装いも新たに甦る“十戒”伝説!
昨今、流行の新解釈聖書モノの真打ちであり、唸る部分も多いのだが…。
本作は、老いてなおエネルギーみなぎる巨匠リドリー・スコット監督作。SF、ミステリー、犯罪サスペンス、戦争アクションとなんでもござれのスコット監督。今回の題材は、旧約聖書の出エジプト記だ。本パートをもとにした映画といえば、セシル・B・デミルの最後の大作『十戒』(56)のイメージが濃いが、それを『グラディエーター』(00)、『キングダム・オブ・ヘブン』(05)と歴史叙事詩をモノにしてきた御大が巨費を投じて映像化するというのだから、ワクワクせずにはいられない。
…が、全米で大コケし、白人仕様のキャスティングに物言いがつくという不安な空気が漂ってきている本作。『プロメテウス』(12)、『悪の法則』(13)と妙なベクトルに振り切れ、ある意味、前人未到の領域に踏み込んでいる当監督により、一体どんな作品に仕上がったのか…!?
紀元前1300年。古代エジプト王国は、セティ王(ジョン・タトゥーロ)のもと、王子ラムセス(ジョエル・エドガートン)と、兄弟同然に育てられたモーゼ(クリスチャン・ベール)のツートップの武勇により隆盛を誇っていた。しかし王宮の占い師により、“一方の命を救った者が指導者になる”という予言をうけ、近隣勢力のヒッタイトとの戦場でモーゼに命を救われたラムセスは、モーゼに不信感をもつようになる。
一方、王国に奴隷として苛酷な労働を強いられている約40万人のヘブライ人の集落を視察に訪れたモーゼは、長老ヌン(ベン・キングスレー)と会合をもつ。そこでモーゼはヌンから、実は自分はヘブライ人で、王宮に拾われた身であることを聞かされる。一笑に付すモーゼであったが、やがてその秘密がセティ王の死後、王に即位したラムセスの知るところとなり、モーゼは一人、国を追放されてしまい…。
とにもかくにも映像自体は、魔術師リドリー・スコットの安心印。期待を裏切らない圧巻のスペクタクルが画面狭しと繰り広げられる。豪華絢爛な宮殿や、隅々までアリのように人々が蠢き、巨大偶像を建造するダイナミックな光景、大軍勢が激突する迫力の戦闘シーン等々、とにかく人、人、人の人海戦術の桁違いのスケールに眼が点になる。1万人以上のエキストラ、千人を数える美術スタッフという規格外の陣営で挑んだ、CGに頼らないマン・パワーは伊達ではない。
奴隷の身分であったヘブライ人たちを先導し、“約束の地”へ大移動する預言者モーゼの壮大な旅を充分過ぎるほど実感できよう。
内容は、リアル指向で現代に再現したセシル版『十戒』リブートといった按配であり、エジプト王国を襲う、血の色に染まるナイル川から、カエルの大量発生、空を覆うイナゴ、民を襲う疫病等々、ご存じ“十の災い”の超常現象も極力説明がつくよう施されている。
モーゼ像もまたヒロイックではなく、悩める等身大の人間臭い男になっている。
中でも注目すべきは、神の描き方だ。エジプト王国の巨大偶像信仰に反し、モーゼの到達した一神教の境地たる新アプローチが、そのお告げの“姿”に表れていよう。信仰は人外の力にすがり、崇めるものではない、というメッセージの体現が“あの姿”とはいえまいか。そのある種の純粋性は、神秘の力で与えられる代物ではない劇中の“十戒”に形にも重なろう。要は、神とその教えである“十戒”は純粋でも、あつかう人間は過ちを犯すものであり、それはモーゼも例外ではない。その折り合いが、信仰というものなのではないか。
あくまでこれは僕の拙い頭を使っての勝手な解釈であるが、かなり大胆なアプローチにみえる。ゆえに今日まで続く宗教戦争に対し、普遍的なテーマを打ち出していよう。
ただ、それらの試みはいいのだが、観ていて面白いかというと、正直ちっとも面白くなかった。狙いとして創り話感をおさえたのかもしれないが、せっかくのエピックなのだ。運命劇のケレン味が、もっとあってもよかった。とかくモーゼとラムセスの兄弟の確執が盛り上がらず、真に迫ってこない。
そのくせ“十の災い”のグロ描写には異様に力が入っているのだから何をかいわんや。その間、モーゼは置いてけぼりである。この辺り、昨今のリドリー・スコットの暴走がみてとれる。
極めつけは、モーゼ一行が紅海に面した有名シーン。前作との差別化を図り、本作の独自アプローチとしてはアレで正解なのかもしれない。事実、サスペンスフルではある。でも、当場面を楽しみにしてやってきた観客からすれば、肩すかしもいいところ。あそこぐらいは現代のテクノロジーで、おもいっきり遊んでもよかったのはなかろうか?
