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Channel: 相木悟の映画評
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『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』 (2015)

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妖しき世界にいざなうエロティック・ドラマ!ではあるのだが…!?



危険なムード漂うライトなお色気ムービーではあるのだが、如何せん事前情報を得て向かわないとツライ一作であった。
本作は、50ヶ国以上で翻訳され、全世界で1億部を越えるベストセラーになっている同名官能小説の映画化。原作者は主婦で、『トワイライト』シリーズのファンであり、ファンサイトに本小説を投稿。そこで話題となり、怒涛の勢いで時の人になったというのだから、J・K・ローリングもかくやのサクセス・ストーリーである。
…と、知ったかぶりで記したが、本小説に関しては、全く知識ナシ。満を持しての映画化となり、予告編ダウンロードが1億回を記録する等、盛り上がっているそうだが、どこ吹く風。この全く覚えられないタイトルの作品の正体は一体何なのか?確かめるべく劇場へ向かったのだが…!?

アメリカ、シアトル。平凡な女学生アナ(ダコタ・ジョンソン)は、風邪をひいたルームメイトのケイト(エロイーズ・マンフォード)の代役で、学生新聞の取材のため、若くして巨大企業のCEOを務める億万長者クリスチャン・グレイ(ジェイミー・ドーナン)のもとを訪れる。一目会って惹かれ合った二人は、その後も交流をもつも何処かグレイの態度は煮え切らない。ある夜、アナはバーで酔っぱらい、親友だと思っていたホセ(ヴィクター・ラサック)の猛アタックを受け困っていたところを、グレイに助けられる。そのまま成りゆきでグレイの高級ペントハウスに泊まったアナは、ついにグレイと愛を確かめ合う。しかしグレイはあろうことか秘密保持の誓約書と、自分と付き合う条件として、ある“契約”を持ちかけてきて…。

原作未読の人間からすれば、なるほど前半はスリリングで観応えがあった。
純粋でおっちょこちょいな女子大生アナとイケメンの大企業CEOのグレイという二人の、少女漫画のような格差恋愛が展開。ヘリで移動し、グライダーで優雅に舞うグレイの財力にものをいわせた大スケールのアピールに、メロメロになるアナ。でもグレイはどこかミステリアスで、振り回されてしまう。
かようにベタベタなシンデレラ・ストーリーに、普通なら「勝手にやってろよ」となるところだが、本作の場合は全てがひっくり返る不穏な雰囲気に包まれているのだから眼が離せない。このピンと張りつめた緊張感がいつ破裂するかの興味に、グイグイ引き込まれた次第である。

そして、明かされるグレイの秘密。有名小説なだけにバレバレではあろうが、一応伏せておく。その嗜好の描写は、さすがにメジャー映画なので随分とソフト。女性監督らしいオシャレなタッチで、えげつなさは全然ない。愛好者の方からは失笑をかうかもしれないが、むしろよくやっていると思う。エロに関しては、女性はもちろん男性もそこそこ満足できるラインには達していよう。(バラエティあふれる巨大なボカシには心底興ざめであったが…。どうにかならなかったのか)

何より、アナ役のダコタ・ジョンソンとグレイ役のジェイミー・ドーナンのお二人が、体当たりの演技をみせており、好感度大。
祖母はディッピ・ヘドレンで、メラニー・グリフィスとドン・ジョンソンの娘である芸能一家出身のダコタ・ジョンソンの可憐さに、眼が釘付けであった。惜しげもない度胸のよさに拍手喝采。明日のスター誕生といってよかろう。

ただココからが問題である。当シーンから緊張の糸がプツリと切れて、ダレにダレてしまった。もう急激につまらなくなる。本来は、この時点からこそが本番であったと思う。
フィーリングで理想の相手に出会ったと思いきや、それぞれに求め合うものが異なる残酷な現実。それがロマコメでボカしてきた、ズバリ、性癖の問題であるのがミソ。多かれ少なかれ、カップルや夫婦がぶち当たる壁の象徴でもあろう。好きだけど、受け入れられない。感情と現実にどう折り合いをつけていくのか?そこをカリカチュアライズして、官能系にコーティングしたのが、本作の味である。(でも“マミー・ポルノ”という名称は、大げさだと思うが…)いわば、ティーン小説の進化系とでもいおうか。契約書をめぐるグダグダや、グレイがそうなるに至った過去の経緯など、たいした問題ではない。この衝突のドラマが、メインである筈である。

にも関わらず、本作はその辺りが一向に進行せず、ダラダラした挙句、途中でサービス・シーンを挟んでお茶を濁す始末。そして、アナとグレイの服従者と支配者の立場がいつしか皮肉にも入れ替わり、ようやく核心に近づいたと思ったら、「ここで終わり!?」とハシゴが外されたようにエンドロールが流れる。しばし呆然とした。2時間、一体何を観せられたのか、と。一本の作品として、およそ成立していまい。

おそらく「次作に続く!」ということなのだろうが、だったら「パート1」と銘打っておいてほしい。(原作は3部作だそう)昨今、こうした悪徳宣伝方法が多々あるが、ちと度が過ぎていよう。
くれぐれも被害に合わぬよう、お心積もりを。


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