世の不条理に真正面から立ち向かう裁判ドラマ、立志篇!
役者陣と製作陣の直球の熱意に圧倒される、実に観応えのある力作であった。
本作は、ベストセラー作家、宮部みゆきが集大成と位置付け、執筆に9年を費やした単行本三巻にわたる巨編ミステリーの映画化。2部作の前篇だ。メガホンをとったのは、『八月の蝉』(11)等、骨太な名作を放つ正統派の成島出監督。配役は有名役者に頼らず、メインとなる中学生役を大規模オーディションで新人を選ぶといった昨今の邦画界では珍しい本格志向。期待を裏切らないその誠実な姿勢は、好感度大である。
これまであまり映画化作品に報われていない宮部女史。ついに名作誕生なるか!?結果を見届けるべくスクリーンに臨んだのだが…。
1990年、クリスマスの夜。城東第三中学校2年生の生徒、柏木卓也(望月歩)が校舎の屋上から転落死する事件が発生。警察は自殺と断定し、ひとまず事態は収束する。ところがそこに、柏木卓也は自殺したのではなく校内の札付きの不良グループ、大出(清水尋也)ら3人に殺されたとする告白状が関係者に届く。さらに担任の森内恵美子(黒木華)が、受けとった告発状を破棄した疑いをかけられ、そのことを投書により嗅ぎつけていたマスコミの報道が過熱。学校の対応も後手にまわり、混乱に拍車がかかる。
そんな中、父(佐々木蔵之介)が刑事ということから告発状をうけとっていた藤野涼子(藤野涼子)は、柏木卓也と小学校時代に同級であった神原和彦(板垣瑞生)と出会う。神原と柏木卓也に対するある印象について共感した涼子は、死の真相を明らかにするべく生徒主導の学校内裁判の開催を決意して…。
とかく長大な原作を二部作とはいえ、どう圧縮したのか?やはり一番気になって不安がよぎるのはココであろう。本作の場合、原作では主役級であった人物のエピソードを潔くカットする等、ピックアップする人物を大胆に絞り、改変整理する作業の他、原作に散りばめられたミステリー色を排除。宮部女史が語っている通り、真相は早い段階でわざと察するように出来ており、ミステリーとしてはもともと弱い。ゆえに謎を解くというよりも、端から人間ドラマに重きをおく今回のアプローチは大正解であったと思う。
(ただ予告編や宣伝では、相変わらず「暴かられる驚愕の真相!」といったミステリー風味で煽っている。興味を惹きたい意向は分かるが、商売っ気が見え見え。清廉な本作の唯一の残念点である)
ソロモン王は、神託を受けて人を裁くことを許された人物であり、そうした正義と権力を持つものが、嘘をついている現状、いわんや現在の社会、学校の危うい現状をタイトル『ソロモンの偽証』は表している。
劇中で発生した中学生の自殺事件は、表向きの解決には至っており、実はその点に間違いはない。本作はそこを覆すドラマではないのである。
事件の裏では、直接的かつ間接的に“いじめ”や“家庭問題”にさらされる種々雑多な人間の感情が渦巻いており、偶然が重なってメディアを巻き込んだ大騒動に発展。果ては、無垢な生徒が犠牲になる不幸な事故をも引き起こしてしまう。
そして生徒たちは右往左往する大人たちをよそに、自らの力で自分たちが納得する真相を導き出そうと裁判に立ち上がる。
世の中では、様々な問題をどこか曖昧なままに捨て置き、突き詰めることなく見て見ぬふりを決め込み、罪悪感から眼をそらして皆生きている。世界の何処かで起きている紛争を他人事に眺め、未来に悲劇の種を蒔く可能性のある法案に対し、反対は口にすれどもデモにいかない。
劇中、根拠のない風聞にまみれ、物的証拠がない逆境の中、疑念に必死で向き合う中学生たちの純粋な姿は遍く胸をうとう。
かようなテーマに本作は奇をてらわず、ストレートに取り組んでおり、上記したごとく何といってもオーディションで選ばれた若き役者陣の瑞々しさに襟を正される。こんな聡明な中学生いるかよ!といった突っ込みも封殺だ。
代表格である主人公、藤野涼子役を射止め、役名を芸名にする“早乙女愛”方式でデビューする藤野涼子の存在感に圧倒される。お世辞にも上手いはいえず、表現もワンパターンで固い。だが、ひたむきさが伝わってきて理屈抜きに観る者の心に迫り、本作を牽引していく。
若手陣のサポートに徹する実力派を集めた大人の俳優たちも清々しい。
決して現在のアイドルや若手役者が悪いという訳ではなく、これらはおそらく造り手の意識の問題なのだろう。
いうまでもなくタイトル通り、本作は前篇であり、いわば準備篇。物語の本番は裁判篇となる後篇となる。
SNSや携帯電話のない時代だから成り立った本設定が投げかけるメッセージ。どんな些細な事件の裏にも、大勢の人間の感情が絡み合っている真理。そして原作執筆中に顕在化した事なかれ主義の学校の不祥事といったタイムリーな話題。…等々、社会問題を考えさせられ、エモーショナルな思春期のドラマが錯綜する後篇への期待は尽きない。
出来れば前後篇、一気に観たかった!
