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Channel: 相木悟の映画評
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『花とアリス殺人事件』 (2015)

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ちょっぴりエキセントリックな、ほんわか青春グラフィティ!



ロトスコープと岩井俊二マジックが融合した不思議な味わいを堪能できる好編であった。
本作は、日本を代表する映像派、岩井俊二監督作。岩井氏といえば、かつての伝説的活躍を顧みるに、てっきり日本映画界を変える世界の巨匠になるだろうと確信していたが、最近はすっかり後進にかすみ、沈静化。まだまだこれからの才能だと思うが、氏の起こした革命にリアルタイムで接した身としては、なんともはや寂しい限り。
今回の題材は、04年の長編『花とアリス』の前日譚を描いたアニメーション。岩井俊二とアニメ、しかも『花とアリス』がモチーフとなれば、なんとなくクオリティの想像はつく安全パイである。いや、それでも何か想像を越えた化学反応があるかもと、期待して劇場へ向かったのだが…!?

石ノ森学園中学校に転校してきた有栖川徹子、通称アリス(声:蒼井優)であったが、クラスメイトは彼女に一線を引き、疎外されてしまう。原因は自分が座った二つ並んだ空席にあるようで、床には不可解な魔法陣が描かれていた。そして「ユダが4人のユダに殺された」と噂される、1年前に当席で起こった意味不明の事件を聞き、頭がこんがらがるアリス。やがてアリスの隣家“花屋敷”に住む、引きこもりの同級生、荒井花(声:鈴木杏)がユダについて詳しいと情報をえたアリスは、さっそく花屋敷に潜入するのだが…。

青春映画の続編ともなれば、難しいもの。特に役者陣が急激に齢をとる学園モノを継続キャストで成立させるのは、至難の技であろう。ましてや前日譚など、言語道断。それをアニメでやってしまおうという、ありそうでなかった試みが本作だ。ダブル主人公の声優を実写版と同じ蒼井優と鈴木杏が務めているのだから、“あの感動よ、再び”である。

物語は、アリスが花の家の隣に引っ越してくるシーンからはじまり、転校生の彼女が、花が引きこもる原因となった禁断の学園事件をさぐっていく運びとなる。
小説家をしているマイペースな母親との二人暮らしという、やや複雑な家庭環境をもつアリスは、シニカルでありながら優しく、向こう見ずで騒ぎを起こすドジな一面も併せ持つ。そんな肩の力を抜いた彼女の自然体なメンタルの強かさに、大いに癒される。

ちょっと知的で神秘の要素を絡める岩井俊二のストーリーテリングも冴え渡り、青春ミステリーとしても凝っていて観応えたっぷりだ。
ハッとするようなシーンの連続に、あらためてその瑞々しい感性に恐れ入る。例えば、アリスと花が夜の駐車場でバレエを練習する何気ない短いシーンが、うっとりするほど印象深い。

アリスが花と出会い、成りゆきでちょっとした冒険にかり出され、いつもとは違う景色に遭遇。知らない街の夜といった子供時代の小冒険の空気が心地良い。それから何となく友達になっていくプロセスもまた共感度大で、まさに『花とアリス』ワールドのエピソード・ゼロである。
個人的には、『生きる』(52)にオマージュを捧げたアリスと見知らぬ老人が触れ合う一連のシークエンスに胸打たれた。10年前に実写版を観た時と比べ、アリスをみる眼線が老人よりになっている事実に驚愕。アリスの眩い若さについ眼を細める現実を突き付けられた次第である。岩井俊二、意地悪である。

実写で撮影した映像を、セル画にトレースするアニメ手法ロトスコープは、動きが自然でセリフのアドリブ感も含めて、実写を観ているような錯覚をしてしまう。でも、なめらか過ぎて、これはファンタジーやアクションには向くまい。むしろ大人のドラマ分野には、3DCGより威力を発揮するように思う。新しい大人アニメ・ジャンルの開拓に期待がかかる。
本作に関しては、そうしたリアルにしてちょっとファンタジー要素が入っている岩井俊二の世界観に合っていた。でも、アニメならではの“らしさ”もちゃんとあり、水彩風の景色や、コミカルな表情、ギャグ丸出しの脇キャラなど、アニメならではの味であろう。
違うフィールドを自分に引き寄せ、見事に使いこなしてしまうのだから、岩井俊二、恐るべし!である。

とはいえ、本音としては実写世界でがんばっていただきたいもの。新作を期待しています。


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