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Channel: 相木悟の映画評
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『キャリー』 (1976)

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エモーショナルな鮮血青春ホラーを体感すべし!



ホラーと青春モノは、一般的にはセットなイメージがある。理由といえば、犠牲になるのがチャラい若者たちの方が映えるというより、精神が未熟かつ不安定で狂気をはらみ、ある種、死が身近にある若者の心情にホラーが引き寄せられているといえよう。
とはいえ、青春モノとしてきちんと成立しているホラーがどれだけあるかは疑問。そんな中、本作は両ジャンルが見事に融合された傑作である。
原作は、モダンホラーの帝王スティーヴン・キングの記念すべきデビュー作。当時、キングは小説家として鳴かず飛ばずで、教師をしながらクリーニング店でアルバイトをし、トレーラーハウスに住んでいた。そんな中で書かれた本原作だが、はじめは数ページ書いて挫折し、ゴミ箱に放り込んだところ、拾って読んだ妻に励まされて執筆を続行。完成した作品は、『エクソシスト』(73)が巻き起こしたオカルト・ブームに乗って話題となり、ベストセラーになる。
さっそく映画化権の争奪戦となり、怪奇色の濃いスリラーで評価を得ていた若手の奇才、ブライアン・デ・パルマを監督に招聘。結果、映画は大ヒットし、興行的成功に恵まれていなかったデ・パルマはメジャーの地位を固め、キングはご存じの通り売れっ子となった。
その後もキング作品は次々に映像化されたが、実際トホホな出来が多く、本作はその中でも本人が「一番忠実」と絶賛を惜しまない稀少な一本である。

メイン州チェンバレンのベイツ・ハイスクールに通うキャリー(シシー・スペイセク)は、気弱で内気な性格からクラスメイトからいじめを受ける辛い日々を過ごしていた。ある日、体育の授業後、シャワーを浴びていたキャリーは初潮をむかえるも知識のなかった彼女はパニックになり、同級生にはやしたてられ騒動に発展。その場は女性の体育教師コリンズ(ベティ・バックリー)により収められ、コリンズはいじめたメンバーを集め、居残り授業の罰を課すのであった。
キャリーは厳格なキリスト教信者の母親(パイパー・ローリー)と二人暮らし。性の欲望をバチあたりと嫌悪する母親のヒステリックなしつけに堪えるキャリーであったが、彼女には誰にもいえない秘密があった。実はキャリーは、感情の高ぶりにより物を動かしたり、破壊できるテレキネシスをもつ超能力少女だったのだ。
そんな折り、キャリーに対し罪悪感をもっていた同級生のスー(エイミー・アーヴィング)は恋人のトミー(ウィリアム・カット)に、キャリーを自分の代わりにプロム・パーティーへ誘うよう頼み込む。しぶしぶ了承したトミーはキャリーにエスコートを申し出るも、キャリーは怯えて逃げ去ってしまう。しかしコリンズの励ましもあり、キャリーは猛反対する母親を押しのけ、トミーとパーティーへ行く決心を固めるのであった。
一方、キャリーへの腹立ちがおさまらない、いじめグループのリーダー格クリス(ナンシー・アレン)は恋人のビリー(ジョン・トラヴォルタ)と共に、パーティーに向けてある恐ろしいイタズラを計画し…。

キャリーの母親は、ファナティックなキリスト教徒。浮気夫に逃げられたショックに折り合いをつけるように、キャリーを抑圧する。学友との交流も認められず、禁欲的な生活を強いられたキャリーは自然、浮世離れし、いじめの対象になる羽目に。
さらに心の内には、テレキネシスという自分でも手の付けられない暴性を抱え、キャリーはトリプルのプレッシャーに苛まれる。
いうまでもなくこれらは、青春時代に家族や教師、友人関係の下、誰もが抱く制御、理解できない内なる感情の誇張されたメタファーといえよう。

とことん抑圧された後、ようやく殻を破り、プロム・パーティーで解放の喜びに浸る絶頂で奈落に叩き落される―。パンパンに膨れたエモーションの風船が暴発するクライマックスは、スカッとする傍ら、どうしようもない切なさを伴う。まさに若さゆえの高揚と、期せずして加速度的に犯してしまう取り返しのつかない過ち。そこが本作の青春モノたる側面の真骨頂といえよう。
一方、観終わった後も地続きになる恐怖の余韻はホラーの面目躍如であり、他の追随を許さない。

そして、何といっても劇中で爆裂するブライアン・デ・パルマのテクニックと変態性にご注目。
バレーボールに興じる女子の体育授業を映し出したOPの長回しで、キャリーの性格、置かれた立場を一発で表現。続いて一転して、エロティックで美しいシャワー・シーンにつながる鮮やかさに唸る。
キャリーの自室で内なる狂気を示す鏡の使い方、あえてほんわか青春風の浮いたカットを挟む居心地の悪さ、ダンス・シーンでグルグル回るカメラ、“あるイタズラ”が発動するまで各キャラの動きをフォローするスリリングな超長回し、パーティーが地獄絵図と化す際の分割スクリーン、等々…。
母親と娘の最終決戦も、母親がキャリーの超能力(抑圧された鬱憤=性)にエクスタシーを感じる等、奥深い寓意に溢れている。
そして訪れる映画史に残るオチ!本作後、さんざん真似される有名シーンだが、はじめて観た時は冗談ではなくTVの前で飛び上がった覚えがある。
バーナード・ハーマンにオマージュを捧げたピノ・ドナッジオのサウンドトラックもまた必聴!