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング
役者陣と製作陣の直球の熱意に圧倒される、実に観応えのある力作であった。
本作は、ベストセラー作家、宮部みゆきが集大成と位置付け、執筆に9年を費やした単行本三巻にわたる巨編ミステリーの映画化。2部作の前篇だ。メガホンをとったのは、『八月の蝉』(11)等、骨太な名作を放つ正統派の成島出監督。配役は有名役者に頼らず、メインとなる中学生役を大規模オーディションで新人を選ぶといった昨今の邦画界では珍しい本格志向。期待を裏切らないその誠実な姿勢は、好感度大である。
これまであまり映画化作品に報われていない宮部女史。ついに名作誕生なるか!?結果を見届けるべくスクリーンに臨んだのだが…。
1990年、クリスマスの夜。城東第三中学校2年生の生徒、柏木卓也(望月歩)が校舎の屋上から転落死する事件が発生。警察は自殺と断定し、ひとまず事態は収束する。ところがそこに、柏木卓也は自殺したのではなく校内の札付きの不良グループ、大出(清水尋也)ら3人に殺されたとする告白状が関係者に届く。さらに担任の森内恵美子(黒木華)が、受けとった告発状を破棄した疑いをかけられ、そのことを投書により嗅ぎつけていたマスコミの報道が過熱。学校の対応も後手にまわり、混乱に拍車がかかる。
そんな中、父(佐々木蔵之介)が刑事ということから告発状をうけとっていた藤野涼子(藤野涼子)は、柏木卓也と小学校時代に同級であった神原和彦(板垣瑞生)と出会う。神原と柏木卓也に対するある印象について共感した涼子は、死の真相を明らかにするべく生徒主導の学校内裁判の開催を決意して…。
とかく長大な原作を二部作とはいえ、どう圧縮したのか?やはり一番気になって不安がよぎるのはココであろう。本作の場合、原作では主役級であった人物のエピソードを潔くカットする等、ピックアップする人物を大胆に絞り、改変整理する作業の他、原作に散りばめられたミステリー色を排除。宮部女史が語っている通り、真相は早い段階でわざと察するように出来ており、ミステリーとしてはもともと弱い。ゆえに謎を解くというよりも、端から人間ドラマに重きをおく今回のアプローチは大正解であったと思う。
(ただ予告編や宣伝では、相変わらず「暴かられる驚愕の真相!」といったミステリー風味で煽っている。興味を惹きたい意向は分かるが、商売っ気が見え見え。清廉な本作の唯一の残念点である)
ソロモン王は、神託を受けて人を裁くことを許された人物であり、そうした正義と権力を持つものが、嘘をついている現状、いわんや現在の社会、学校の危うい現状をタイトル『ソロモンの偽証』は表している。
劇中で発生した中学生の自殺事件は、表向きの解決には至っており、実はその点に間違いはない。本作はそこを覆すドラマではないのである。
事件の裏では、直接的かつ間接的に“いじめ”や“家庭問題”にさらされる種々雑多な人間の感情が渦巻いており、偶然が重なってメディアを巻き込んだ大騒動に発展。果ては、無垢な生徒が犠牲になる不幸な事故をも引き起こしてしまう。
そして生徒たちは右往左往する大人たちをよそに、自らの力で自分たちが納得する真相を導き出そうと裁判に立ち上がる。
世の中では、様々な問題をどこか曖昧なままに捨て置き、突き詰めることなく見て見ぬふりを決め込み、罪悪感から眼をそらして皆生きている。世界の何処かで起きている紛争を他人事に眺め、未来に悲劇の種を蒔く可能性のある法案に対し、反対は口にすれどもデモにいかない。
劇中、根拠のない風聞にまみれ、物的証拠がない逆境の中、疑念に必死で向き合う中学生たちの純粋な姿は遍く胸をうとう。
かようなテーマに本作は奇をてらわず、ストレートに取り組んでおり、上記したごとく何といってもオーディションで選ばれた若き役者陣の瑞々しさに襟を正される。こんな聡明な中学生いるかよ!といった突っ込みも封殺だ。
代表格である主人公、藤野涼子役を射止め、役名を芸名にする“早乙女愛”方式でデビューする藤野涼子の存在感に圧倒される。お世辞にも上手いはいえず、表現もワンパターンで固い。だが、ひたむきさが伝わってきて理屈抜きに観る者の心に迫り、本作を牽引していく。
若手陣のサポートに徹する実力派を集めた大人の俳優たちも清々しい。
決して現在のアイドルや若手役者が悪いという訳ではなく、これらはおそらく造り手の意識の問題なのだろう。
いうまでもなくタイトル通り、本作は前篇であり、いわば準備篇。物語の本番は裁判篇となる後篇となる。
SNSや携帯電話のない時代だから成り立った本設定が投げかけるメッセージ。どんな些細な事件の裏にも、大勢の人間の感情が絡み合っている真理。そして原作執筆中に顕在化した事なかれ主義の学校の不祥事といったタイムリーな話題。…等々、社会問題を考えさせられ、エモーショナルな思春期のドラマが錯綜する後篇への期待は尽きない。
出来れば前後篇、一気に観たかった!
↓本記事がお気に入りましたら、ポチッとクリックお願いいたします!
にほんブログ村
人気ブログランキング