝日のメンバーを演じたメイン・キャスト陣の好演はいわずもがな。
レジーの頑固親父役の佐藤浩市をはじめ、石田えり、宮崎あおい、貫地谷しほり、ユースケ・サンタマリア、本上まなみ、田口トモロヲ、徳井優、岩松了、鶴見辰吾、光石研といった脇役陣が、説明はなくとも彼らの背後にある人生が伝わってくる存在感で、豊かにスクリーンを彩っている。かの地の日本人社会を品良く点描する、この細かい配慮には唸らんばかり。(若干、二世たちの日本語の流暢さが気になったが…。皆、あんなに上手かったのだろうか?)
バンクーバー朝日の長い歴史を短縮した強引さや、ライバルの白人チームの強敵感が薄かったり、彼らがこだわった紳士的なポリシーを作劇上、無下にする展開があったりと、「むむむ…」という点もあるが、許容範囲。
やはり本作、石井裕也監督のインディーズから培ってきた独自手法とメジャー的職人芸をみせる器用さが、いいバランスで融合した稀有な一作であると思う。その不思議な味わいが、エンタメと社会派のジャンルが融合した多様性のテーマとマッチしていよう。氏の映画作家としての過渡期である、このタイミングだからこそ生まれた奇跡といえるのかもしれない。
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史実が訴える重みに圧倒されつつ、深い感動に包まれる至高の一本であった。
本作は、『舟を編む』(12)にて最年少で日本アカデミー賞を制した俊英、石井裕也監督作。齢の割には老成し過ぎとやっかみの対象になりながらも、自主映画からメジャーへ着実にステップアップし、ついにビッグ・バシェットへ挑戦である。題材は、1914~41年まで実在したカナダ、バンクーバーの日系移民の野球チームを描いたスポーツ・ドラマだ。
恥ずかしながら、当チームについて全く知らなかったが、話を聞くだけで胸が熱くなる実話である。名脚本家の奥寺佐渡子のオリジナル・シナリオを迎え、純然たるジャンル映画になるであろうモチーフを如何なる手管で仕上げたのか?楽しみにスクリーンへ臨んだのだが…!?
1900年代初頭のカナダ、バンクーバー。一攫千金を夢見て新天地カナダへ多くの日本人が移民するも、当地では人種差別に直面。移民たちは低賃金と重労働に耐えながら、日本人街で肩を寄せ合うように暮らしていた。そんな中、当地で生まれ育った日系二世を中心に野球チーム“バンクーバー朝日”が結成される。製材所に勤めるキャプテンのレジー笠原(妻夫木聡)とケイ北本(勝地涼)、漁業に従事するピッチャーのロイ永西(亀梨和也)、豆腐屋で働く所帯持ちのキャッチャーのトム三宅(上地雄輔)、ホテルのポーターのフランク野島(池松壮亮)たちは、体格差で白人に歯が立たず連戦連敗のみじめな思いをしながらも日々練習に励んでいた。そして思案の末、自分たちの特性をいかした戦術的なプレイ法をレジーが見出し、徐々にチームは白人チームを負かすようになり…。
とりあえず真っ先に記しておきたいのが、当時代を完全再現した衣装や巨大オープンセットの美術の完成度である。正直、予告編を観た際は、現地でロケしたとばかり思っていた。セコさは微塵も感じず、ずっとそこにあったかのような建物と街並みのスケールの大きいリアリティに圧倒されんばかり。近藤龍人カメラマンが切りとるシャープな映像の美しさも相俟って、違和感なくタイム・トリップできよう。
ストーリーだけを聞くと、定番の成り上がりスポ根モノを想像してしまうのは、むべなるかな。確かにその要素はあるにはあるが、のっけから趣きが違う。なんせ厳しい冬のオフシーズンから話は始まるのだ。先の展開を知っている身としては、どうしても「早く早く!」と急いてしまうが、エンジンがかかるまでが異様に長い。
このパートでは、人種差別の屈辱に耐え、貧困にあえぐ日本人移民たちの過酷な生活が、キャラクラー毎に丹念に紡がれていく。とかく画面には、凄まじいまでの閉塞感が満ち満ちている。これはもう本作が、単なるエンタメではないという初期宣言に他あるまい。
野球シーズンがはじまってからは、エンタメ要素も快調に滑り出す。大柄な白人のパワー・プレーに対し、バントや盗塁といった俊敏な動きで翻弄し、情報分析で白人チームに対抗し、撃破していくバンクーバー朝日。そんな彼らの痛快な活躍が、常日頃から鬱屈していた日本人移民たちの希望と誇りになっていく。
また、彼らの“アリが巨象を倒す”スモール・ベースボールは、次第に白人の野球ファンをも魅了し、カナダ全土を席捲する。
もうこの辺りは、問答無用でテンション・アップだ。個人的には、暗い日本人街から陽の当たる球場に向って彼らが歩きながら徐々に集結していくシーンの高揚感にやられた!
一方、冒頭から引き続き、進学を夢見るレジーの妹(高畑充希)の理不尽な挫折や、肉体労働でこき使われる親世代、フランクの日本への帰国、そして迫りくる戦争の影といった“暗さ”も重低音で並奏される。
日系移民二世である彼らは、カナダでも虐げられ、かといって日本でも差別の対象となる。居場所のない哀しさが、観る者に重くのしかかる。それでも自分たちの出来ることを探し、そこを懸命にがんばれば、いつかは陽の目をみるというド根性が、彼らの野球を通してストレートに伝わってこよう。
いわば、野球は要素の一部に過ぎず、ネバーギブアップの尊い精神を描いた青春モノなのだ。
ラスト。彼らに待ち受ける顛末は、これ以上ない反戦メッセージとして胸をうつ。凡百の戦争映画では敵わない強烈さである。それもこれも的確な描写を冒頭から積み上げてきたゆえのヘビーさだ。
野球経験がないながらも形にした妻夫木君の役者魂を筆頭に、バンクーバー朝日のメンバーを演じたメイン・キャスト陣の好演はいわずもがな。
レジーの頑固親父役の佐藤浩市をはじめ、石田えり、宮崎あおい、貫地谷しほり、ユースケ・サンタマリア、本上まなみ、田口トモロヲ、徳井優、岩松了、鶴見辰吾、光石研といった脇役陣が、説明はなくとも彼らの背後にある人生が伝わってくる存在感で、豊かにスクリーンを彩っている。かの地の日本人社会を品良く点描する、この細かい配慮には唸らんばかり。(若干、二世たちの日本語の流暢さが気になったが…。皆、あんなに上手かったのだろうか?)
バンクーバー朝日の長い歴史を短縮した強引さや、ライバルの白人チームの強敵感が薄かったり、彼らがこだわった紳士的なポリシーを作劇上、無下にする展開があったりと、「むむむ…」という点もあるが、許容範囲。
やはり本作、石井裕也監督のインディーズから培ってきた独自手法とメジャー的職人芸をみせる器用さが、いいバランスで融合した稀有な一作であると思う。その不思議な味わいが、エンタメと社会派のジャンルが融合した多様性のテーマとマッチしていよう。氏の映画作家としての過渡期である、このタイミングだからこそ生まれた奇跡といえるのかもしれない。
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