ただ不満をあげれば、キャリーのクラスメイト、スーの描き方にちょっと異議を申したい。このスーというキャラは、本作の中ではコリンズ先生と共に善意のキャラの代表格なのだが、不穏な空気を維持するためか、後半まであえてグレーに描かれている。よって、彼女とトミーが善なのか悪なのか雑念が先に立ち、ポジションが消化不良になっているといわざるをえない。

キャリーを体当たりで演じたのは、当時27歳(!)のシシー・スペイセク。本作のプロダクション・デザインを担当した夫ジャック・フィスクのプッシュもあり、並居るライバルを押しのけて本役を執念で獲得。線が細く挙動不審で不気味としかいいようのない前半から、パーティーで光輝く変貌ぶり&狂乱の暴走は鬼気迫る名パフォーマンスである。
本作後に『歌えロレッタ!愛のために』(80)でアカデミー主演女優賞を受賞し、名女優の仲間入りを果たした。
キャリーの母親を迫力たっぷりに演じたのは、『ハスラー』(61)の好演が有名なパイパー・ローリー。本作が久しぶりの復帰作となり、衰えぬ結果を刻んだ。
両者共、ホラー映画としては前代未聞のアカデミー賞ノミネートも納得の怪演である。

正直、本作はこのキャリーと母親のインパクトが強すぎて他は印象に残らないが、実は超豪華な脇役陣を誇っている。
原作では主役級である重要人物スーに扮したのは、エイミー・アーヴィング。『フューリー』(78)でもデ・パルマに役を与えられ人気女優となり、スティーヴン・スピルバーグのハートを射止め、結婚した。(後に離婚)
ちなみに実母の女優プリシラ・ポインターが劇中でも母親役を演じ、母娘共演を果たしている。
スーの恋人で、彼女の頼みでキャリーをプロム・パーティーに誘うトミーに扮したのは、ウィリアム・カット。はじめは気が乗らないものの、ドレスを着たキャリーの変身ぶりに心を奪われる好青年を爽やかにこなしている。
彼も後に、81年のTVシリーズ『アメリカン・ヒーロー』で人気者になった。

他方、いじめっ子で金持ちのお嬢であるクリス役のナンシー・アレンも、『殺しのドレス』(80)、『ミッドナイトクロス』(81)といった後のデ・パルマ映画や『ロボコップ』(87)でブレイク。79年に、デ・パルマ夫人となった。(こちらも後に離婚)
クリスの恋人ビリー役のジョン・トラヴォルタは、本作後の『サタデー・ナイト・フィーバー』(77)により大スターとなり、例のごとくデ・パルマの『ミッドナイトクロス』に主演。一時は低迷するもタランティーノに見出されて不死鳥の復活を遂げ、いわずと知れた現在の活躍に至る。

有名な逸話としては、本作のオーディションはデ・パルマの盟友ジョージ・ルーカス監督の『スターウォーズ』と同時に開催され、実はエイミー・アーヴィングはレイア姫、ウィリアム・カットはルーク役の有力候補であった。反面、キャリー役には、ご存じレイア姫役をゲットしたキャリー・フィッシャーの名が浮上するも、ヌードを拒否し、ご破算に。個人的にはキャリー・フィッシャーのキャリーは、ちょっと観てみたかった気がする。
また、ティッピ・ヘドレンの娘であるメラニー・グリフィスもオーディションに参加していたのだが、デ・パルマの無理難題にブチギレて帰ってしまったのだとか。ヒッチコキアンのデ・パルマを顧みれば、もしかしたら彼女が一番の候補であったのかもしれない。
本オーディションの初期段階の結果をみると、歴史的メガ・ヒットとなった『スターウォーズ』組のマーク・ハミルとキャリー・フィッシャーが一見、勝ち組にみえる。が、長い目でみると一概にそうではなかった事実が、歴史の妙味といえよう。

こうした経緯をみると、ルーカスとデ・パルマ共々、青春の花火を打ち上げた一作ともいえ、特に本作はデ・パルマのほとばしる感情が映画にのり移っているように思う。
デ・パルマのフィルモグラフィの中でも、商業性と作家性がいい具合に交わった忘れがたい一本である。


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