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Channel: 相木悟の映画評
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『神は死んだのか』 (2014)

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信仰心を考える直球プロパガンダ映画!



わりきって布教エンターテインメントと捉えれば、(突っ込みどころ含めて)それなりに楽しめる一作であった。
本作は、“神の存在を証明できるのか?”をテーマに、全米の大学で実際にあったいくつもの訴訟事件をベースにつくられた論争映画。全米で少ない館数で封切られるも、記録的ヒットを飛ばした話題作だ。こうした渋い宗教系映画は日本では馴染みがない分、公開は難しいところだが、大作の聖書モノが相次いで封切られる勢いに乗ってか、めでたく公開と相成った。
普通なら完全スルーするところだが、内容が面白そうだったので観に出かけてみたのだが…。

弁護士を目指し、晴れて大学の法学部に入学したジョシュ(シェーン・ハーパー)は、ラディソン教授(ケヴィン・ソーボ)が担当する哲学のクラスを受講する。するとラディソンは筋金入りの無神論者であり、あろうことか生徒全員に「GOD IS DEAD」と書いた宣誓書の提出を義務付けるのであった。単位を落としたくない生徒たちは次々にサインに応じるも、敬虔なクリスチャンであるジョシュはこれを拒否。そんなジョシュにラディソンは「ならば神の存在を証明したまえ!」と迫り、授業終わりに3回スピーチの時間を与えると条件を提示する。単位がとれなければ将来に響くが、それでも信仰心は曲げられない。葛藤しつつもジョシュはラディソンを論破すべく、猛勉強に励むのだが…。

事前に情報番組から得ていた感触としては、クリスチャンの大学生と無神論者の教授との宗教論争よろしく知的なディベートが全編繰り広げかれるものとばかり想像していた。こうした神秘の現象や行為を理詰めで読解、解釈していくものは好物なので、大いに期待していたのだが…。実際、ジョシュとラディソンの議論シーンはほんのわずかで、内容もそれほど深くはない。というか、丁々発止の白熱した口論などほとんどないのだから、ガックリ。この辺りは、完全な拍子抜けであった。

いわば、本作は信仰にまつわる群像劇といった按配である。
ガンを宣告された働き盛りの女性記者。信仰に目覚める中国人学生。同じく親に隠れてキリスト教に傾倒するイスラム教徒の女性。そして、ジョシュとラディソンのそれぞれの恋人との擦れ違いと破局、といった劇中人物の多種多様な信仰ストーリーが並行して紡がれていく。
しかし、これらの造りがあざと過ぎて、ひとつの結果に向かっているのがバレバレ。結果が分かっている物語をみせられるほど、ツライものはない。神父の二人(デヴィッド・A・R・ホワイトとベンジェミン・オチェン)のレンタカーにまつわるドラバタ・エピソードだけは、ユーモラスかつ深い含蓄があり、秀逸であったが…。

ニーチェやカミュ、フロイト、チョムスキーらは皆、無神論者だと意気揚々と告げるラディソンが、そう至った過去もまた安直である。「徹底的な無神論者は、元信者だ!」という言い分に、少し唸ったぐらいだ。
ニーチェの「神は死んだ」宣言から幾星霜。信仰心をもたない人間も、窮余の際には本能的に神頼みをしてしまうのは確か。存在しないものに対して、どうして祈るのか?と問われれば、誰も的確に言い返せまい。その心理を理詰めで分析するぐらいの狡猾さをラディソンには見せて欲しかった。

ジョシュの講義に対する判決シーンも『いまを生きる』(89)風の感動を狙ったのだろうが、不気味でしらけるばかり。当作のラスト・シーンでは、全員が“同意”していない事実を造り手は考えるべきであろう。
そして、さらに凄まじいのが、クリスチャンのロック・バンドのコンサートを背景にそれぞれのキャラの顛末が描かれるクライマックス。ラディソンが迎えるオチには、「ここまでやるか!?」とのけぞった。いくらなんでも、やりすぎではないだろうか? この時点で、トンデモ映画確定であり、そう肩肘張らず大らかに観れば案外楽しめよう。

信仰心の是非については、もうあらためて記すべきものはないような気がする。劇中のジョシュの成長する姿から、信仰はすがるものではなく、糧に成長するものだというメッセージはよく伝わってくる。また各挿話から、キリスト教徒が信仰をどう捉えているかという観点もよく分かる。僕自身、信仰心ないしはキリスト教を否定する気など一切ない。
でもむしろ本作の構造からすれば、クリスチャンと無神論者、その他の宗教の人々がどう共存するかの道を探るべきであると思う。その方が今の時代、意義があろう。


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