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Channel: 相木悟の映画評
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『悼む人』 (2015)

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死生観を問いかける異色ヒューマンドラマ!



死とは生きる者にとってどういう意味をもつのか?あらためて件の命題に心を揺さぶられる異色作ではあるのだが…。
本作は、08年度第140回直木賞を受賞した、天童荒太の同名小説の映画化。監督と脚本は、12年に当作の舞台版を成功させた大森寿美男と堤幸彦だ。堤監督といえば、同じ原作者とのタッグ作『包帯クラブ』(07)は個人的に名作であった。
9.11のテロをひとつのきっかけに、本書を執筆した天童氏。それが時を経て、どう装いも新たに原作のテーマを今の世に問うたのか?堤監督の作品への入れ込みようには並々ならぬものを感じ、期待していたのだが、はたしてどんな仕上がりに…!?

不慮の死をとげた人々を現地で悼むべく、日本全国を放浪している青年、坂築静人(高良健吾)。ゴシップ記者の蒔野(椎名桔平)は、ある事故現場で静人と遭遇。静人に興味をもち、取材を開始する。すると静人の実家では母親の巡子(大竹しのぶ)が末期ガンを患い、死期が迫っていた。
一方、静人は旅先で、自殺願望のあった夫(井浦新)を誘導されて殺害し、服役を終えたばかりの女性、倖世(石田ゆり子)と出会う。自ら手にかけた夫の亡霊に悩まされる倖世は、吸い寄せられるように静人の旅に同行し…。

戦争末期の1945年、8月5日から6日にかけて愛媛県今治は空襲にさらされ、多大な犠牲者を出した。現在、8月6日には原爆を投下された広島において、平和のメッセージが毎年発信されている。今冶が一般に取り上げられることはない。
この状況に関する劇中エピソードが示すように、世の中にはニュースで報道されない不遇の死がたくさん存在する。
そして、人は大切な人が亡くなっても、その死を忘れてしまう。
死者は生者の幸せを望んでいるというのは、生者の勝手な言い分なのではないだろうか?でも全ての命を平等に、悼むことはできない。それでも劇中の静人は巡礼者のように旅を続け、事件や事故現場で死者について情報を集めた上、膝をついて祈る。自らの眼につく範囲の死をいつまでも心に留め、悼んでいく。
彼がそうするに至った経緯は語られるものの、その行為が正しいかどうかは彼自身も分からない。そこを明らかにしていく展開にもならない。静人を通して、人が当たり前に折り合いをつけている死生観を本物語は揺さぶっていく。

よって、主人公は静人ではなく、周囲の人々である。
死者に眼を向けるばかり、静人自身の人生を犠牲にしている罪を問うのが、末期ガンを患う母と、静人の存在により婚約者と別れた身重の妹、美汐(貫地谷しほり)の家族パートだ。と同時に、死にゆく母と、生まれてくる新しい赤ん坊という連綿とつらなる命の輪が描写されていく。

DVにさらされ続けた悲惨な人生により、絶望の淵にいる倖世と、同じく父親との確執から世をスネて、やさぐれている蒔野。倖世は亡き夫を、蒔野は断絶していた父親を悼み、結果的に二人は静人の影響で心を浄化される。
その顛末は、物事の見方の柔軟性を説いているのだと思う。死と向き合い、凝り固まった概念を違う視点でほぐし、生者と死者の人生を今一度考え直してみようと。そこから時に“許し”が導き出され、死が生者の再生につながることもある。
それが答えがひとつではない本作の提示する、“悼み”の意味なのだと僕は受け取った。何かと殺伐としてきた現代に、当テーマはより一層響くことであろう。

しなやかな所作が印象的な静人役の高良健吾は、誠実な雰囲気を身にまとった本役にピッタリ。
倖世役の石田ゆり子の薄幸で危うげな美しさも、ますます磨きがかかっており、凄みすら感じさせる。
静人に疑いの眼差しを向け、化けの皮をはがぞうとする蒔野役の椎名桔平のグレ加減も絶妙である。
母親、巡子役の大竹しのぶの熱演も然り、皆、迫真の演技で圧倒されんばかりである。

かような役者陣を受け止める自然豊かな映像も、厳かで格調高い。
それだけにストレートな表現で話を紡いだ方がよかったように思う。少し演出がクドすぎやしまいか。いちいちその作為性がノイズになった。特にクライマックスの幻想性には辟易。気合が入っているのは分かるが、本作に余計な装飾は必要ではなかった。
う~ん、もったいない!


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