結果、一番心を揺さぶられたエモーショナルな局面は、本作をトニー・スコットに捧げるという献辞であった。う~ん…。
昨今のリドリー・スコットの不良性を顧みると、やはり後に控える『プロメテウス』、『ブレードランナー』の続編に期待します。
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昨今、流行の新解釈聖書モノの真打ちであり、唸る部分も多いのだが…。
本作は、老いてなおエネルギーみなぎる巨匠リドリー・スコット監督作。SF、ミステリー、犯罪サスペンス、戦争アクションとなんでもござれのスコット監督。今回の題材は、旧約聖書の出エジプト記だ。本パートをもとにした映画といえば、セシル・B・デミルの最後の大作『十戒』(56)のイメージが濃いが、それを『グラディエーター』(00)、『キングダム・オブ・ヘブン』(05)と歴史叙事詩をモノにしてきた御大が巨費を投じて映像化するというのだから、ワクワクせずにはいられない。
…が、全米で大コケし、白人仕様のキャスティングに物言いがつくという不安な空気が漂ってきている本作。『プロメテウス』(12)、『悪の法則』(13)と妙なベクトルに振り切れ、ある意味、前人未到の領域に踏み込んでいる当監督により、一体どんな作品に仕上がったのか…!?
紀元前1300年。古代エジプト王国は、セティ王(ジョン・タトゥーロ)のもと、王子ラムセス(ジョエル・エドガートン)と、兄弟同然に育てられたモーゼ(クリスチャン・ベール)のツートップの武勇により隆盛を誇っていた。しかし王宮の占い師により、“一方の命を救った者が指導者になる”という予言をうけ、近隣勢力のヒッタイトとの戦場でモーゼに命を救われたラムセスは、モーゼに不信感をもつようになる。
一方、王国に奴隷として苛酷な労働を強いられている約40万人のヘブライ人の集落を視察に訪れたモーゼは、長老ヌン(ベン・キングスレー)と会合をもつ。そこでモーゼはヌンから、実は自分はヘブライ人で、王宮に拾われた身であることを聞かされる。一笑に付すモーゼであったが、やがてその秘密がセティ王の死後、王に即位したラムセスの知るところとなり、モーゼは一人、国を追放されてしまい…。
とにもかくにも映像自体は、魔術師リドリー・スコットの安心印。期待を裏切らない圧巻のスペクタクルが画面狭しと繰り広げられる。豪華絢爛な宮殿や、隅々までアリのように人々が蠢き、巨大偶像を建造するダイナミックな光景、大軍勢が激突する迫力の戦闘シーン等々、とにかく人、人、人の人海戦術の桁違いのスケールに眼が点になる。1万人以上のエキストラ、千人を数える美術スタッフという規格外の陣営で挑んだ、CGに頼らないマン・パワーは伊達ではない。
奴隷の身分であったヘブライ人たちを先導し、“約束の地”へ大移動する預言者モーゼの壮大な旅を充分過ぎるほど実感できよう。
内容は、リアル指向で現代に再現したセシル版『十戒』リブートといった按配であり、エジプト王国を襲う、血の色に染まるナイル川から、カエルの大量発生、空を覆うイナゴ、民を襲う疫病等々、ご存じ“十の災い”の超常現象も極力説明がつくよう施されている。
モーゼ像もまたヒロイックではなく、悩める等身大の人間臭い男になっている。
中でも注目すべきは、神の描き方だ。エジプト王国の巨大偶像信仰に反し、モーゼの到達した一神教の境地たる新アプローチが、そのお告げの“姿”に表れていよう。信仰は人外の力にすがり、崇めるものではない、というメッセージの体現が“あの姿”とはいえまいか。そのある種の純粋性は、神秘の力で与えられる代物ではない劇中の“十戒”に形にも重なろう。要は、神とその教えである“十戒”は純粋でも、あつかう人間は過ちを犯すものであり、それはモーゼも例外ではない。その折り合いが、信仰というものなのではないか。
あくまでこれは僕の拙い頭を使っての勝手な解釈であるが、かなり大胆なアプローチにみえる。ゆえに今日まで続く宗教戦争に対し、普遍的なテーマを打ち出していよう。
ただ、それらの試みはいいのだが、観ていて面白いかというと、正直ちっとも面白くなかった。狙いとして創り話感をおさえたのかもしれないが、せっかくのエピックなのだ。運命劇のケレン味が、もっとあってもよかった。とかくモーゼとラムセスの兄弟の確執が盛り上がらず、真に迫ってこない。
そのくせ“十の災い”のグロ描写には異様に力が入っているのだから何をかいわんや。その間、モーゼは置いてけぼりである。この辺り、昨今のリドリー・スコットの暴走がみてとれる。
極めつけは、モーゼ一行が紅海に面した有名シーン。前作との差別化を図り、本作の独自アプローチとしてはアレで正解なのかもしれない。事実、サスペンスフルではある。でも、当場面を楽しみにしてやってきた観客からすれば、肩すかしもいいところ。あそこぐらいは現代のテクノロジーで、おもいっきり遊んでもよかったのはなかろうか?
結果、一番心を揺さぶられたエモーショナルな局面は、本作をトニー・スコットに捧げるという献辞であった。う~ん…。
昨今のリドリー・スコットの不良性を顧みると、やはり後に控える『プロメテウス』、『ブレードランナー』の続編に期待します。
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