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Channel: 相木悟の映画評
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『KANO ~1931海の向こうの甲子園~』 (2014)

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全てを覆う球児のひたむきさに感涙せよ!



特に日本人には直球に胸に突き刺さる感動大作である。
本作は、日本統治時代の台湾原住民による抗日暴動をダイナミックに描いた『セデック・バレ』(11)が高い評価をえたウェイ・ダーションの脚本、プロデュース作。長編映画初監督に挑戦したのは、同作に出演した俳優マー・ジーシアンだ。
『海角七号 君想う、国境の南』(08)、『セデック・バレ』と同時代を題材にしてきたダーションが今回ピックアップした題材は、台湾代表として甲子園に出場し、大会を席捲した嘉義農林学校野球チーム。『セデック・バレ』の準備中に歴史に埋もれていた快挙を知り、映画化を企画。野球少年だったマーが、監督に名乗りを挙げたという。
本作は台湾で公開されるや大ヒットを記録し、観客の熱い支持をうけるも、「日本統治を美化している」と親中勢力からバッシングを受け、台湾最大の映画賞、金馬奨では主要部門では無冠に終わり(観客賞と国際映画批評家連盟賞を受賞)、中国の圧力があったのではないか?とファンが疑問を呈し、騒動に発展した。
はたして、台湾を揺るがしたその内容は如何に…!?

1929年、日本統治下の台湾。かつて名門、松山商業野球部の監督として名を馳せた近藤(永瀬正敏)は、簿記の教師として働き、妻(坂井真紀)と幼い二人の娘を養っていた。そんな近藤に地元の嘉義農林学校から、野球部の監督へ就任要請がくる。松山時代の苦い経験から答えをしぶる近藤であったが、日本人、台湾人、台湾原住民が混成したチームの練習風景を見学するにつけ、そのあまりの不甲斐なさに野球人としての血が騒ぎ、監督を快諾。「台湾代表として甲子園出場!」という目標を掲げ、猛特訓を開始する。はじめはとまどったメンバーたちも近藤に必死に喰らいついていき、やがては日本人中心の台湾チームを破るまでに急成長。チームは一躍、地元の星として期待を浴びるようになっていき…。

1931年の嘉義農林学校野球部、“KANO”の活躍については、恥ずかしながらはじめて知る逸話であった。台湾の野球チームが甲子園に出場していたこと自体知らなかった。本チーム出身の呉昌征が日本のプロ野球入りして名選手となり、殿堂入りしたことも野球オンチなため無知であった。(本選手は劇中で、練習場に出入りしている少年として登場)
『バンクーバーの朝日』同様、こういう史実を映画を通して知るにつけ、まだまだ知っておかねばならないエピソードが山程あるであろう歴史の多彩さを痛感する。

ストーリーの構造は、実にストレート。過去にいきさつのあるコーチが僻地で、ダメダメ・チームを再建する『がんばれ!ベアーズ』(76)方式だ。
守備に長けた日本人、打撃力のある台湾人、俊足の台湾原住民といった、人種から境遇まで異なるメンバーそれぞれの特性を活かし、チームワークの素晴らしさを提唱。なおかつプロセスと結果、勝つことの真の意義を訴えかける。
そして、選手と共に監督も過去のトラウマを乗り越え、成長。瑞々しくも野球経験があり、本格的な試合シーンで魅せる選手役の役者たちとスパルタ監督役の永瀬正敏の熱演も印象深く、涙、涙、涙の怒涛のクライマックスまで構成要素としては全く申し分ない。

ただ、そのままスポ根ものとして捉えれば、上映時間185分はあきらかに冗長である。
長尺の割に、エースで主将のアキラこと呉明捷(ツァオ・ヨウニン)の淡い身分差恋等、味付けはあるにはあるが、野球部の各キャラの個性の描き込みは総じて薄い。全体的に感傷に浸り過ぎて、間延びした面が目立つ。
しかし、そうした過剰なセンチメンタルが日本人と台湾人を揺さぶるのは確か。両国の人々特定で感動が倍加する一作といえよう。

分かり易いのは、甲子園の存在だ。高校球児たちの夢舞台である特別さを肌身で知る日本人にとって、そこを話の頂点にもってこられるのだから想いは格別であり、悪い気はしない。劇中の台湾の球児たちがはじめはバカにされつつも、地元民の期待を一身に背負い、快進撃を通して日本人の心をつかんでいく様子は問答無用に感動させられる。甲子園にピンと来ない他国の人々より、確実に感慨は深かろう。

また、統治時代の描写として、日本人が台湾の人々に圧政を加えているような描写がほとんどない。日本国内のシーンで、見下した差別描写があるぐらいである。それどころか、嘉南地域のダムや灌漑施設を指導し、台湾の農業発展に貢献した水利技術者、八田與一(大沢たかお)が、偉人として登場するのだから何をかいわんや。ウェイ・ダーションの「日本を美化したわけではない。悪く描かなかっただけだ」という発言は言い得て妙ではあるが、「これでいいの?」とむずがゆく心配してしまうほどである。
親中機関が本作を槍玉に挙げたのは、もちろんナンセンスだと思うが、危険視してやっかむ気持ちはよく分かる。

でも八田與一の存在や、多人種が織り成すチームプレイからは、そうしたしがらみを越えた平和共存のメッセージが響いてこよう。
そして、嘉義農林学校野球部に敗れた札幌商業学校の主将(青木健)が、1944年に陸軍大尉としてフィリピンへ出征前に、嘉農の練習場を訪れる一連のシークエンス。台湾人や台湾原住民たちが日本兵として共に戦地に送られる光景からは、戦争においてのチームプレイの皮肉が窺え、やりきれない思いが去来する。ここは重大に受けとめねばなるまい。

若干CGに残念な点がみられるが、些細な問題である。精緻で雄大なオープン・セットには圧倒されるし、何より日本人役者をちゃんと起用し、史実に則り、話される言葉がほぼ日本語という再現のこだわりにも敬意を表したい。
こんな誠意にあふれた映画をみせられたら、もう白旗を降るしかない。まいりました。


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