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Channel: 相木悟の映画評
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『ビッグ・アイズ』 (2014)

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大きな瞳が訴えかけるアート界の業!



芸術と商売について考えさせられる、含蓄のある一作であった。
大きな瞳をした子供たちの画を描き、60年代のポップアート界を席巻した“ビッグ・アイズ”シリーズ。本作は、その作者であるマーガレットと夫のウォルターが巻き起こした有名事件を扱った伝記映画。監督は、長年ヒットメーカーであり続ける個性派、ティム・バートンだ。
こうしたゴースト問題は最近、我が国を賑わした某事件よろしく世の常である。そこにはやむを得ない事情がある訳だが、この辺りを奇才バートンがどうえぐったのか?名作『エド・ウッド』(94)と同じ脚本家コンビとのタッグなだけに、興味津々スクリーンに臨んだのだが…。

1958年。夫のもとを飛び出し、幼い娘と共にサンフランシスコに流れついたマーガレット(エイキー・アダムス)は、家具工場で働きながら、休日はアーティストが集まる公園で似顔絵を描き、日銭を稼いでいた。ある日、公園でパリに留学経験があるという風景画専門の不動産屋ウォルター・キーン(クリストフ・ヴァルツ)と出会い、恋に落ち、結婚。お互い画家を目指す二人は、こつこつと作品を画廊に売り込むも、一向に相手にされない日々を送っていた。そんな折り、ウォルターの交渉でなんとかナイトクラブで二人の画を展示するも、小バカにするオーナーとウォルターは大喧嘩。しかしその騒動が記事になり、紙面にうつったマーガレットの大きな瞳の少女の画が、まさかの評判となる。そして調子にのったウォルターは、ついはずみでマーガレットの画を自分の画と偽って売ってしまい、話題になるにつけ、引っ込みがつかなくなってしまい…。

恥ずかしながら、日本の漫画やアニメのデフォルメに近い、マーガレット女史の瞳の大きい子供画ブームも、夫妻をめぐるゴースト事件についても全くの無知であった。センセーションな騒動ながら、なんともはや普遍的な命題を孕んだ、身につまされる事件である。

出だしから、まだまだシングルマザーが生き辛かった偏見社会で、当時のマーガレットのおかれた厳しい立場を丁寧に描写。ウォルターと出会い、恋愛の延長ではあれ、男の経済力に依存しなければならない彼女の境遇がよく伝わってくる。この辺り、はじめから胡散臭いウィルターのさり気ない伏線描写等、手際のいい進行に唸りに唸る。
そして、ひょんなことからマーガレットの画がウォルター名義で人気が出てしまい、幸か不幸か、そこで彼の社交的な才能が大活躍。陽気な人心掌握力とプレゼン力、企画力が開花し、成功の階段を一気に駆け上がっていく。
画の背景をお涙頂戴にでっちあげたウォルターに、まんまと乗せられるマスコミと市民への皮肉がピリリと効いている。

かようなマーガレットとウォルターは、足りないところを補う理想の関係に見えるが、さにあらず。自然、部屋に閉じ込められて作品製造機となり、我が子同様の作品たちの母となる名誉を得られないマーガレットの不満と不信感は募り、やがて爆発する羽目に…。
結果、マーガレットの暴露は、前代未聞のスキャンダルに発展する。

この構造は、アート界に常につきまとう宿命といえよう。
だいたいにおいて、絵画や演劇、音楽、映画、等々、芸事に進む人間は、社会に適応できないタイプが大半である。しかし、一握りの天才以外は、それで生計をたてようとすると、自ら商売に転化する必要がある。時には自分の作品を積極的に売り込んだり、コミュニケーションをとって人脈をつくったりする営業力が問われていく。要するに、芸術家にも社会人同様、もしくはそれ以上の社会性スキルが求められる訳である。多くのドリーマーたちがこの矛盾にぶち当たり、苦悩する羽目となる。
本作のマーガレットもウォルターがいなければ、芽が出ていないのは確実。いわば、お膳立てされたおいしいところを最後にもっていったともいえる。(そういう意味では、往生際の悪いウォルターにも同情の余地はあろう)
さながら、泥仕合になるマーガレットとウォルターの顛末を見つめるビッグ・アイズの哀し気な瞳が、あわれを誘う。俗な煩わしさをよそに、作品の芸術性自体は変わらないのだ。

マーガレットを演じる、エイミー・アダムスは相も変わらず超キュート。若い母親からおばさん化するまで、きちんと演じてしまうのだからスゴイ。
ウォルター役のクリストフ・ヴァルツも、嫌味なほど上手い。こうした腹にイチモツある男は、もうお手のもの。ポストカードの販売等、商業的な成功を“芸術にあらず”と批判した批評家(テレンス・スタンプ)に頭にきてくってかかるシーンのトホホ感たるや!詐称している彼が真剣になればなるほど、アンビバレンスな可笑しさがこみあげる名シーンである。

ただ本作、ティム・バートンのさすがの演出力で一気にみせはするが、いまいち淡白な後味は否めない。上記した命題に考えさせられはするが、感動としては迫ってこないのだ。理由は、マーガレット女史のファンであるバートンが彼女に傾倒しているがゆえであろう。
本作は、ダメ人間のウォルターの方に感情移入し、肩入れする人が撮るべきであった。潔白なマーガレットは、キャラとしてはあまり面白くはない。
マーガレットに比重を傾けるのならば、少なくとも女性問題に一家言ある監督が撮るべきである。女性を描くのが得意ではないバートンでは、いかにも上っ面を撫でているようで彼女の葛藤が薄いのだ。
ティム・バートン、今回はちょっと扱う題材を間違えたのではなかろうか?


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