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Channel: 相木悟の映画評
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『ジョーカー・ゲーム』 (2015)

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誕生なるか、和製スパイ・エンターテインメント!



新進気鋭の才能による新しき日本産娯楽作の登場を祝いたいのは山々なのだが…。
本作は、インディーズ映画『SR サイタマノラッパー』(09)の成功以降、着々とキャリア・アップを刻んでいる入江悠監督作。柳広司の同名ベストセラー小説の映画化という華々しい舞台で、ついにメジャー進出である。
原作は、ライトノベルほど軽くはないが、扱っている題材にしては噛み砕いた読み易いエンタメ小説であった。ただ日本では馴染のないスパイものだけに、アニメならまだしも実写化するのは微妙なラインではある。この辺りは、演出と脚色の実力が問われる訳だが、はたして入江悠監督と渡辺雄介氏は、どんな世界を切り開いてくれたのか…!?

第二次世界大戦前夜。訓練中に上官を殴り、死刑宣告をうけた青年軍人(亀梨和也)は、執行直前に謎の男、結城(伊勢谷友介)に救い出される。交換条件として、結城が設立した諜報組織“D機関”の一員になった青年は、民間出身の仲間たちから軍人であった身分を蔑まれつつ、厳しい訓練を突破。一人前のスパイになり、国際都市“魔の都”に送り込まれる。任務は、写真家の嘉藤という人物になりすまし、米国大使グラハムがもつ新型爆弾の設計図“ブラック・ノート”を奪うこと。策略をたててグラハムに接近する青年であったが、不審な動きをするメイドのリン(深田恭子)や英国、ロシア、ドイツのスパイ、さらに日本の軍部といった身内まで、様々な邪魔がその前に立ち塞がり…。

構成としては、“D機関”の各スパイたちの活躍を紡いだ短編集の原作を、各エピソードのいいところをつまんで、嘉藤を主人公に映画仕様のヒロインをからめて一本にまとめた按配である。
原作は、滅私奉公、死の美学にとりつかれた軍部との確執の中、「死ぬな、殺すな」をモットーに、冷静な思考を失わないプロフェッショナルなスパイたちの仕事ぶりを丹念に描出。スパイという職業を卑劣な行為(いわんや、男らしくない)と見下し、性質上、根付かなかった日本の風土を論評しつつ、そこをはみ出たスパイ機関の在り様を平易に綴った渋い一作であった。

対して、映画化である本作では、そんな原作のリアル指向に背を向け、純然たるエンタメ、架空の国の無国籍アクションたるアプローチをとっている。静から動へ、冷徹なスパイ合戦の妙味はどこへやら。頭脳ゲームといったロジカルな趣きは霧散し、終始ドタバタ騒がしい。世界を揺るがす“ブラック・ノート”奪取という中二的なストーリーラインと、漫画じみたキャラが入り乱れた、お子様ランチと化してしまった。
原作ファンからすると、「何をしてくれてるんだ!」と怒り心頭であろうが、個人的にはこれはこれでアリだと思う。そもそもシリアスな和製スパイものでは、『陸軍中野学校』シリーズ(特に増村保造の一作目は、別格)という傑作があり、市川雷蔵や加藤大介を相手に挑んで敵う道理はない。

…がしかし、それで面白くなっていれば万事OKなのだが、残念なことに本作、驚くほどつまらなかった。
というのも、スパイものにしては上記したリアリティの欠如から緊張感がまるでない。“D機関”のスパイ連中も総じてゆるゆるで、平気で対面して打ち合わせするわ、ハニートラップにまんまとひっかかるわ、アホなミスの連発におよそ凄腕とは云い難い。ちなみに原作では、情報交換も完璧に他人を装い、仲間であろうと誰であろうと絶対に心を許さない等、精緻で苛酷なスパイ描写に気が配られている。

役者陣も亀梨君はエキセントリックなスター然としていい雰囲気をまとっているし、伊勢谷友介、小澤征悦、山本浩二、渋川清彦とクセ者が揃っており悪くはないのだが、とんでも展開の中、失礼ながらどうしても現代人がコスプレして遊んでいるみたいにみえる。深キョンの鈍重な大根ぶりもそこに拍車をかける悪循環。

アクション描写における『プロジェクトA』(83)や『バック・トッゥ・ザ・フューチャー』(85)へのオマージュ等々、監督がメジャーという場をおもいっきり楽しんでいる感じは伝わってきて微笑ましいが、どうも地に足がついていない。意気込みが空回りしているといおうか。
荒唐無稽の中、世界観をきちんと成立させている『007』や『M:I』、『ジェイソン・ボーン』シリーズが如何にスゴイか、本作を観ると身に沁みてよく分かった。

でも、ラストでは、ちょっとしたどんでん返しもあり、「『ルパン三世』かよ!」という突っ込み、あからさまな続編の匂わし等々、あまりの能天気さにニンマリして気分が救われたのも確か。
ただ、今回は原作が足かせとなった分、コレをやるならオリジナルで好き勝手やった方は絶対よかったと思う。続編は、ナシであろう。

今回は無念な結果であったが、インディーズ出身の奇才がメジャーを手掛ける道筋は強く推奨したいところ。入江悠監督には、今後も大きなステージでがんばっていただきたい。


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